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サッカーコーチの“契約満了”あなたは「生きる力」をもっているか?!
前回はレノファ山口のJリーグクラブへの道のりをご紹介しました。
今回は私が直面した危機をもとに、サッカーを生業とされている皆様が常に頭の片隅にありつつも、あえて蓋を開けないようにしているパンドラの箱の中を覗くようなテーマにしてみました。
年齢をとってから訪れるリスク・・・
さて、あなたは「生きる力」を持っているのでしょうか?!
〜はじめに〜
指導者が抱える、語られない大問題
地方や都市部を問わず、日本には数え切れないほどの“街クラブ”が存在します。ここで言う街クラブとは、Jリーグ下部組織や大企業の実業団チームではなく、地域の少年団やアマチュアチーム、NPO法人や一般社団法人などが母体となって運営されるクラブのこと。コーチや監督がライセンスを持っているケースもあれば、「子どもの頃サッカーをやっていたから」という経験で指導する方もいるなど、その形態はピンからキリまで幅広いのが特徴です。
こうした街クラブでは、単年契約や業務委託に近い形でコーチを雇っている場合が多いにもかかわらず、「自分が来年も継続して指導できるのは当然」と考える人が少なくありません。ところが、実際には契約更新が見送られ一瞬にして職を失うケースが現実として起こります。そこには、Jリーグのような華やかな舞台のイメージとはかけ離れた、厳しい現実があります。
一方、Jリーグクラブのコーチだからといって安泰かというと、みなさんお察しの通りさらに厳しい現実が待っています。プロの現場ですから、単年契約の厳しさや成績不振による突然の解任が当たり前に起こる世界です。クラブ運営に大きなスポンサーや企業が関わっている分、華やかに見えますが結果が出なければあっという間に“契約満了”を通告され、次のポストが見つからないまま失業状態に陥るコーチも少なくありません。
また、試合の成績だけでなくクラブのトップの意向によって育成組織への予算削減とそれに伴う人員整理などが行われることもあります。
本記事ではまず街クラブに焦点をあてながら、そこで起きる契約切れのリスクと背景を徹底的に掘り下げます。その上で、Jリーグコーチの事例や実情にも触れ、「プロ・アマ問わず、指導者という仕事は不安定である」という現実を立体的に描いていきます。
“契約満了”のリアル
「ボランティア→有償コーチ」への流れがもたらすギャップ
かつての少年団は「地域の熱心なお父さん」がボランティアでコーチを務めるのが主流でした。しかし、自由競争であるサッカー市場+少子化の影響で、しっかりとした運営と“質の高い指導”をアピールしなければ生き残れない時代に突入しました。
サッカー界の繁栄から自然な流れとして必然的に、有償でライセンス保持者や元選手をコーチとして雇うケースが当然の流れとなってきました。
一方で、街クラブ運営者の多くは「とりあえず良いコーチを雇いたいが、予算は限られている」という状況に置かれがちです。その結果、契約内容や業務範囲が曖昧なままスタートし、後々「コーチの要求が多い」「クラブの方針に合わない」などの理由で契約満了→更新せずに終了、となるパターンが多く見られるようになっています。
ケーススタディ:半年契約でコーチが続々と辞めていく街クラブ
