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SPREEE by sprayer Vol.2:Live Report

音楽ディストリビューションサービス・sprayerが主催する音楽イベント『SPREEE by sprayer Vol.2』が、2月19日に東京・下北沢THREEにて開催された。

「馬鹿騒ぎ」を意味するspree(スプリー)とサービス名のsprayer(スプレーヤー)を掛け合わせて名付けられた『SPREEE(スプレー)』。第一回は昨年12月11日に同じく下北沢THREEにて開催され、Acidclank(solo set)、JADHU、QPLO、Wang Dang Doodleが出演。バンド、ユニット、ソロと多様な形態のアクトが、ダンスミュージックを共通言語として刺激的なパーティーを作り上げた。

続く第二回に集ったのは、futures、Sigma-T、やさしいみらい、Ochunismというラインナップ。ジャンルやシーンを超えたアーティストたちが心地良い揺らぎを生んだ一夜をレポートする。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Photo:鎌倉真希(@kamacrascope
Edit:sprayer note編集部



やさしいみらい

開演時間の19時ちょうどになると客電が落ち、SUPER BUTTER DOG「FUNKYウーロン茶」が流れる。そのオリエンタルな響きに導かれて登場したのが、横浜発のラップ&ボーカル・ニューミクスチャーバンド、やさしいみらいだ。サポートメンバーを含む7人が所狭しとステージに並ぶと、それだけでこれから鳴らされる音へのワクワクが高まってしまう。

松本レン(Vo)が「初っ端からブチ上げて行こう!」と語り、一曲目に繰り出されたのは「DISCO」。ドープなベースラインが先陣を切り、キーボード、ドラム、サックスが順に重なっていくことで、寒空の下からライブハウスに逃げ込んできたばかりのオーディエンスを少しずつ温めていく。

驚かされたのは、松本レンと夢句(Rap)という二人のフロントマンの絶妙なバランス感だ。夢句がメリハリのあるデリバリーのラップで楽曲を転がしたかと思えば、松本レンのアンニュイなボーカルが空間を弛緩させる。ともに黒いジャケットにニット帽を合わせながらそのシルエットは異なっているように、二人のスタイルは時に重なり合いながらそれぞれの個性を際立たせていく。夢句は曲中で対バン相手をネームドロップするフリースタイルを披露するなど、そのスキルと余裕を存分に見せ付けていた。

どこか愛嬌を感じさせるサウンドの「知らないあの子」では、メンバー同士も自然と笑顔を交わす。そんな微笑ましい場面を目撃して、「これが"やさしいみらい"か!」と勝手に腹落ちしてしまった。ライブ当日の2月19日にリリースされた「雨」では、小泉至(Dr)と松本カイ(Ba)がミドルテンポのビートを刻み、自己主張しながらもリズム隊に寄り添う鈴木悠太(Sax)のソロに歓声が上がる。

「19時も回って、夕食時になってきました。お腹空いたね」という前口上から披露された「回鍋肉」は、ナツナ(Key)の危うい音色をアクセントとしながら色気たっぷりにグルーヴを蠢かせ、やがてロックなカタルシスへと至る。それまでバッキングに徹していた(Gt)が感情を表に出したギターソロを演奏する姿が印象的だった。

夢句がフロアに降りてバースをキックした「少林」を挟み、ライブはクライマックスへ。約6分の哀愁漂うミドルナンバー「blackout」がじんわりと心の隙間を埋め、やさしいみらいのステージは幕を閉じたのだった。


Sigma-T

15分間の転換時間の後、ステージにはマニピュレーターのKazuma V.MoralesとDJのヒラテマリノがスタンバイ。フライトアナウンス風のナレーションが、フロアの期待を煽る。「ベッドが似合うチルポップ」を掲げるラッパー・Sigma-Tが現れてプレイされた一曲目は、ダンサブルな「STAR」だ。ステージを左右に往来しながら、オーディエンスとの距離感を詰めていく。

そのままシームレスに「全ての悩める人たちへ - Hizuo Remix」へ。UKガラージなトラックを軽やかに乗りこなしながら、ラップとメロディを自在に操りその曲名通りにあらゆる不安や悩みを優しく包み込む。トラックを再生してのライブではあるものの、『DMC JAPAN DJ CHAMPION SHIPS 2024』シングル部門準優勝の実力者であるヒラテマリノによるスクラッチが、リアルタイムな即興性を加えていて刺激的だ。「Fragrance (Cosmos)」では、太いキック&ベースと雲の上に浮かぶような歌声の狭間にリスナーを招き入れる。

一息ついたSigma-Tは、改めてオーディエンスに「めちゃくちゃ寒い中、来てくださりありがとうございます」と感謝を述べる。さて、ここからが今日のライブの見所だ。「初めてのフルバンドセットで、sprayerさんに恩返しをできたら」と4人の追加メンバーを呼び込み、ネオソウルなフィーリングを湛える「Secret Princess」からライブは後半戦へ。先ほどまでのクラブライクなサウンドから打って変わって、ドラム・ベース・ギター・キーボードが加わったオーガニックなグルーヴが、フロアの足取りを軽くしていく。

ゴスペル風のコーラスが印象的な新曲「Good Golden」ではバンドの音数を絞るパートでタイトなラップが展開されるなど、そのコンビネーションは盤石。どことなく大人の色気を漂わせる「融解」から、とある少年の冒険を描いた「LOADING」まで、Sigma-Tの描く物語は実に自由で、それはまさにベッド・サイドから世界のどこまでも飛んでいける夢の中のよう。

