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【DoctorTのスポーツ医学】子供の成長スパートのちょっと困った一面

 こんにちは、Doctor T です。前回に引き続き「子供と運動」について書きます。

 表題の「スパート」という言葉ですが、陸上競技や徒競走などでよく使う『ラストスパート』のスパートと同じで「一気に進むこと」の意味です。

この回では、思春期頃の急激な体の成長、特に身長の伸びを「成長スパート」と呼ぶこととします。

 前回お伝えしたように、子供の成長には個人差があり、その成長スピードや伸びる方向は大人のそれとは全く違います。大人は横方向に大きくなる一方、子供は縦方向の成長、つまり身長が伸びます。

成長スパートで一年間に男子は11.4cm、女子は8.7cmくらい背が伸びる
 スポーツをしている子供(エリートを含む)と一般的な子供を対象に、成長のピークと運動能力の関係を調査した研究があります(Philippaertsら2006年、Yagueら1998年)。もちろん人種や国によって異なりますが、1998年の調査で、身長の成長スパート(背が伸びるスピードが人生で一番速くなる時期)は、男子は11.4cm/年で13歳、女子は8.7cm/年で12歳と報告されています。

多くの運動能力は成長スパートの時期に発達する
 運動には、以前もお話したように4つの要素があります(note : 「ちゃんと取り入れたい運動の4要素」)。ここでもそれぞれが伸びるタイミングは少し違いますが、おおむね成長スパートの時期に伸びていくと言えそうです。

運動の4要素ごとの伸びるタイミング
 瞬発力を見るジャンプ、柔軟性を見る前屈は男女とも成長スパートの1年後以内に、心肺機能をみるシャトルランは女子は成長スパート前、男子は成長スパート後に、俊敏さダッシュで走る速さ筋肉の持久力をみる腹筋運動は、成長スパートの前に最大の伸びがあるようです。研究によって結果は色々なので興味のある方は色々な論文を読んでみてください。まだコンセンサスは得られていないようです。

モーターコントロールは一時的に落ちるかもしれない
 体の動きを調整する能力、つまりモーターコントロールはこの時期に一時的に落ちるとも言われています。これには英語で名前がついていて、Adolescent awkwardnessと言います。日本語にすると「思春期の変な感じ」といったところです。まだ、メカニズムについて確立した考え方はないのですが「体の成長に感覚がついていけない」のが原因の一つではないかと言われています。

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体のサイズの変化に頭(脳)がついていけない
 150cmという体サイズに慣れて、体の動きに関する情報処理していた末端の神経や脳が、1年で160cmになってしまうと「動きが大きすぎるぞ!」「重すぎるぞ!」となり、ちょっと混乱します。160cmバージョンの指令に切り替えるのに時間を要する訳ですね。その間、なんとなく体と脳の指令に違和感、チグハグな感じが出てしまうのです。

これから研究が進む分野
 どうやら成長スパート辺りでモーターコントロールが落ちそうだということまでは、その症状を示す子供たちの数を数えてわかってきました(疫学)。しかし、体の中でなにが起こってそうなるのかということまではまだわかっていません。

モーターコントロールが落ちると運動中のケガのリスクになるかも
 こういったことが注目されている理由の一つがケガの原因にもなりうるからです。ただ、上に書いたように、いつ、なぜこのバランス能力の低下が起きるかまでは解明されていません。この時期や特にどの部分のコントロールが落ちるかということまで分かれば、効果的なケガの予防策が作れるわけです。

【まとめ】
・子供は成長スパートで1年に約10cmほど身長が伸びる
・多くの運動能力は成長スパート辺りで発達する
・モーターコントロールはこの時期、一時的に機能が落ちるかもしれない
・体のサイズの変化に脳神経がついていけないのも理由のひとつ
・モーターコントロールの悪さはケガにもつながる
・この領域はまだ研究途中だが、研究が進めば子供のケガを減らせるかもしれない

 子供の時期に体を動かしておくことは、将来の健康にとってとても大切なことです。転ぶことが悪いのではありません。大きなケガは避けた方がいいのです。

 私たちはトライ&エラーを繰り返して学習するので、小さな失敗をたくさんして、学んでもらいましょう。この加減を知るために、大人は子供のからだのことを知り、アドバイスしてあげるといいと思うのです。

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