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どうして英語ってこんなに難しいの?: (17) 日本語に存在しないRとL

アルファベットのRとLは、日本語には存在しない音であるために、日本語話者には英語スピーキングにおける最難関の問題であると言えるでしょう。

世界中に英語話者はたくさんいますが、日本語はあまりにも欧米の言語とは異なるので、日本語話者には英語は余りにも難しい。ドイツ人やオランダ人やデンマーク人には英語なんて簡単です。東京の人が鹿児島弁や福井弁を学ぶようなもの。アクセントの違いは短期間必死に練習すれば馴れます。語彙の違いもさほどのものでもないし。そんなものですよ。

日本語話者がマオリ語やサモア語の正しいイントネーションを学ぶのは非常に簡単。日本語そのままのリズムで話せばいいだけですから。英語話者にはこれがめっぽう難しい。わたしがマオリ語を喋るとネイティブそのものです。

太平洋の言葉が国際語だとすれば、こんなに苦労しないのですが。

英語を英語たらしめるThは無論、Thを母語に持たない人たちには誰にでも難しいけれども、ThをSと混同してしまう程度では、英語ネイティブにとってもまだ理解しやすい。

例えば、Enthusiastic(神がかりなという言葉)。ThuをSuと発音してもアクセントさえあっていれば、多分ほとんど問題なく通じます。ThirstyをSirstyと発音しても、喉が渇いたと理解してもらえる (多分笑)。

でも Religion(宗教)とかThrill(スリル)は絶対に通じない。英語ではRとLは全く別の音で、これを混同すると、相手には絶対に分かってもらえない。

ラ行の音は大和言葉ではない


ラリルレロのカタカタの音を英語に置き換えようとすると、この場合、カタカナの音が「R」なのか「L」なのか、まず分からない。

適当に置き換えても、日本語のラリルレロは英語耳を持つ人にはD音のダジヅデドに似た音だと思われるそうです。だからカタカタ式で発音すると、第二音節にキチンとアクセントを置いても、「Didijong」と聞こえてしまうかも。

ラ行の言葉は基本的にみんな外来語。大和言葉のラ行の言葉はあるのでしょうか?

実は存在しないのです。

漢字にしても、ラ行の音は全て音読み (中国大陸より伝わった読み方、いつの時代に伝わったかで、漢音と呉音がある)。

純正日本語に思える、来年の「ライ」や林檎の「リン」、瑠璃の「ルリ」、恋愛の「レン」に路傍の「ロ」。

蝋燭ろうそく辣韮らっきょう獺虎らっこ喇叭らっぱも、やはり外来語。

しりとりでラ行の言葉を見つけるのが最も難しいのは仕方がない。日本古来の言葉にはラ行の言葉は存在しなかったのですから。しりとりに勝つにはラ行の文字で終わる言葉を探してくることですね。

片仮名カタカナの地名

英語のRとL問題の場合、訳の分からない和製英語はともかく、外国語の人名地名がカタカナの場合はもうお手上げです。

例えば最近のイギリスの首相、ブレア、ブラウン、キャメロンなど、どの名前にもラ行の音が入っています。カタカナしか知らないとまず相手に理解されない。Blair, Brown, Cameronですが、BLやBRの子音連結の音は難しい。

アメリカの大統領、ルーズベルトは?リンカーンは?外交官のライシャワーアは?

Roosevelt に Lincoln、そして Reischauer。RとLなので、同じラ行。

またファーストネームも、ラルフ Ralph、レイモンド Raymond、レイノルド Raynold、リチャード Richard、ロバート Robert、レイチェル Rachael/Rachel、レベッカ Rebecca、ルース Ruth、ローズ Rose。

相手の名前さえきちんと発音できないかも。知っていても、RとLの発音方法を知らないと分からないとおもわれるかもしれないけと、意識してるとしていないで、相手に対する印象は大きく変わるものです。

ラリルレロの外来語は、ランジェリーとかランデヴーとかフランス語由来の音もあるし、イタリア料理のラザーニアとかリゾットとか、カタカナから元の音を再現するのは不可能です。

発音方法

初心者向きの解説には、Lの音はウの音で置き換えると良いとよく書いてあります。でも口をすぼめると、Rの音にもなる。

たしかにライトを「ゥライト」という感じで発声すると、Lightに聞こえます。ラリルレロよりはずっといい。ウの音を出すときに口をすぼめるのですが、その動作は舌を無理に上に突き上げなくても、口をすぼめることで、舌を上の歯の裏に押し当てる本来のLの音のような音を作り出してくれます。

でも喉の奥から同じ口の形で舌を動かないままに息を出すとRっぽくもなる。「ゥライト」はRight?