ある地方の街クラブでは、4~9月、10~3月の年2回契約を実施しています。クラブ代表が「コーチの質を見極めたい」という方針を掲げているため、成果が出ないと判断すれば後期契約を更新しないのが慣例。このクラブでは、半年ごとにコーチが入れ替わり、指導スタイルがころころ変わるため、子どもや保護者から不満が噴出。結果的に退会者が増え、会費収入も減り、さらに人件費を抑えるためコーチを解雇する――という悪循環に陥っています。
「予算不足」を理由に切られるコーチたち
街クラブの最大の収益源は、保護者の月謝・年会費や、小口のスポンサー収入です。Jリーグ下部組織のように大口スポンサーや企業がバックにいないため、少子化やスポンサー撤退などで収入が減ると、まっ先にコーチの人件費が見直されるのが常です。
実例:行政からの補助金打ち切りでコーチ3名が一斉解雇
ある中堅規模の街クラブ(NPO法人)が、県のスポーツ振興事業の補助金でコーチ人件費を賄っていました。しかし、予算削減で補助金が半減し、クラブも月謝値上げに踏み切れず、結果的にコーチ3名が一斉に解雇。解雇されたコーチの一人は「急に収入がゼロになり、生活できないので県外へ引っ越した」と証言しています。地方部では、こうした事例は珍しくありません。
街クラブ特有の“脆弱な雇用環境”を理解する
形式上の“契約書”がないケースと、その名残
かつての少年団文化を色濃く残す街クラブでは、いまだに「口約束だけ」でコーチと取り決めをしている例があります。報酬も「月にいくら」という明確な基準はなく、「保護者から集めたお金をざっくり分配する」程度の曖昧さが残ることもしばしばです。
曖昧さが引き起こすトラブル
コーチ:
「何をやるかも適当で、わずかなお金で色々要求されても困る」
「報酬額が当初の口約束と違う」
運営者:
「お金を払っている以上、きっちりやってもらわないと困る」
「やってほしいことは伝えたのに聞いてないと言われた」
こうした意識のギャップが広がると、最終的には「やはり来年は契約しない」と切られる結末に。問題は裁判沙汰に発展することも少なくありませんが、街クラブの場合は大事になる前にコーチが泣き寝入りするケースが多いです。
街クラブの財政構造:スポンサーが乏しい現実
サッカークラブのビジネスモデルは非常にシンプルで、簡単に表すと
「会費×会員数=売上」です。
そして地方であればあるほど、大口スポンサーがつかず会費がクラブのメイン収入という構造です。子どもの数が減れば即座に経営を圧迫し、それがコーチの契約更新を見送る理由になり得ます。
会費値上げ問題というデリケートなテーマ
値上げをすると退会者が出やすい
かといって値上げしないとコーチの人件費が払えない
このジレンマは多くの街クラブに共通しており、結果的に「人件費を削るしかない」という結論に至ります。そこで削られるのがコーチの報酬。何年も続けてきた優秀な指導者でも、あっさり契約が切られることは珍しくありません。経験を積んで高給取りになったコーチよりも、若くて安く雇えるコーチを求めるのです。
Jリーグクラブのコーチも同じリスクを抱えている
ここで視点を少し変えて、Jリーグクラブに所属するコーチの事例を見てみましょう。華やかなプロの世界ゆえに「安定していそう」「高収入で恵まれていそう」と思われがちですが、実態はそうとも限りません。
「単年契約」の世界はプロでも当たり前
Jリーグクラブのコーチは、ほとんどが1年ごとの単年契約が基本です。特にトップチームのコーチは成績次第で引き留められるかどうかが決まるため、クラブが降格危機に陥ったり、監督交代があったりすると、突如契約を打ち切られることが珍しくありません。
Jクラブの育成組織のコーチたちも単年契約がほとんどです。実際に私もずっと単年契約でした。
平均在任期間は1.5年?
