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【川崎フロンターレ】どこよりも詳しい2025シーズンプレビュー
〈はじめに〉
はじめまして!「Spot@Jサポ」と申します。
J1リーグ全試合のクイックプレビューの執筆と、スポーツくじWINNERの本気予想を通じて、「サッカーをより深く味わい、より楽しく共に生きる」をモットーにJリーグを堪能しています。
Xでのフォロー、お待ちしています。
川崎フロンターレのシーズンプレビューを書くにあたっての参照となるプロフィールについても簡単に記載し、本編に移りたいと思います。
筆者の略歴
●選手歴
-15年、引退済
●指導歴
-かじった程度ですが数年間
-有難いことに、S級所有でJ監督経験のある「ゾーンディフェンス」への理解の深い某指導者のアシスタントを経験しました
●川崎フロンターレに関して
-昨シーズンの全試合をウォッチ
-今季は沖縄キャンプにてTMを2試合観戦
本記事では「長谷部フロンターレ」をより深く、より楽しく味わうために、戦術的要素を噛み砕いて説明しております。
選手にフォーカスした個人プレビューも公開しますので、読み終えた後はそちらもぜひ。
前置きが長くなりました。
それでは本編どうぞ!
⑴「長谷部茂利」とは何者か?
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川崎フロンターレでもプレー経験のある長谷部茂利氏。彼はどのようにして指導者としてのスタイルを確立し、J屈指の「名将」としての評価を得たのか。
彼の監督キャリアに触れる上で、その「始まり」に触れないわけにはいかない。
2006年にヴィッセル神戸で指導者のキャリアをスタートさせた。当時ヴィッセルを率いたのはスチュアート・バクスター氏であり、コーチとして松田浩氏が支える体制だった。
イギリス出身のバクスターは、組織的な攻守を構築し、Jリーグ黎明期において「組織」と「戦術」の重要さを実践し、その価値を広げた存在だ。彼に影響を受けた指導者は数知れず。日本サッカーに大きな影響を与えた1人と言える。
松田浩もその1人。長谷部茂利がコーチとしてキャリアをスタートしたその年、シーズン途中で監督に就任した松田は「日本サッカーにおける、ゾーンディフェンスの師範」と言える存在だ。
長谷部茂利は彼ら2人について「影響は大いに受けている」と語る。
現代日本サッカーにおいても、模範として語られる機会の多いバクスターと松田浩。2人の巨匠との接点と、そこから築き上げ発展させてきたスタイルが長谷部茂利の特徴であり強みだ。
監督としてのキャリアのスタートはジェフユナイテッド市原で、当時はフロンターレでも指揮をとった関塚隆氏を支えるヘッドコーチの役職からの昇格という形で監督を務めた経緯がある。
その後、アビスパ福岡に初タイトルをもたらし、2023年にはJ1優秀監督賞を受賞した。
バクスターと松田浩に限らず、選手時代にはイビチャ・オシムの指導も受けた。ネルシーニョ、西野朗、関塚隆といった名将をコーチとして支えた経験も多い。
コレクティブな戦術スタイルの継承と、日本サッカーにおける様々な名将との共演。さらには自チームを監督して率いてきた経験値の高さ。
これらが、長谷部茂利が現在の日本人監督の中でもスペシャルな存在である理由だろう。
⑵ゾーンディフェンスの基本事項を知る
では、長谷部茂利のフットボールの根幹となる、「ゾーンディフェンス」とは一体何だろうか。
その基本を知ることで、今季のフロンターレの基軸となるスタイルの片鱗が見えてくる。
まず、サッカーには大きく分けて「マンツーマンディフェンス」と「ゾーンディフェンス」の2つの守備戦術がある。
マンツーマンディフェンスとゾーンディフェンスの違いとして、日本におけるゾーンディフェンスの父とも言える松田浩氏は以下のように語る。
「敵の位置でポジションが決まるのがマンツーマン、味方の位置でポジションが決まるのがゾーンディフェンス」
サッカーの守り方を教えてください』
ゴールを守ること、ボールを中心に守ることは共通。しかし、守備時のポジションについてはマンツーマンは敵、ゾーンは味方を基準とする。
相手選手に対し1対1で対応させるように守備者を配置し、選手個人の動きを封じることでエラーを引き出しボールを奪う。これがマンツーマンディフェンスの考え方だ。
