短編小説 出目金
その男ははっきり言って不気味であった。
何が不気味かと聞かれたならば、恐らく一回聞かれただけでは何が不気味なのか、私が判別することは不可能だ。
だが、それが二回目ならば、判別は可能だ。
眼鏡だ。眼鏡がたまらなく不気味なのだ。
どう不気味なのかと言えば、丸いのだ。
それも、人が形成したのよりも、機械が形成したのよりも、ずっとずっと真円に近い形をしていた。あるいはもう、真円なのかもしれない。
ともかくそれが私の目には気味悪く移ったのだ。
そんな男と、私はバッタリ道で出くわしてしまった。正直、私はその男のあまりの不気味さに、早く家に帰ってしまいたいと思ったのだが、不運なことに、その男が私に話しかけてきたのだ。
「その眼鏡って、度はどのくらいなんですか?よければ見せて頂けませんか?」
それは、私のような眼鏡かけにとっては、他愛のない、日常的なやりとりだった。
だが、それは仲のいい人同士がやることであり、私とその男のような、偶然バッタリ出会った人同士がするべきやり取りではない。
「すみません……これ、度は入っていないんですよ」
なので、その場しのぎの嘘をついた。
「嘘ですよね?レンズを見ればわかります」
バレてしまった。
こうなっては仕方がない。自分の眼鏡をその男に渡し、その男の眼鏡を私が受け取らなければならない。
そうして私達は、お互いの眼鏡をかけた。
度は私の物と、一切変わらなかった。
それからその男は用が済んだのかその場を離れ、逃げるように自分の家へと帰った。
帰っている途中、ふと目元に違和感を覚えたので、帰ってすぐさま洗面台にある鏡を見た。
俺の目は腫れ上がり、眼孔から飛び出していた。
それはまるで、出目金の様であった。
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