トップチーム監督の例で言えば、J1・J2の平均在任期間は1.5年程度というデータがたびたび取り上げられます。これは監督が頻繁に代わることを示しており、そのスタッフ(コーチ含む)も連動して入れ替わる場合が多い。
実際、複数クラブを渡り歩いたコーチは「もう慣れた」と言いながらも、「家族を連れて短期間で全国を転々とするのはかなりのストレス」と本音を漏らしています。
成績不振で問答無用の“解任通告”
街クラブが財政難や運営方針を理由にコーチを切る一方、Jリーグでは「成績不振」が最大の解任理由です。トップチームはシーズン中でもチームが連敗を続ければ、監督だけでなくコーチングスタッフが総入れ替えされることも。その際、コーチは次の所属先が決まっていないまま契約終了を余儀なくされるのが現状です。
育成組織のコーチは流石にシーズン途中で成績を理由に切られることはありません。契約満了の理由は様々ですが、「クラブの指導方針の変化」「予算削減による人員整理」など多岐にわたります。育成に理解のない経営陣になると育成組織をコストセンターとみなして大幅な予算カットを告げられることも現実として起こります。一度も指導現場を見られることなく契約満了を言い渡されるということもあります。
J1からJ2、J3へ下降していくコーチキャリア
ある元Jリーグコーチは、トップチームでの成績不振による解任後、J2クラブに移って再び1年で解任され、最終的にはJ3の下位クラブでも契約更新されずに退団。現在はフリーの立場でオファーを待ち続けているといいます。「プロの最前線にいたコーチですら、職が安定しない」「実績があってもすぐに次が決まるとは限らない」というのがリアルな状況です。
プロ指導者の再就職率は意外と低い
Jリーグのトップチームで指導経験があるコーチは、華やかなキャリアのように見えますが、「サッカー指導以外のスキル」をほとんど積んでいないケースが多いです。そのため、一度解任されると、スポーツ業界以外への転職は思うように進まず、フリーのパーソナルトレーナーやスクールコーチなど、不安定な形で食いつないでいる人もいます。
ただ現在の社会情勢を見る限り、働き手の人材不足がどの業界でも叫ばれているので以前に比べるとチャンスはあるのかもしれませんが、他業種で活躍できるスキルを持っていることが大前提となります。やはり再就職のハードルは高いままです。
“Jリーガー引退”と同様のセカンドキャリア問題
元Jリーガーがセカンドキャリアに苦しむ例はよく取り沙汰されますが、コーチも同じ轍を踏む可能性があります。むしろコーチの場合、「既に30代後半~40代の年齢」で切られるケースも多く、そこで企業が求められるようなスキルを持っていなければ一般企業に転職するにはさらにハードルが高いのです。
街クラブとJリーグの共通点
指導者はいつでも“切られる”職業
街クラブとJリーグの規模や予算、選手のレベルは違えど、「契約満了」→「更新なし」という厳しさが共通点として浮かび上がります。理由は異なるようでいて、根本は同じです。
街クラブ
少子化による会員数減やスポンサー不足による財政難
運営方針や保護者対応のトラブル
ビジネスリテラシー不足
Jリーグクラブ
成績不振や監督交代でスタッフ入れ替え
クラブ経営の悪化(Jリーグはトップチーム優先のクラブが多い)
トップチーム成績によりスポンサー減少→人件費削減
どちらの世界でも、コーチというポジションは「結果が求められるわりに守られにくい」立場であることに変わりはありません。
ここで留意しておかなければいけない点がもう一つあります。
契約を切られるということだけではなく、いつまで経ってもなかなか報酬額が上がらないという問題です。これが原因で結婚や子どもの誕生などのライフイベントを機に、一般企業へと転職するというコーチも少なくありません。
