ビーチ・ボーイズを作った三兄弟の光と影
こんにちは!
中村の音楽レビュー"Is It Rolling?"です。
今回はビーチ・ボーイズの中心メンバーとして活躍したウィルソン兄弟について語ってみたいと思います!
ビーチ・ボーイズは、1962年にデビューしたアメリカ西海岸のロック・バンドで、デビューして間も無く、その親しみやすいメロディと豊かなコーラス・ワークでヒット・チャートを席巻したバンドです。
ビーチ・ボーイズは、ウィルソン兄弟を中心とした以下のメンバーで構成されています。
このバンドの面白いところは、なんといっても、リーダーであり天才的なメロディー・メイカーでもあるブライアンの存在と、それを支え続けたメンバー同士の絆にあると僕は思います。
それでは張り切って語ってみたいと思います!
ブライアンを中心とした初期のビーチ・ボーイズ
初期のビーチ・ボーイズは、三兄弟の長男であり、バンドのリーダーでもあるブライアンのカリスマ性によって成り立っていたと言っても過言ではないでしょう。
特に卓越したソング・ライティング能力と、美しく豊かな響きを持ったハイトーン・ボイスが特徴です。
バンドではベースを担当しました。
バンドの曲は、サーフィンについて歌った「Surfin' USA」や車について歌った「Little Deuce Coupe」など、当時のアメリカの若者のカルチャーを色濃く映したものになっています。
当時流行していたインストゥルメンタル音楽であるサーフィン&ホットロッドというジャンルと、コーラス・グループの要素を巧みに融合させ、大衆に広く受け入れられました。
サーフィンや車のモチーフを選んだのは次男のデニス・ウィルソンだったといいます。
デニスはビーチ・ボーイズのメンバーの中で唯一本当にサーフィンをやっていたメンバーで、実は他のメンバーは全くやっていなかった...というのも面白いポイントです。
彼はルックスが良いことから、常に一番人気の高いメンバーだったといいます。
バンドではドラムを担当しました。
彼の先見の明もあり、バンドは瞬く間に人気グループとなります。
若者向けのイカした音楽を演奏するグループとして認知されていたわけですが、ひとつ大きな問題がありました。
それは、実は曲を書いているブライアン自身が、そういった軟派な音楽をやるような性格では全くなかった、ということです。
彼自身は、むしろ繊細で内向的で、ディズニーのような可愛らしい世界を好み、より芸術性の高い表現を志向していたのです。
当時のブライアンはバンドが売れていくことへの重圧にかなり苦しめられていたと言われていますが、何よりも、世間から評価されているバンドのイメージと自分が本当にやりたい音楽との解離に苦しめられていたのではないか、と僕は想像します。
彼はあるツアーの最中にとうとう精神的に追い込まれ、ツアー・メンバーから離脱してしまいます。
それ以降はなんと、他のメンバーがツアーを回っている間にブライアンはひとりでスタジオ・ワークに専念する…というかなり独特なスタイルで活動するようになります。
そんな最中、彼らを凌ぐ大人気グループがイギリスからやってきます。
それがビートルズです。
ビートルズは瞬く間にアメリカのヒット・チャートを埋め尽くしていき、ビーチ・ボーイズにとって最大のライバルとなります。
ビートルズが、それまでのアルバムとは一線を画す芸術性の高い名盤「Rubber Soul」をリリースすると、それに触発されたブライアンは自分の美学を徹底したアルバムを作ることを決意します。
それが彼らの代表作として名高い「Pet Sounds」です。
「Pet Sounds」は最強の演奏家集団レッキング・クルーや作詞家トニー・アッシャーの協力を受け、芸術的な趣向のある大傑作として、ブライアンも満足のいく作品に仕上がりましたが、なんと…今となっては信じられないことに、アメリカのチャートでは今ひとつ順位がふるいませんでした(最高10位)。
アメリカの大衆は芸術的な作品よりも今までと同じようなサーフィンや車の歌を求めていたのです。
ブライアンはこの事実に対して深く深く傷つくことになります。
その後「Pet Sounds」のリベンジを果たすべく「SMiLE」という新しいアルバムの制作に着手しますが、その制作中に彼は精神を病んでしまい、自宅に引きこもってしまいます。
ブライアンは初期のビーチ・ボーイズにおいて人並外れた素晴らしい仕事を残しつつも、失意のどん底で心を閉ざし、表舞台から姿を消してしまったのです。
三男:カール・ウィルソンの活躍
60年代はリーダーであるブライアンのセンスに引っ張られてきたビーチ・ボーイズでしたが、彼の意気消沈とともに行き先を見失うことになりました。
大抵のバンドであれば、いつ解散してもおかしくない状況ですが、実はビーチ・ボーイズはここからが面白いのです。
リーダーの不在が、他のメンバーを奮い立たせ、それぞれの音楽的な個性を大きく育むことになります。
その筆頭が、ブライアンに代わってフロント・マンとしてバンドを引っ張っていくことになったウィルソン兄弟の三男、カール・ウィルソンです。
ギター担当で、それまではどちらかといえば控えめな印象だったカールですが、実はブライアンも評価する程の美しい歌声を持っており、徐々にその才能を開花させていきます。
ビーチ・ボーイズの顔でもあったブライアンのハイトーン・ボイスを彼が引き継ぐことになったのです。
また、曲作りの面においても絶対的な存在だったブライアンが影を潜めたことにより、他のメンバーが各々曲を持ち寄るスタイルへと変容していきます。
このように、この時期のバンドからは、リーダーが心を閉ざしている苦境をなんとか乗り越えようと全員が試行錯誤している雰囲気が伝わってきます。
まさしく全員で舟を編んでいるような時期だったといえるでしょう。
今回はちょうどその転換期にあたる2枚のアルバムを紹介してみたいと思います!
