ドーハ世界陸上 鈴木雄介の衝撃的な歩き
ドーハ世界陸上男子50km競歩の鈴木雄介は衝撃的な歩きだった。
気温30度越え、湿度70%越えという高温多湿のレースが始まる前に鈴木雄介は「まずは歩ききることが目標。前半は自分のペースで抑えて、30km過ぎから勝負する」と語っていた。
しかしレーススタート直後、鈴木雄介が一人集団から抜け出す。
これは事前に話していたプランとは違うのでは?と思ったがそうではなかった。
鈴木が「前半は自分のペースで抑えて歩く」と言っていたペースが他選手にとっては速すぎたため、勝手に抜け出す形になったのだ。
これは鈴木が想定していた50kmを歩ききるためのペースと他選手が想定していた50kmを歩ききるためのペースが一段階異なっていたことを意味する。
序盤抜け出した鈴木雄介を追いかけるのは日本の野田明宏にリオ五輪金メダリストのマティトス、メキシコのパルマ。そして前回世界陸上金メダリストで世界記録保持者のデニズも追いかける。
しかし淡々と自分のペースを刻む鈴木雄介に追いつけない。
デニズがリタイアし、次に野田、トス、パルマとリタイアしていく。
なんと序盤鈴木雄介のペースにつこうとした優勝候補達は全員途中棄権という憂き目にあったのだ。
これは鈴木にとっては自分のペースを刻んでいただけでも他選手にとってはかなりのダメージを与える危険なペースだったことを意味する。
後続との差をどんどん広げている鈴木は2kmごとの給水で氷を取り、帽子の中に入れ、手にも握りこむというルーティンを淡々と繰り返す。
ここまで暑さ対策をしっかり行っていたのも鈴木だけだったと思われる。
そしてきつくなったタイミングでトイレに行って気持ちをリフレッシュさせたり、終盤は2位との差を確認しながら給水時に歩いて補給するなどレースプランも素晴らしかった。
過酷な環境だからこそ事前準備と事前プランが大きく効いてくる。
最初から抜け出し、ゴールまで一人旅を続けた鈴木雄介。
世界一美しい歩形に完璧な事前準備の万全のレースプランをずっと観ていた私は4時間ずっと芸術作品を観ていたような気分だった。
競歩というスポーツを芸術と言えるレベルまで昇華させることができるのは世界で鈴木雄介だけだろう。