そういう意味では街クラブにおいては、いつ契約を切られるかを考えながらも自分のキャリアを考えていつ移籍するか、もしくは転職するかをコーチたちは考えるようになります。ということはクラブ経営者側にとっても突然人材を失ってしまうというリスクと常に隣り合わせであるということです。
特に育成年代のコーチたちは仕事の成果が見えにくいという難点があります。頑張って勝利したからといって賞金が入るわけでもなく、チームが勝てなくともトップチームへとつながる選手育成ができる可能性もあります。
評価する側もしっかりとした目をもつ必要があります。
キャリアの将来を脅かす4つの要因
①少子化(街クラブ視点) & Jクラブ間格差(Jリーグ視点)
街クラブ
子どもの競技人口そのものが減少→競技人口対クラブ数の不均衡
Jリーグクラブ
60クラブに増加した状況を、活かせるクラブと活かせないクラブの格差拡大
少子化に対してはサッカー界だけでなく、全ての業界での問題ではありますが、人口の自然減というのは歴史上必ず起こりうることなのでそこは自分たちの力では変えようがありません。
そういった状況の中で、ステークホルダーに対して自分たちのクラブの本来の価値を伝え切れるクラブだけが残り、できないクラブは淘汰されていくでしょう。クラブの持つ理念が顧客に伝わるかどうかが重要です。
Jリーグクラブのトップチームではリーグ間の昇降格がありますし、限られた予算の中でどれだけ最大限の効果を発揮できるか?まさに「選択と集中」といった戦略的思考を今まで以上に求められる時代といえます。
近年選手の海外挑戦はしやすくなっている状況の中で、アカデミー育成強化→移籍金ビジネスといった特色を今まで以上に色濃く出すクラブが出てきても不思議ではありません。
レノファ山口という地方のクラブで指導者をしていた時、クラブは育成型クラブを目指すという方針のもと活動していました。しかし同じJリーグクラブでもレノファ山口よりも何倍もの予算規模のクラブが「育成型クラブを目指す」といって施設を拡充し、充実した練習環境と県外からの育成年代選手の受け入れも可能とする生活環境の整備を行なっている状況をみて、単純に同じことをしていては勝てないと感じていました。
②若手・新興勢力の台頭
街クラブ
最新のテクノロジーや差別化できるクラブが急速に人気を集める
Jリーグクラブ
海外留学経験のある若手コーチやアナリストが台頭→高給ベテランコーチよりも若くて安くて将来性があるコーチが重宝される
どの時代においても新陳代謝は起こります。起こらなければその業界ごと沈むでしょう。サッカー界も例外ではありません。街クラブでも若手経営者の台頭がありますし、海外で経験を積んだコーチたちの逆輸入も起こるでしょう。その中でいかに生き抜いていくのか?もしくはそのフィールドで戦い続ける必要があるのか?を考える必要があります。
③外的環境の変化
街クラブ
バスケットボール、野球などの競合が進み、サッカー人口そのものが減少
Jリーグクラブ
現役引退選手がコーチとして雇用される流れ。元日本代表選手やクラブのレジェンドの指導者増加。
時代の変化は業界外部でも起きています。他競技もサッカーに負けじと盛り上がりを見せています。子どもたちも他競技に目を向ける機会も増えるでしょう。
現在Jリーグクラブコーチたちも恐るべき状況が迫っています。スター選手だった人々が指導者ライセンスをすごいスピードで取得しています。
選手時代に輝かしいキャリアのないコーチにとっては非常に厳しい世の流れと言えるでしょう。
街クラブのコーチたちにとっても、競技人口の減少は厳しい現実に直結します。他競技の盛り上がりは喜ばしいことではありますが、サッカー界を今まで以上に盛り上げるにはどうするべきかを考えなければいけない時代が来ているようです。
④ビジネスリテラシー不足
街クラブ
運営者・コーチ双方が経営・マネジメントに疎く、一貫性のあるクラブ運営ができない
Jリーグクラブ
コーチが“サッカー指導”以外のスキルを身につける機会が少なく、解任後の再就職に苦戦
ビジネスリテラシーが不足すると何が起こるのか?