一方でゾーンディフェンスにおいては、「ゴールの位置を意識し、一個のボールに対してチャレンジとカバーの関係を作って守る」という原則に基づく。
イメージは「イワシの群れ」。
10人の守備の網によってゴールを塞ぎつつ、ボールに対してプレッシングを行う。プレッシングの際には、プレスをかける選手と、その他の周りの選手との間の距離を変えず、「繋がり」を維持したままボールの周りに圧力をかけるのだ。
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ゾーンディフェンスの利点についても整理したい。
「1対1で止めなければいけない」というシーンを連続させず、ボールを中心に人が連動してポジションを動かし対応するので、ボールの周辺に数的優位を築くことができることが第一の利点だ。
数的優位をベースとしながら圧力を強め、相手の攻撃を窒息させるようにボールを奪っていく状況を常に作り出せることが、ゾーンディフェンスの重要な利点であり、それができていなければ「なんちゃって」ゾーンディフェンスと言える。「ただ場所を守る」ということではなく、「どこを隠し、どのように人が出ていくか」という、初期位置とスライドにこだわったシステムが必要となるのだ。
第二の利点は「相手の動きに左右されないこと」であり、これも大きな要素となる。相手がボールを動かしながら、頻繁に動き出しを繰り返しても、関係なく守るべき場所を守れる。
相手の力量や戦術への対応の必要性がマンツーマンよりも低いため、戦術的な駆け引きに負ける確率が下がる。こちらの動きを見て、それを掻い潜るようにアクションを起こして攻めてくるような「後出しジャンケン」的な攻撃に対しても、システムで守り、そのダメージを最小限にできるのだ。
マンツーマンディフェンスにおいては、その成功と失敗は、相手との力量差や戦術的なマッチング相性による部分が増え、勝利の不確実性は若干ながら高まる。相手のスキルが充分でない場合や、相手の攻撃に何らかの偏りやエラーが起こりやすい場合は、積極的なマンツーマンディフェンスは効果を発するが、安定的な勝ち点の獲得という意味ではゾーンディフェンスが定石だろう。
第三の利点は、選手の特徴や相手との力量差に関わらず、組織として守備を構築しすることができるため、安定して失点を減らしゲームプランを遂行しやすくなることだ。選手の入れ替わりや怪我などのリスクが避けられないリーグにおいて、安定した守備戦術を持っているチームはシーズンを通して、あるいは複数年を通じて安定したパフォーマンスを期待できる。
「ゾーンディフェンスがどのようなもので、なぜ優れているのか」については以上の通り。
以下では、もう少し具体的に、「選手達には何が求められているのか」について、大島僚太選手のコメントをきっかけとして考察していく。
⑶大島僚太「前と横の繋がり」山田新「距離感」というコメントから読み解く、川崎の新常識
今季初のトレーニングマッチvs琉球にての大島選手のコメントを引用する。
「今までと違う部分もある中でまだ抜けない部分もありながら、なるべく前と横のつながりを(意識して)、うまくいかない部分もありながらです」
ゾーンディフェンスでは、2トップ、MFのライン、DFのラインの3ラインが20〜25メートルのコンパクトな距離感を保つことが鉄板。その上で、上記のように「横移動」によって選手の距離感を保ちながらボールを持った相手への圧力をかけ続ける。
大島選手が「前と横のつながり」と発したことからも、この哲学の落とし込みを第一に進めていることが伺える。
そして、副キャプテンを務める山田新は以下のように語った。
「(監督から)提示されたものをより早く理解したい。そして、距離感を良くしていきたい」
これも大島と同様、「イワシの群れ」を指している発言と取れるだろう。
ゾーンディフェンスが、良いとされていながらも習得が難しいのは、「適切な距離感の維持」と「ボールへのプレッシング」を正しく両立させ、仕込める指導者が限られているからだ。
キャンプインから初の実戦で、両者からこの発言が出てきたのは長谷部監督の"イズム" がスムーズに選手に伝えられ、トレーニングが進められている証左だろう。