Rは巻き舌とよく言われますが、英語ネイティブの誰もが巻き舌を使っているわけでもないし、むしろ引き舌にした方がネイティブらしい。ほとんどの英語ネイティブはこうやって発音します。アメリカ英語特有ののぴる音にカタカナ表記できないRを入れる場合は、まず確実に引き舌です。

Rで始まる音を舌を震わせる巻き舌で発音すると、とても明瞭に響いて、誰にでも理解してもらえます。

東欧圏の人やインド英語の人はこういうのが得意ですね。外国人的ですが、誰にでも理解される非常に分かりやすいRになります。

でも一番の問題は、日本語として学んだ数多くのラ行のカタカナ文字を全て覚え直さないといけないことであると私には思えます。

英語はカタカナのおかげで難しい。咄嗟の会話で使いたくても、カタカナ語を英語で語るとき、RなのかLなのか分からないことが今でもたくさんあります。私の場合は外国語の地名を日本語でしか記憶していなかったとき、ラ行が入っているとお手上げです。

アフリカのモーリタニアという国をご存知?

どういう発音でしょう?

私は日本語で国名を知っていましたが、多分Rだろうと思いましたが、英語式のMauritaniaの正しいスペルは思い浮かばないものです。

モーリタニアは西アフリカにあります。元フランス領でイスラム教国。
国土のほとんどがサハラ砂漠なのです

南米のチリとか、ペルーとか、ペルーの首都のリマとか。

もっと有名な、きっと誰でも知っている南イタリアのナポリは?

ナポリの「リ」は?

ラ行のカタカナ、全て辞書で引いて覚え直して下さいね(答えはChile, Peru, Lima, Napoli)

Rhotacismとは?

さて日本語話者にとって難しいRとLの問題を定義できたことですので、本題に入ります。

英語話者にもLは問題ないにしても、Rはいろいろ難しい。

Lは難しくない、Rと混同しさえしなければ

Lは歌う時のラララやルンルンなど、美しい音を表す言葉(私の個人的イメージ)。

LiltとかLightとかLuminousとか、光に関連する言葉を作り出すからでしょうか。

もちろん、LoveのLでもあります。

Lは引き舌の深い音のRとは真逆の舌を上にして作られる軽い音。Rと違って口をすぼめないので、音が美しいように思えます。下の表にあるような美しい言葉が大好きですね。

Lには素敵な言葉がたくさん
音はこの文字から作られるイメージも決定するのですね

でも否定的な言葉もあり、美しい言葉ばかりでもない。Lazyとか日常語だし。

基本的に、どの文字にもポジティブとネイティブがありますね。

さて本題のRですが、Rは喉の奥の音を口の外に押し出すイメージがあります。震わせるRは犬がガルルルルと唸る音。引き舌も深い音を尽くし出すための動作で、Rは重々しい感じがあります。アメリカ式はRが深い音に思えます。

ガルルル!俺の骨に近寄るんじゃねえ!
Rの正しい発音は犬に学ぶのが一番かも。イヌの唸り声がお手本ですよ。

非常に特徴的な音。

特にアメリカ英語の伸びる音で顕著になる深い響きに憧れる方もいらっしゃるのでは。これが出来ると、英語話者らしく聞こえます。

でもアメリカ英語特有のこのR、イギリス英語では、地方方言を除けば、使われない音。

例えばカタカナのファースト。英語では「First」ですが、真ん中のRを発音することをRhoticismと言語学では呼ばれるのです。形容詞でRhotic、またはRの入っていることを名詞でRhoticityと呼びます。

イギリス式ではRが発声される時、やはり奥から押し出す感じですが、舌よりも母音のウの突き出す口の形で、舌をつぼめて音を出す感じ。一番下の参考文献に紹介した動画をご覧いただきたく思います。言葉ではどうも説明辛いですね。

イギリス英語の決まり

アメリカ英語にもいろいろなアクセントがあるように、イギリス英語にもさまざまな方言がありますが、ここでは英国の伝統において最も美しいとされる、イギリスのエリート名門校や貴族の血統を引く人たちが美しいとみなす、キングスイングリッシュ、またはクイーンズイングリッシュをイギリス英語として語ります。

日本で一般的にもてはやされているアメリカ英語と、どこが違うのか理解すると面白いですよ。

Knowledgeをノリッジというかナリッジ (酷いカタカナですが便宜上こう書きます) という母音の違いも特徴的ですが (イギリス英語の方がヘボン式ローマ字に近い)、やはりわたしの耳には一番、Rの音の有無が気になります。

