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インセル解脱倶楽部

まず小生の話をしよう。それは過去の話である。季節は春、桜の散る頃。その夜、小生はトボトボとそこら中から光がでらでらとしている渋谷という街にいた。左手にはコンビニのレジ袋、その中にはレッドブル。特に何か徹夜でのゲームとか、創作活動とか、映画鑑賞とか、そういった用事は一切ない。だが、小生のレジ袋にはレッドブルがあった。

そんな時であった。足元に落ちている一枚のチラシが目に入った。

『今の自分を変えたい人!私の修行を受けて、解脱をしませんか?    インセル解脱倶楽部会長:シッダールタ』

それを見た時小生は感じた。そこに行かねばと。

普段の小生ならば絶対にそのような事はしないはずなのに、この時の小生は、何故か「インセル解脱倶楽部」の会場へと行こうと思ったのだ。というよりも、そこへと行かなければならないような気がしたのだ。

そして小生はチラシの地図を頼りに、会場へと走った。

走った。

走った。

そして、着いた。

会場は館だった。もうすっかり廃屋と化し、所々に塗られた塗装が剥げていた。

館の周辺には、先程小生が走ってきた道以外には、木しか無かった。

館を囲むように所狭しと生える、木、木。

それに小生は圧倒され、涙を流していた。この頃にはもう、あの光だらけの街がすっかり嫌になっていた。左手に持っていた、レッドブルの入ったレジ袋がいつの間にか無くなっていた事には、この時に気がついた。

小生は館へと入った。館に入ってすぐにはだだっ広いロビーがあり、そこから横一列に幾つか並んである扉がホールへと通じているというのが、この館の大まかな間取りであった。

ホールには、小生と同じような、絵の女のポルノで珍棒を擦り、射精するような日々を送っていそうなインセルばかりがいた。

小生はホールの中の一席に座った。すると、隣にいたインセルが話しかけてきた。

「貴方って、今日が初めてですか?」

「えぇまぁ、そうですね」

小生が答えると、そのインセルは椅子から立ち上がり、叫んだ。

「オイみんなァ!遂に来たぞォ!新規会員だァ!祝え祝え!こいつをシッダールタ様に合わせてやれ!」

インセルが叫んだ後すぐに、小生の元には見るからに強そうな「漢達」が来た。そして漢達に連れられ、ホールの地下にある部屋に案内された。

そこに、彼はいた。

「やぁやぁ、ワタシはシッダールタで、シャカだ。シッダールタと呼んでくれ。ところで、アナタは新規会員だね?ウン、要件は分かっているさ。自分を変えたいんだろう?」

小生は答えた。

「そうです、シッダールタ。小生はこの、弱い自分を変えたいんです」

「ウン、良い良い。ならば、それ相応の修行を積む必要があるが、良いかな?」

「是非お願いします」

ほとんど無意識での返答だった。

にかりとシッダールタは笑った。

そしてこの日から俺の、自分を変えるために修行を積む、血に彩られた日々が始まった。

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