上記を踏まえて、もう一度ゾーンディフェンスの原則に触れたい。ゾーンディフェンスにおいて、「プレッシングはサイドハーフから始まる」という原則がある。
2トップが規制をかけ、相手のボランチへの配給を制限しながら、サイドへのパスを誘導することが起点となるが、本番はそこから。
サイドにボールが送られたタイミングでサイドハーフがプレッシャーをかけるタイミングで「制限」から「奪う」に移行するのだ。
シンプルな話で、真ん中にボールがある時は、左右どちらへも選択肢があるので相手CBに固執してプレスをかけても空転の恐れが高い。
一方で、相手のサイドプレーヤーがボールを持っている時は「横一方向(左か右か)か」「高い位置の選手にボールを送るか」、「バックパスか」の選択肢しかない。
バックパスの危険度は小さいので、今の議論のスコープから外すと、「ボールをCBに返す」か「後ろ向きでボールを受けることになる前の選手に当てる」の2択。後ろ向きの選手は、前向きの選手に比べて危険度が下がるので、プレッシャーをかけやすいのだ。
それ故に、サイドに追い込んで圧力をかけることが大事なのである。
そして、ここから読み取れる守備のキーポイントは、「前線2枚が相手のボランチへのパスコースを塞ぎ、サイドに流れたボールにサイドハーフが圧力をかける」である。
CF2枚が適切な距離感を保ち、中盤4枚のラインと距離をあけすぎず牽制をかけること。
その第1DFとなる山田と、コーチング役となる中盤の選手である大島から「繋がり」「距離感」を匂わせる発言が出たのは、戦術哲学が浸透し始めていることの現れと言えるだろう。
「プレッシングはサイドハーフから」という原則からは、マルシーニョや伊藤に期待したい役割についても浮かび上がってくるポイントがあるので、そちらはぜひ『全選手個人プレビュー』をご参考あれ。
『全選手個人プレビュー』は2/10中に公開しますので、noteおよびXをフォローしてお待ちください!
⑷新生・川崎におけるフォーメーション論
なぜ長谷部監督は、「川崎で3バックを採用しない」のか
長谷部監督のコメントや、キャンプでの前情報から4バックのシステムを採用し、アビスパ時代に採用していた3バック及び5バックのシステムをシーズン頭からは採用しないことが明らかになっている。
これには「哲学の浸透」を最優先する長谷部監督の意向が影響していると考えられる。
長谷部監督の師である、松田浩氏によると、「4-4-2が最もバランスよくピッチを埋められること、4-4-2が最も守備の基本を押さえやすい」という。
鬼木体制では、オフェンスを起点としてゲームプランを構成しつつ、攻撃時の配置ありきで守備陣形を組み立てるような傾向があった。
4-2-3-1、4-3-3、4-4-2と、フォーメーションやタレントに応じて様々な守備陣形を使ってきたため、「守備のスタンス」は状況に応じて流動的だった言える。
そのため、長谷部監督が落とし込みたいゾーンディフェンスを進める上では、守備に関する常識をアンラーニングして、「守備の原則」まず第一に仕込んでいく必要がある。
そうなった際、松田氏が触れるように、現在トレンドとなっている3バックの陣形よりも、4バックを基本として「原則の浸透」を進める方が、新しい挑戦ゆえのエラーを減らし、イズムを正しいプロセスで落とし込むことができるのだ。
「守備的」というイメージから「5枚を後ろに並べた方が効果的なのでは?」と考えるサポーターもいるかもしれないが、5バックを後ろに並べるだけでは、相手のボールホルダーに対してうまくプレッシングがかけられず、深い位置まで簡単に侵入を許してしまうケースも少なくない。
「守るべき場所を正しく守る」と「ボールへのプレッシャーをかけてボールを奪う」を両立することが要であるゾーンディフェンスにおいては、4バックから習得を目指していく方が好ましく、鬼木体制からの接続という意味でも慣れ親しんだシステムからのスタートは効果的と言えそうだ。
将来的な3バック導入はあるか?(※2/10追記)
充分にあると考えられる。守備原則さえ浸透すれば、形を変えても実践する内容のスタンスは変わらない。それもゾーンディフェンスを学ぶことの良さの一つだ。
今季中に見られるかはわからないが、仮に3バックを採用した場合のスカッドについて検討してみよう。
(4バックでの編成についてはXに投稿済みかつ他の媒体でも多く語られているので省略)