簡単にいうと情弱です、騙されやすくなります。そしてサッカー以外で生きていく能力がなければ、将来を予測することすら難しいでしょう。
また街クラブにおいては経営者は常にクラブの経営に携わっているのでまだ敏感な方ですが、コーチたちのビジネスリテラシーが非常に低いことによる弊害が多くみられます。クラブを発展させる重要性、それに伴うビジネススキルの必要性に気づく必要があるでしょう。
なぜなら街クラブでは自分自身の報酬額を増やすには、自分がアクションを起こすしかないのです。そこで収益を生み出すスキルを持っていなければ自分の将来が危ういものになってしまうことを忘れてはいけません。
街クラブコーチ&Jリーグコーチが
共通して必要とする“生存戦略”
街クラブであろうとJリーグであろうと、「契約満了」の危機と隣り合わせである以上、コーチに求められる“生存戦略”には共通点があります。
結果だけに依存しない“多面的な価値”の提供
街クラブ
クラブの目標達成に貢献できるスキルを身につける
サッカーだけではなく、運営面でも力を発揮する
0→1が生み出せる人材か、1→10ができる人材になる
街クラブのコーチは特に勝敗でクビになる可能性が低い代わりに、サッカーの面では特徴ある選手を輩出できる指導力があるかどうか?が問われます。
要するに「お前の代わりはいない」と言われる状態を作れるかどうかです。
それはピッチ上だけでなく、オフ・ザ・ピッチの仕事でも能力を発揮できるか否かが問われます。
またビジネス面においても同様で、収益を上げるために貢献できる人材かどうかで報酬額が決まります。そのためにもビジネスリテラシーを上げる努力は無駄にはならないことは間違いありません。
Jリーグクラブ
トップチームコーチ=結果に拘り続ける
クラブがどのようなサッカーを目指すのかを実現できなければならない
育成組織=地域の少年を長い年月かけてトップチーム選手へと育成する長期的視点と指導。
トップチームは勝敗で勝利給・賞金もあります。育成は買っても賞金はありません。トップチームで終身雇用はあり得ませんし、遅かれ早かれクビになるわけですからここでは割愛させていただきます。
一方で育成組織はどうかというと、評価者であるアカデミーダイレクターや育成部長が(まともな人であれば)クラブの理念に基づいた育成方針を示し、そこに対してしっかりとコミットすることが育成組織のコーチの最大の仕事になりますから、これをしっかりとできるかどうかが最大の生存戦略になります。
しかし残念なことに評価者がまともでないクラブが存在するようです。
そういった場合にはどのような生存戦略が一番有効でしょうか?
そういった場合には、とにかく人事権を握っている人に逆らわないというのが1番生き残る術かもしれません。要するに「長いものに巻かれなさい」ということかもしれません。
誰が権力を持っているのかを見極めて媚びる。
それもまた人生なのかもしれません・・・(※全てのクラブではないです)
戦略的に生きること、それもまた茨の道です。
ビジネスリテラシー・マネジメント力の習得
経営やマーケティング、ファイナンスに関する基礎知識を身につけ、クラブ運営陣と同じ目線で話ができるコーチを目指す
自分自身が「クラブにとって欠かせない存在」であると証明できれば、契約満了時に更新される可能性が高まる
街クラブにおいては、対等な立場で話ができる場合がほとんどだと思います。街クラブは人材確保に非常に苦戦しますし、そこで力を発揮できる人は本当の意味で「人財」といえます。そういった状況で、クラブ経営陣とクラブのビジョンについてしっかりと合意できていればさらにいい状況で仕事ができると思います。
一方、Jリーグクラブ育成組織のコーチたちは特に、クラブと対等という立場には到底及びません。なぜならJリーグクラブで働きたいと思っている在野のコーチは多くいますから、かなりの「買い手市場」であるといえます。
そんな状況の中で対等な立場にはなることはできません。そこではクラブにとって「欠かせない存在になること」が生存確率を上げることにはなりますが、クラブ側に何に対して「欠かせない存在」かという理念・育成方針がなければ先述のとおり「欠かせない存在=言うこと聞く逆らわない人物」となってしまうでしょう。
常に学び・最新スキルをアップデート
最新のトレーニング理論やスポーツサイエンス、データ分析を取り入れる
海外のコーチングライセンスやオンライン講座で新手法を学ぶ
(Jリーグ向け) 海外留学や英語力の強化など、国際的な知見を取り入れる
これらについては指導者の皆さんは当然のように取り組まれていることと思います。指導に関するオンラインセミナーなどに多くの方々が参加されているのは素晴らしいことだと感じています。
“プランB”を用意する
副業やフリーランスの仕事を持つ
一般企業への転職もできるスキルを身につける
どんなに頑張っても解任・解雇は起こり得ます。可能性はゼロではないどころか相当高いです。だからこそ、そうなる前にしっかりとした「生きる力」を身につける必要があります。
運良く指導者を続けていたとしても、いずれ歳をとって若手指導者が台頭してきます。街クラブであれば後継者に引き継ぐ必要があるでしょうし、Jリーグクラブではよっぽどのキャリアの持ち主でない限りあっさりと契約満了となるでしょう。
街クラブのコーチたちも若手に引き継ぐ=若手の人件費が必要→自分たちの報酬はどこから稼いでくるのか?という問題に直面します。
"その時"が来た時に準備を始めていたのでは遅いということを自覚する必要があります。
具体的な行動計画
その時は"必ず"訪れる!!