さて、アメリカ英語に特徴的な延びる音におけるR音。これがあるかないかで、アメリカ式とイギリス式の違いが顕著になります。

またアメリカ式でも、ニューヨークやボストンなどでは、Rのない発音が上流階級英語として好まれるとか。King's Englishの伝統をハーヴァード大学などは重んじるのかもしれません。

イギリス英語のサイレントRには、決まりがあります。

イギリス英語の原則

Rが母音の後に現れるとき、Rの次に音がない場合(単語や文尾)や、Rの後に子音が続く場合、Rはサイレントになる

 語尾の場合

  • Mother, Father, Brother, Sister, Car, For, Your, Sir, Four, Near, Far, Stir

子音を伴う場合

  • North, Bird, Cart, Third, First, Turn, Word, Return, Stern, Whirl, Swirl

こういう単語のRは発音されません。

最初に言及したようなFirstやCar Parkなどの日常語の発音を聞くと、すぐにその英語話者の発音はイギリス的かアメリカ的か判別できます。

イギリス式では、アメリカ式のRの部分にも母音が伸びていて、母音がたくさんあって音楽的な感じです。アメリカ英語でアrやイrな音が、アーやイーがなるのです。

イギリスの上流階級英語以外でも、イギリス西部のウェールズ、南アフリカやオーストラリアやニュージーランドの英語はRはサイレント。

Non-Rhotic Englishと呼ばれるのです。

面白いのは、旧英国植民地インドの英語にはRが含まれます。

言葉は時代と共に変わり続けるもので、イギリス国内でもRを入れる地方にも移り変わりがあるのです。Rhoticity とも呼ばれます。

Rを含まない地方が半世紀ほどで縮小したのです。
ウェールズ(イギリス西部)英語 Welsh English では、
Rを入れない方言とRを含む方言とが混在しているそうです。
どちらが良いかは、どの土地の方と英語を喋りたいかで決めて下さい。
ハリーポッターが好きならば、non-Rhotic
ハリウッドやディズニーが好きならば Rhoticですね

覚えておくべき例外

さて最後にRを持つ英単語の中で最も難しいこの言葉、

日本語でアイロン。でも英語ではアイアン。
日本語ではアイアンはゴルフのクラブ。ややこしい

このややこしい単語、国際発音記号では

aɪən アイアン

つまり書き言葉のIron のRはサイレント。このRは二重母音<I>の後なので、単母音ではないので、発音されるべき。しかしながら全くのサイレント。

I-Ron

なので二音節目はロンと読みたいけれども、何故だか綴りのRは消えてしまうのです。アクセントは冒頭のアイに。

「ひどく怒る」という意味のirateのRは、しっかりと発音されます。Iris (花のアイリスや眼の虹彩) や Irony (皮肉)などでも、Rは発声されます。

日本語で、服を平らにするアイロンが、アイアンと呼ばれないのは、こうした例外を理解していなかったからでしょうか。古英語の場合は発音されていたのか気になるところです。十四世紀の英語では、KnowkedgeのサイレントKなどもきちんと発音されていたことが知られています。

また少し上級編ですが、母音で終わる単語と母音で始まる単語で文がつなげられる場合には、つなぎのRがイギリス英語では挿入されます。Linking R またはIntrusive Rと呼ばれるRです。

カタカナで書くと、
ファーアウェイがファーラウェイになり、モーアイスが、モーライスに

Four Eggsは決まりに従うと、FourのRはイギリス英語では単独の単語としては発音されないけれども、フレーズとしてはFou-(r)eggsと発音されるのです。もちろん弱い音で。

Rが語尾になくとも、母音の頭にRを付けるのがイギリス上流階級英語!
つなぎのRは優雅さを醸し出す???

アメリカ英語では当たり前と言われそうですが、イギリス式では、前の単語の語尾にRがなくても、Rが邪魔して入り込みます。だからIntrusive。

つなぎのRが上手に使えるようになると、ネイティブに近い会話が出来ますよね。

Rは日本語話者には最も難しいかもしれませんが、逆に言えば、Rを克服すればもう怖いものなし。

努力すれば絶対にマスター出来ます。

コーチがいると、なおのこと良いですが、下の早口言葉を使えば独学でRを克服できますよ。

Really Leery とかLで舌が絡まりそうですが、ローマは一日にして成らず Rome wasn’t built in a day。今期よく続けることが大事ですよ。

「ロベルタはローマの遺跡の周りを駆け回った」
Run rings around someone で誰かより優れてるという意味ですが、
ここではイディオムではなく、文字通りグルグル走り回っているという意味で笑えるのです

参考文献:

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