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バックライン
左利きのCBを左側に置く形が想定され、丸山・車屋・神橋・アイダルの4人が候補となる。真ん中には、左右のCBとしてプレーが可能な高井や土屋が置かれる予想。右側に佐々木旭を置けば、3バックと4バックを並行して使い分けられるシステムが出来上がる。
今シーズン、佐々木旭を右SBとして計算していると思われるが、これは3バックへの移行をスムーズにする効果を持つと考えられる。どこまで狙っているのかはわからないが、3バックの右CBに佐々木を起用すると、守備時に三浦がバックラインに吸収されれば4バックでの慣れ親しんだ守備へと簡単に移せるため、試合の中で可変的に振る舞うことも可能だ。その場合、佐々木は右SB的に振る舞うことになるため、CBとSBを高いレベルでこなせる佐々木の存在は間違いなく効いてくる。
3列目(ウイングバック&ボランチ)
欠かせないのは左WBに入る三浦。攻撃においての存在感をより強めつつ、ライン際の相手ボールホルダーへの快速を活かしたプレッシングでの守備貢献にも期待できるため、現状このポジションにおいては絶対的な存在。
右のWBにはファンウェルメスケルケン際を想定しているが、4バックに移行する形ではより高いポジションでのプレーを求められるため、攻撃により特徴があり上下動やハイボールへの競り合いを厭わない瀬川の序列が高くなる可能性もある。中央に絞ってのプレーもこなせそうな野田に関しても、「偽サイドバック」的な振る舞いを期待して魔改造されるなんてこともあるか。
ボランチにおいては4-4-2の守備よりも運動量が求められることが想定されるので、橘田や河原への期待がより膨らむ。山本や大島のゲームメイクも欠かせないが、より若く運動量がある大関が守備における貢献度を増すことができれば、定位置確保に名乗り出ることも想像できる。
2列目(シャドー)
背後へのランニングやカウンター局面において脅威になれ、プレッシングでもスピードを活かせるマルシーニョはこのポジションでの起用が濃厚か。ワントップに山田が入ることを想定すると、実は意外にもロングボールを収めるのがチームで随一である家長が相方になるか。家長であれば、カウンター時のターゲットにもできる上、家長に特徴的な中央にポジションを動かしながらボールに関わるプレーも、より自然な形で実行でき、デメリットも減る。ぜひこの位置でのプレーを見てみたい。伊藤、宮城もこの位置での活躍のイメージが湧くためチャンスを得られそうだが、いまいち「ここ」という決まったポジションが見えにくいのが、基本的にはどこでも入れそうな脇坂だ。プレッシングを整えたいときは前のポジションでプレーさせるだろうし、ゲームメイクと守備強度の両方をボランチに求めたい試合なら3列目での起用となるだろう。
1列目(センターフォワード)
求められるタスクが少し複雑になるのがこのポジションだろう。マルシーニョの背後へのランニングのためのスペースを作るべく、低い位置にタイミングよく降りてきてのポストプレーも求められるが、基本的には高い位置で相手CBと駆け引きをしてチームに「深さ」を求めることが求められる。ボールの様子、チームの配置を捉え、取るべきポジションで必要なアクションをする必要がある。このタスクを違和感なくこなせそうなのは実は神田や小林。山田やエリソンができればベストだが、どちらも得意なプレーとは少し異なる。しかしながら、山田やエリソンがより高いレベルに進むには当然求められるプレーなので、出場時間をきっちり与えながら習得させていくというのが現実的な起用プランになるだろう。
3バックの考察は現時点では妄想の域を出ないが、考察することによって「佐々木旭の右SB問題」や「脇坂どこで使うか問題」といった、4バックで見られる現象に対する仮説が立つ。後の答え合わせにしかならない部分はあるが、こういったことを検討するとシーズン開幕時点での起用法を、より長期視点でも考えられるため、楽しい想像となった。
⑸鬼木体制からの「更新」と「継承」/ フロンターレの"宝" が残した遺産とは
対応したい事項
長谷部監督下で勝ち点を積み重ねていくために、留意したいポイントをいくつか触れると以下だ。
【ゾーンディフェンス導入期の課題】
・ロングボールを入れてくるチームへの対応