いやいや、そんなことはないよ。クビになったとしても他のクラブで生きていけるよ。そんな風に安易に考えていませんか?
契約満了になるのはもっと先かもしれません。しかしいずれ50歳?60歳?70歳?その時は訪れます。
何歳までコーチ続けますか?需要はありますか?ステークホルダーは納得しますか?
後継者にクラブを引き継ごう・・・いや待てよ、俺の収入無くなるじゃん!
クラブの経営者も他人事ではありません。
ここでは、街クラブコーチ、Jリーグコーチにかかわらず、具体的にどのようなアクションを取るべきかをさらに噛み砕いて提案します。
自己分析&目標設定
自分の強み(指導経験、コミュニケーション力、語学力など)と弱み(ビジネス知識不足など)を棚卸し
1年後、3年後、5年後の目標を明確化し、逆算して学習やネットワークづくりを進める
学び直し(リスキリング)の計画
経営・マネジメント関連:オンライン講座や専門書で基礎を学ぶ
データ分析:サッカーに特化した分析ツールや統計学の基礎を習得
語学(英語など):海外の指導情報を得たり、国際的な場で働ける可能性を広げる
ネットワーク強化
街クラブ:地元行政、商工会、教育機関、他競技のスポーツ団体との連携を積極的に図る
Jリーグ:他クラブのスタッフやスポンサー企業との交流会、セミナー、スポーツ関連のカンファレンスに参加
共通:SNSやブログ、YouTubeなどで発信し、自分の指導理念や実績を可視化する
“収益源”の複線化
街クラブコーチ:自主開催のサッカースクールやイベント、指導メソッドのオンライン販売など
Jリーグコーチ:アナリストとしての副業、解説者やコラム執筆など、多方面の活動を検討
万が一のための資金備蓄
単年契約なので、いつ切られても数か月生き延びられる貯蓄を用意する
保険・税金・社会保障などの情報を把握し、失業後に困らないようにしておく
ざっと今思いつくだけでもこれらの準備をしておくだけで、次のキャリアへの移行はスムーズに行えるでしょう。
「備えあれば憂いなし」です。
街クラブとJリーグ、両者に見る“共通の落とし穴”
結果や数字だけで評価されやすい
街クラブ:入会者数や試合の勝敗など
Jリーグ:試合の成績やチーム順位、クラブ売上など
契約期間の短さ & 保証の薄さ
街クラブ:そもそも契約書すら曖昧で、運営方針や資金次第ですぐ切られる
Jリーグ:実質1年契約が主流で、シーズン途中でも結果次第で切られる
セカンドキャリア支援の不足
街クラブ:自治体やJFAが支援している例はなく、多くのコーチが「路頭に迷う」危険
Jリーグ:トップ選手向けにはある程度のプログラムがあるが、コーチやスタッフまでは手が回らない
今こそ“自力で生きていく”覚悟を決めよう
「街クラブだから」
「Jリーグの現場だから」
という枠にとらわれず、コーチという仕事がそもそも不安定であるという事実を、改めて強調したいと思います。指導者として生き残るためには、どのクラブに所属しているかに依存しすぎるのではなく、自分自身で稼ぐスキルやネットワークを築くことが欠かせません。
街クラブコーチへのメッセージ
安定した収入源がなく、クラブ自体がいつ消滅してもおかしくない
運営者の方針で来年の契約がどう転ぶか分からない