自らのラップで筋肉を揉みほぐすように、次第に笑顔が増えていったSigma-T。ラストは「晩餐会」でサンプリングやスクラッチと生演奏が交わるミクスチャーなスタイルを提示し、今後の期待も高まるハイブリッドなチル・ポップを体現してくれた。


futures

スペーシーなシンセのリフレインが、下北沢THREEの壁も天井も少しずつ薄れさせていくように、壮大な世界観を築き上げていく。鈴木メイ(Ba)がヘッドレスベースから繰り出す低音が地を揺らす。ライブが始まって間もない段階から既にfuturesの"City Hip Music"に魅了されてしまっていた。オープナーはダビーな「crazy future」。楠野遼(Vo)の歌声は耳にへばりつくような粘度を持ちながら、それでいて彼の佇まいはカラリとしている。サイケな音像でオーディエンスを酩酊させつつ、楽曲は中盤から8ビートに展開。長い時間をかけてボルテージを高め、地平を超えてみせる。

続いては、やや熱を冷ましての「eel valley street」。メンバー全員がマイクに向かって歌うフレーズは、"いつものように 終わらないミュージック"。ああ、その通り。いつまでも終わらなければいいと思う。そんな幻想を引き裂くように鋭い刹那的なギターストロークが、切なくも痛快だ。楠野が「身体が温まってほぐれるように、みんなで揺れましょう」と投げかけると、レゲエ色の濃い「Long Night Out」へ。欲しいところで鳴ってくれる裏打ちのキーボードが心地良い。

来る新作EPからの新曲だという「tokyo owls」では、スペシャルゲストとしてやさしいみらいから夢句(Rap)をフィーチャー。「ライブ、最高でした!」(夢句)→「まだやってます」(楠野)というシュールなやりとりから、両者のリラックスした関係性が伺える。その曲名にふさわしい都会的なコードワークに夢句のラップが重なった瞬間、脳裏には「令和版『今夜はブギー・バック』」というフレーズが浮かんだ。

最後に楠野はフロアに向けて、「どんどん音楽を聴いて、幸せになりましょう」とメッセージ。「嘘つき」は、この日のセットリストの中で一際歌心を感じさせるレゲエナンバーだ。生のビートの中に織り交ぜられるデジタルなタムの音色が時代感覚を錯誤させ、それと引き換えにメロディの普遍性を際立たせる。最後の音が止んだ後も、ディレイしたスネアがどこかで鳴り続けているような気がした。


Ochunism

この日のトリを務めるのは、関西発のストレンジダンスロックバンド・Ochunism。頭には黒い羽根、グレーのスウェットという凪渡(Vo)の身なりはエフォートレスだが、歌声は実にソウルフルだ。「rainy」の、雨に打たれながらも前進を続けるような、弱さと決意を同時に湛えるボーカリゼーションで会場を掌握。kakeru(Ba)のここぞという場面で前に出るスラップフレーズも楽曲を盛り立てる。

勢いそのままに、アグレッシブな「Zero Gravity」へ。okada(MPC)によるフィンガードラムでのトラップビートからイクミン(Dr)による四つ打ちのダンスビートへとバトンが渡され、凪渡も臨機応変に対応してみせる。彼らの躍動するグルーヴは確かにロックバンド的だが、同時にダンスミュージックやHIPHOPを経由した最先端のポップスが自然に内面化されていて、その二面性こそが「ストレンジダンスロック」の正体なのではないかと直感する。凪渡は、高速フロウでクールに楽曲を乗りこなしながら、野性的なシャウトでオーディエンスの理性の皮を強制的に引き剝がしていく。

凪渡曰く素直な気持ちを乗せた曲だという「GIVE ME SHELTER」は、会場で煌めくミラーボールが映えるダンスチューン。"ガラガラのクラブで踊りたい / 人混みが苦手なんだ"と、ありのままのダンスを肯定するリリックは、きっとフロアでいくつもの静かな共感を生んでいたことだろう。その孤独感を、「I Need Your Love」で淡い恋心に接続。ハートウォーミングなアンサンブルを展開しつつ、ブレイクではロックな音色で瞬間的に感情を爆発させ、一筋縄ではいかない恋模様を巧みに描いていた。

本編を締めくくったのは、3月5日に配信リリースを控える最新楽曲「I Wanna Rock」。"足りないものが僕を作ってんだ"という歌い出しが印象的な、何かを欠いたからこそ歌えるポジティブなナンバーだ。ストレートなバンドサウンドと凪渡の伸びやかな歌声が音楽を愛するすべてのオーディエンスを祝福し、メンバーはステージを後にした。

アンコールに応えて5人が再登場すると、イクミンが「アンコール、ぶちかまそう!」と発破をかける。怪しげなギターフレーズが中毒性抜群の「SHOUT」で、凪渡はがなりからハイトーンのシャウトまで大暴れ。一切の余力も残さない怒涛のパフォーマンスだった。


ポップス、ロック、HIPHOP、レゲエ、ダンスミュージックetc…ジャンル名を挙げるのも野暮なほどに自由な感性で、音楽に身を浸す快感をプレゼンテーションしてくれた4組。『Vol.1』と合わせて、少しずつ『SPREEE』というイベントのカラーが見えてきたように思う。

さて、『Vol.3』は4月23日、同じく東京・下北沢THREEにて開催。BYOKA、Rip van cats、ニシ ナオキ、ベルマインツの四組が出演する。次はどのような出会いが待っているのか、期待が膨らむ。

ライブ情報:SPREEE by sprayer Vol.3

出演
BYOKA、Rip van cats、ニシ ナオキ、ベルマインツ

公演日
2025年4月23日(水)

会場
下北沢THREE

公演時間
開場 18:30 開演 19:00

チケット代
ADV ¥2,400(+1D)/U20 ¥1,400(+1D) DOOR ¥2,900(+1D)

取り置き
https://forms.gle/4zcH4SMMg6XJD6fs5

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