・ペナ脇へのボールを送り込んでくるチームへの対応
【導入→洗練の期間での課題】
・サイドチェンジが狙われる場面で、SBが予測を誤り相手のインサイドハーフを自由にしてしまい、マークを誤り侵入を許すこと
基本的には、コンパクトなラインを広げ「距離感」や「繋がり」を断とうとしてくる相手の戦術によってブロックを崩されることが想定されるため、前者2つに対しては早めに対応を進めたい。
対戦相手のスカウティングを正しく行うことと、ゾーンディフェンス自体の練度を上げていくことが解決策になり得るだろう。CBの能力次第の部分も一部存在するため、選手の能力と戦術理解度を見極める長谷部監督のメンバー選定の手腕にも注目だ。
鬼木体制での課題から「更新」できるであろうポイント
鬼木体制で課題だった、
・連動不足のプレッシングにより前線と中盤の守備ラインを簡単に割って入られること
・クロスへの対応、特にファークロスの処理
というポイントが改善しやすいのが、長谷部体制でのシステムと言える。
一つ目のポイントに関しては、ゾーンディフェンスの解説で触れた通りだ。
二つ目のクロスへの対応に関しては、ボールにプレスをかけるSB以外のディフェンスライン3人がゴールマウスの幅に立ち、ボランチの選手が溢れ球の対策をする、という形で守ることが、ゾーンディフェンスであれば可能。
この辺りは開幕の早い段階から効果を実感できればサポーターとしては安心できる。
鬼木達が残した「遺産」
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長谷部監督が就任の際、「攻撃は良い、守備は課題」(意訳)とコメントをしている。
攻撃面を見ると、昨シーズンの総得点数は66得点で、サンフレッチェ広島に次ぐ2位につけている。
失点が改善されるだけでも、長谷部監督招聘の価値はあると言えるだけの攻撃を構築した点は、わかりやすく鬼木監督が残したものだ。
上で述べたように、長谷部茂利は、川崎の課題を解決できる術を持ち合わせている監督であり、攻撃を評価するコメントからは川崎の攻撃におけるスタンスを理解している監督であることがうかがえる。
いずれは長谷部色の強いチームを作り上げていくかもしれないが、初年度となる今年に関しては「完全な解体」を進めるのではなく、選手の個性や選手に残っている「攻撃のスタンス」を理解しながら、適切なペースでアンラーニングを進めてくれる監督と言えそうだ。
それに加え、より戦術的な観点からも、鬼木監督が残した遺産が輝くと言える。
実はゾーンディフェンスには「攻撃における利点」があり、その利点の発揮において、鬼木達の残した要素が土台として機能し得る。
その利点とは「人をマークしないので、奪った時に相手との距離が近くない」=「マークをしないので、攻守の切り替え時に自らもマークされてない」こと。
そのため、奪った選手に余裕が生まれやすく、奪った後にボールを送る前線の選手がフリーにポジションをとりやすいという利点だ。
とは言うものの、「ボールを奪った後」が最も難しく、体の向きや状況、味方のサポートが混沌とする。
ゾーンディフェンスから攻撃に移り変わる時には、「奪った選手の判断」と「チームとして、狭いスペースでポゼッションができるかどうか」が、鍵になるのだ。
つまり、ゾーンディフェンスの攻撃における利点を活かすためには「スモールスペースにおける、チーム及び個人の技量」が重要であるということ。
もうお分かりだろう。
風間体制において、狭い距離感での攻撃を前提とした技術を磨いた。
鬼木体制において、その技術を活かしつつ、ピッチをより広く使い相手守備を攻略する術を磨いた。
「狭さ」と「広さ」、両面における振る舞いを叩き込まれてきたフロンターレの選手たちの持っている技術は、長谷部監督のスタイルにおいても、欠かせないものになっていくのではないか。
その意味で「長谷部監督は鬼木体制の後継者として適任である」と私は評価する。
「攻撃的なスタイルから、守備的なスタイルへ変わるのでは?」という懸念を持っているサポーターもいるかもしれない。
確かに守備を軸とする監督ではあるが、その背景には攻撃への移り変わりにおける利点や、よりロジカルに勝利に向かうための論理がある。
アビスパ時代にはトライしきれなかった、「攻撃のスタンス」に対しても川崎の選手や歴史があればトライができるかもしれない。