自分で副業やビジネスを立ち上げたり、クラブ運営にも関われるようなビジネススキルを身につけよう
Jリーグコーチへのメッセージ
見かけの華やかさに油断しない。成績不振や監督交代ですぐ切られる
たとえ実績があっても椅子取りゲームで負ければ次のポストが見つからない
育成やスクール運営、アナリスト、解説者など多角的なキャリアを模索しよう
みなさんが思っているよりも遥かにサッカーコーチの社会的価値は低いです。Jリーグクラブに所属しているからといって勘違いしてはいけません。
〜あとがき〜
どのステージでも“契約満了”の恐怖は現実だ
街クラブとJリーグ、規模や報酬に大きな違いはありますが、「コーチはいつでも切られるリスクがある」という共通点を見逃すわけにはいきません。子どもの数、クラブの財政、成績、スポンサー、監督交代……あらゆる要素がコーチの職を左右します。
なぜここまで言い切れる文章を書いたのかというと、私自身こそが「まだまだこのクラブに貢献できる」と信じている時にあっさり契約満了を言い渡された張本人なのです。あの時のショック、悔しさ、絶望感・・・色々な感情は今でも忘れられません。
幸い私はサッカーコーチになる以前に社会人経験もあり、また指導以外にクラブ運営に関して実務を経験する機会が多くあったことから、指導者以外のスキルを様々な人々に鍛えていただくことができていました。
ただそれでも自分の何が「強み」となるのかが全くわからないような状況でした。
そうした自分自身の経験を振り返った時、「もしサッカーのことしか考えてこなかったらどうだっただろうか」と思うと恐怖でいっぱいになったのです。
やはり、指導者にとって最大の備えは、「自分で価値を生み出せる力」を養うことに尽きます。ビジネスリテラシーやネットワーク構築、マネジメント能力、最新の指導スキル・・・これらを磨き続けることで、どのような環境に放り込まれても生きていける「生きる力」をつけるのです。
もちろん「指導者」というものに全力を尽くすことこそがプロだろう、ということも理解できます。しかし人にはそれぞれ強みがあります。そして自分よりも優れた人物が現れてくるかもしれません。
そこでも「指導者」に全力を尽くすこともそれもまた人生で素晴らしいことだと思います。
と同時に、それ以外の自分の強みを知って戦うステージを変える勇気もまた素晴らしい人生だと思うのです。
まさに「みんなちがって、みんないい」です。
本記事が、街クラブで奮闘するコーチはもちろん、Jリーグの現場で苦悩するコーチたちにも、「そもそも指導者の雇用はこんなにも脆い」という現実を再認識し、未来のために行動を起こすきっかけになれば幸いです。
最終的に、サッカー界全体を盛り上げるのは、華やかなスポットライトを浴びる監督や有名選手だけではなく、日々子どもや選手たちを指導し支える多くのコーチ陣に他なりません。そのコーチが安心して働ける仕組みを作る。そして、コーチ自身も自分を守る術を学ぶ。それが日本サッカーの未来を切り開く鍵となるのです。
どうか、「自分は大丈夫」という根拠なき安心に浸るのではなく、今すぐ行動を。
あなたが動き始めることで、街クラブでもJリーグでも、“契約切れ”に怯えずに活躍できる環境へと変えていけるはずです。