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【DoctorTのスポーツ医学】脳振盪(脳しんとう)後の、つらい乗り物酔い症状 ~脳振盪シリーズ④~

 こんにちは、Doctor Tです。以前、数回にわたってお話した「脳振盪(脳しんとう)」について、続きをお話します。少し前の話なので、まずは復習しましょう。

「脳しんとう」についての大切なポイント
1)子供も受傷する 
2)受傷したら『即離脱』! 
3)様々な症状を呈する    でしたね。

 以前お話した通り、様々な症状がある中で、今回は「前庭神経と動眼神経障害」についてお話します。用語を見て、🤯🤯🤯となっている方もいるかもしれませんが、心配要りません!これからご説明します。

神経の2つの役割
     一般的に神経には主に2つの役目があります。「外界からの情報を取り入れること(感覚)」と「中枢部から信号を送って筋肉を動かすこと(運動)」です。

前庭神経の役目:体の回転や傾き情報のインプット
 『前庭神経』は耳の奥の方にあり、その機能は身体の回転や傾きの情報(平衡感覚)を仕入れることです。Wikipediaには「「体が傾いたから修正しよう」と考えなくても、前庭脊髄路の働きで「無意識に」微妙な運動調節が起こり、平衡を保てる」とあります。

前庭神経が障害されると…
 前提神経が障害されると、遊園地のアトラクションであるコーヒーカップに乗った時や、バットをおでこに当ててグルグル回った後の目が回った感じと似た、回転性めまい(vertigo)やふわふわしためまい(dizziness)になります。乗り物酔いも、この平衡感覚と視覚情報のズレが原因です。これが前庭神経障害で、脳振盪の症状のひとつなのです。

動眼神経の役目は眼球を動かすこと
 『動眼神経』にはいくつか働きがありますが、そのひとつが眼球を動かすことです。電車などスピードの出ている乗り物の窓から外を見ても、見える景色はスムーズに動きますよね。次から次へ目がものを追えるのは、この動眼神経による眼球運動が機能しているからなのです。

動眼神経が障害されると…
 動眼神経が障害されると、流れていく景色に目がついていけなくなります。そのため、そういった状況で車や電車に乗っていると、目から入ってくる情報を処理できなくなり頭が痛くなったりします。

動く物体を滑らかに見られるのは、前庭神経と動眼神経の協力のおかげ
 前庭神経から入ってきた情報に合わせて、動眼神経が眼球を動かしているということです。どちらが障害されてもスムーズにものを見ることができなくなります。

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診察の様子
 言葉で表現するのがとても難しいので、以下のYouTubeをご覧下さい。途中で頭痛、めまい、吐き気、視界が霞む症状がどれくらいの強さで出てくるかを診ています。患者さんは診察する医師の指示に従うだけでいいので覚える必要はありませんが、一度見ると印象に残ると思います。

Duke大学脳神経内科のYouTubeより(英語ですが動きだけ見ればOK)
https://www.youtube.com/watch?v=CJF6kJcFGqE
0:38 追視 ”ゆっくりものを目で追う” 
1:27 サッカード水平 
2:05 サッカード垂直 
         ”早く眼球を左右上下に動かす”
2:58 輻輳 ”寄り目”
4:06 前庭動眼反射(VOR)水平 
4:47 垂直 
         ”一点を見つめたまま頭を
                     左右上下に動かす”
5:34 Visual Motion Sensitivity 
         (日本語が分かりませんでした)
        ”動くものに頭も合わせて動かす
          →目の前のものに焦点あてて、
               背景が流れる ”

脳しんとうの治療:リハビリで負荷を上げ、感覚を取り戻す
 脳しんとう受傷後、安静が必要なのは48時間と言われており、それを過ぎたら、ケガの後のリハビリと同じように徐々に負荷を増やしてその感覚を鍛えていく=取り戻していきます。最初は症状が出て辛かった目を動かすスピードも、毎日リハビリをすることによって、平気になっていきます。

日常生活には視覚情報が溢れている
 日常生活で目に入ってくる情報や、無意識にとっている体勢のパターンは、診察中のそれとの比ではないことにお気づきでしょうか?このリハビリは、最初は視覚情報の少ないシンプルな色の部屋で、真っ直ぐ座って始めます。しかし、その環境での慣れだけでは、日常生活に戻るには不十分なのです。

視覚的にマルチタスクな日常生活、およびスポーツに戻るには
 スポーツ、例えばバスケのゲームでは、ドリブルして視界の景色が流れていく中で、ボールを目で追いながら、急に振り返って相手のポジションを確認したりしますよね。
 このレベルまで戻さなければならないわけです。刺激のほとんどない診察室や自分の部屋を出て、情報の多い周辺環境・空間や、姿勢を様々に変えてリハビリを進めていかなければならない理由がわかりますね。

安静時間が長すぎると症状が長引く!
 これは医者の間でもまだあまり知られていないことだと思いますが、脳しんとう受傷直後の安静は48時間が適切で、それ以上だと逆に回復に悪影響が出るというのが昨今の主流です。

 安静にし過ぎないよう気をつけましょう!”多少”具合が悪くてもその負荷に慣れていくために、辛抱が必要です。

【まとめ】
・前庭神経障害は乗り物酔いのような症状
・動眼神経障害は乗り物の窓から景色を見ていると辛くなる
・治療はリハビリで徐々に負荷(スピード、体勢、環境)を上げていく
・安静にしすぎない。受傷後48時間まで。

 今回の具体的な内容を皆さんが覚えておく必要はありません。ただ、脳しんとうの患者さんはこんな不快症状に苦しんでいるということを知ってあげましょう。

 パッと見ではわからないので、サボっているように誤解されることもあります。周囲の人の理解が脳しんとうの受傷者、患者さんの辛い気持ちを救います!


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