更なる可能性を見せてくれることに期待したい。
⑹長谷部フロンターレの成長ロードマップ
長谷部フロンターレ初年度となる今季、どのような目でチームの発展を見守るべきかについて、最後に整理をしたい。
【導入期】2〜4月
2月〜3月でポイントとなるのは①ゾーンディフェンス原則の実践と修正、②攻撃/得点パターンの模索と最低限の勝ち点積み上げ、と言える。
①に関しては言うまでもなく、今後4バック以外のシステムへの挑戦や攻守のバランスの調整を進めていく上でのベースとなる部分を、早い段階で確立する必要性がある。レギュラーだけでなく、交代枠を合わせたおよそ15人ほどのメンバーが、誰が出ても原則が崩れないような状態を目指しながら、実戦の中で出てくる守備面のエラーを調整していってほしい。
この時、どうしても守備への意識が強くなり、攻撃時の自由なアクションが無意識のうちに単調になることも考えられる。実際、沖縄キャンプでのトレーニングマッチでは、選手から守備原則を意識するコメントが多く見られ、無得点に終わったことへの言及・意識を濃くは感じられなかった。
良い攻撃をするためにも、正しい守備を早くから身につけることが求められるのは当然で仕方ないものの、タイトルを目指す上では勝ち点を稼いでいきたい。
そんな時期において、これまでの得点パターンや選手の特徴を活かしつつ、相手のウィークポイントも探りながらゴールを奪うための道筋を効率的に整理していきたいところだ。
特に、ビルドアップにおける立ち位置の整理、クロスボールへの人の入り方、カウンターでのサポートの作り方の整理などを、長谷部監督をはじめコーチ陣には期待したい。
また、良い攻撃を自信を持って行うためには、攻撃→守備へのトランジションを不安なく行える状況も必要となる。ポジションをローテーションしながら相手ブロックを崩したり、数的有利を作りながらブロックをこじ開けたりするこれまでのスタイルの利点を活かすためには、「ボールを奪われた際の陣形」を同時に整理することが、逆説的に重要になるだろう。なんせ、攻撃においてはこれまでの上積みが多かれ少なかれあるだろうから。
【発展期】5〜8月
ここでのポイントは、①得点パターンの確立、②4局面をシームレスに繋げるためのトランジション局面の磨き込み。
守備の安定がベースとなることが前提だが、得点量の平均を高めていくための取り組みに着手するのがこの時期だろう。
ある意味、「フロンターレらしさの再追求」と言える。
「組織でゾーンを守り、奪う」ことに慣れ、練度が上がってくれば、「攻撃面でのリターン」を重視したゲームプランで挑むことも可能になってくる。例えばだが、家長や大島など守備面で懸念になり得る選手をより効果的に活かすことや、導入期よりリスクを取った配置での攻撃などにも着手ができる。
また、繰り返しになるが、攻撃と守備をきちんとバランスさせるための、トランジション(攻守の切り替え)局面での完成度も求められる。カウンター・被カウンター時の振る舞いや、ゲーゲンプレスによる即座奪回の構造の構築など、トライできればより強いチームとなるだろう。
【熟練期】シーズン終盤から来シーズンにかけて
これ以降はどれだけ順調にチームづくりが進んだかによってしまうところが大きい。
目指したい姿の例を簡潔に示すと、「引いてくる相手/押してくる相手に関わらず、攻守両面でゲームプランを優位に進められるチーム」だ。
効果的な守備からのカウンターでも点が取れ、引かれた相手に対しても幅と深みを保ちながら選手がアクション/ローテーションを使いこなし崩すことができる。そんな境地に辿り着いてほしい。
当然簡単ではないし、1シーズンでそこまで整理が進めば万々歳であろう。開幕からしばらくは、攻守の収支のバランスを探りながら、原則の落とし込みと勝ち点獲得をリアリスティックに追い求めることになる。
時には我慢も必要だろうが、「偉大なチームの誕生」までの、"産みの苦しみ" も含めて今のチームを楽しむ、そんな見守り方をしていただきたいと、1サッカーファンとして願う。
どのようなスタイルに進化し、どのような成績となるか。
長谷部フロンターレの発展と成長を、楽しみにシーズンを迎えたい。
読んでいただきありがとうございました!
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