転換期時代の名盤レコード
それまではドラムを叩くことに専念してきた次男のデニスが、ソング・ライターとして頭角を現し、アルバムの幕開けを飾る「Slip On Through」や、甘いバラード「Forever」を作曲したことが印象的で、味のあるしゃがれた声でボーカルも担当しています。
途中加入したブルース・ジョンストンも「Deirdre」「Tears in the Morning」という素晴らしい曲を残しました。
このアルバムにはブライアンと他のメンバーの共作という形で発表された楽曲も多く、「Add Some Music to Your Day」などが名曲として評価されています。
60年代にブライアンが中心となって作り上げてきたバンドの明るく突き抜けたサウンドを踏襲しつつ、各メンバーが曲作りに広く携わるようになったことで、より多彩なアルバムになったと言えるでしょう。
何度でも戻ってきたくなるような心地の良いアルバムです。
それまでのビーチ・ボーイズのイメージからかけ離れた暗いジャケットが特徴で、環境破壊を歌った「Don't Go Near the Water」や学生運動について歌った「Student Demonstration Time」などを収録し、社会問題に切り込んだ内容になっています。
カール作曲の「Long Promised Road」「Feel Flows」、ブルース・ジョンストン作曲の「Disney Girl (1957)」など粒立ちの良い曲が集まっており、絶妙なバランスで飽きさせません。
表題曲の「Surf's Up」はブライアンが幻のアルバム、スマイルのために60年代に書いた曲で、カールのボーカルで初めて本格的にスタジオ音源として収録されています。
またアルバムの最後の3曲はブライアンが作曲したものとなり、この時期のブライアンならではの、暗く神秘的なトーンで、ラストの大団円を演出しています。
ブライアンは以前のように製作の中心にいることはありませんでしたが、このように他のメンバーと同等に肩を並べながら楽曲提供をするようになっていきました。
70年代を駆け抜けたバンド
カールやデニスをはじめ周囲のメンバーが、バンドを停滞させることなく、失意のどん底にあったブライアンを励まし続け、ビーチ・ボーイズは成長していき、苦境の70年代を駆け抜けました。
特にバンドの屋台骨の役割を引き継いだカールの成長と頑張りには胸が熱くなります。
一時期は一切表舞台には出なくなってしまったブライアンでしたが、徐々にツアーで鍵盤を弾いたり、ボーカルを取ったり、姿を見せるようになっていきました。
* * *
ビーチ・ボーイズの活動は今も続いていますが、残念なことに、1983年には次男のデニスが海で事故死し、バンドを支え続けたカールも1998年に癌で亡くなっています。
兄弟のうちで今もまだ存命で、演奏活動を続けているのはブライアンのみです。
最近のブライアンはソロで、あの幻のアルバム、「SMiLE」の再現ライブを行っており、失われた楽曲群を再構築することに成功しています。
僕は2016年に日本で行われたブライアンによる「Pet Sounds」の50周年ライブをバンドメンバーの豊田君と観に行った事があり、あのブライアンが若いミュージシャンや当時のメンバーを引き連れて精力的にライブをやっていることに対して、とても感慨深いものを感じました。
伝説的な存在として今なお多くのリスナーに影響を与え続けているブライアンですが、その背後にはカールやデニス、他のメンバーが支えていたあの70年代の影があり、それが現在のステージにも繋がっていると思うと、とても特別なものに思えてくるのです。
* * *
いかがでしたでしょうか。
前回の「伝説のベーシスト、キャロル・ケイからもらった言葉」でもビーチ・ボーイズを取り上げていますので、もしよろしければ、ぜひ併せてお読みください。
またブライアンの演奏を生で聴ける日を夢見ながら、これからもビーチ・ボーイズの音楽を繰り返し聴いていきたいと思っています。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
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