【Doctor Tのスポーツ医学】イギリスで学んで来たスポーツ医学②スポーツ医学は幅広い!
こんにちは、Doctor Tです。前回は、スポーツ医学のさわりで、
①整形外科医以外の「スポーツドクター」が存在し、医者以外の専門職との協力も必要である
②アスリートの問題だけではなく、一般の人の健康維持の方法としての運動がある
ことを説明しました。
個人的な意見ですが、いわゆる日本のスポーツ医学は海外のそれと比べると狭義で捉えられていると感じます。
UCLでの授業内容を紹介することで、イギリスでのスポーツ医学の一部を知ってもらえればと思います。
MSc Sports Medicine, Exercise and Health
University College London (UCL)
UCLはロンドンの中心部に位置する総合大学です。医学部は大学ランキングで評価も高いですが、スポーツ医学のコースはまだ新しいです。(イギリスも2012年のロンドンオリンピックを契機にスポーツ医学が発達してきています。)
このコースの期間は1年間(フルタイム)です。学生は、医師(日本でいうかかりつけ医師のGeneral practitioner (GP)、研修医)、理学療法士、Strength&Conditioningトレーナー、スポーツアナリストなど多岐に渡ります。
カリキュラム
スポーツ外傷(上肢、下肢、頭頸部と脊椎) Sports Injuries
外傷予防 Advanced sports injury and prevention
スポーツ生理学 Sports physiology
健康と運動 Health and Physical activity
チームイベント医学 Team and Event Medicine
統計学など研究の基本 Research Methodology
研究プロジェクト(修士論文のための研究) Research project
*この回では1、2と4についてお話し、3と5は次回以降に回します。
スポーツ外傷・外傷予防
スポーツ外傷はスポーツ医学の勉強のコア
もちろんこの分野はスポーツ医学のコアです。外傷や使い過ぎによる故障を理解するためには正常を知らなければならず、これがとても勉強になりました。私が感じた学習内容の比較がこちらです。
今は「予防の時代」
スポーツ医学と聞くと、けがの「治療」を思い浮かべる人が多いと思います。確かにこれは外せませんが、このスポーツ外傷の分野はそれだけではありません。
今は予防の時代です。特にエリートアスリートの場合は深刻です。けがをしてしまったら、治療の間、練習試合に出られず(場合によっては契約解除の可能性もある)、しかもけがをする前の状況に戻る保証は一切ありません。
この予防策というのは体の動かし方だけに限ったことではなく、トレーニングメニューや、シューズなどの道具の改良、そもそもその競技ルールの変更、追加にも当てはまります。例えば、アメフトで脳振盪を減らしたいと考えた時に、「ルールで、高い位置でのタックルを制限したら、脳振盪が減るか」などです。
健康と運動
スポーツ、運動、体を動かすこと
スポーツと運動は特に区別して使われないかもしれません。どちらも体を動かします。
スポーツ (sport) はある一定のルールのもとで行われ、競技のような要素を含みます。
運動 (exercise)は体を動かすことに目的があり一定の動きを繰り返します。
体を動かすこと(physical activity)というのは、日常生活で体を動かすことを主に指しています。
Exercise Medicineで今注目されているのがこのPhysical activityです。
日常生活のルーティンに体を動かすことを取り入れる
「ジムには行けないから」「ジョギングしている時間はないから」といって全く体を動かすことを諦めてしまっている人は多いのではないでしょうか?実はこれ、世界共通なのです。
そこで、『着替えて運動するぞ!』としなくても、日常の通勤や家事の中で、もう少し体を動かすことだけでも効果があるんだよということをスポーツ医学の世界では広める活動をしています。(その理由は、以前の記事「いきなりたくさん運動しなくても健康効果あり」を参考にしてください。)
運動によるメリットがあるのは生活習慣病だけではない
生活習慣病に運動が効果的なことはかなり広く知られる事実となりました。生活習慣病以外にも、心不全や肺気腫などの心臓や肺の病気、うつ病などのメンタルの病気、さらに大腸がん、乳がんなど一部のがんにもメリットがあります。
運動はがんに対しても有益である
がんに関しては予防のためにも、治療のためにも、運動することに意味があります。
いくつかのがんは肥満がリスクであるため、運動することで肥満が解消され、がんのリスクが減ります。また、運動による抗炎症作用が実際のがんを起こす流れを抑制します。
治療に関していうと、心肺能力や筋力をつけておくと、治療のオプションが減らずに済みます。例えば、心臓や呼吸機能が悪いから手術ができないなどということを回避できる可能性があります。
また、運動することで精神的にポジティブになることがわかっているので、がん治療で気持ちが塞ぎ込みがちな時にメンタル面でのメリットがあると言われています。
運動は健康な人だけのものではない
それぞれの病気でどのような運動が勧められるのか、運動する前にチェックしておくべき注意点は何かなど、また機会があれば紹介したいと思います。
運動は健康な人のためだけのものではなく、病気になったひとにもメリットがあります。運動するにあたって注意点さえ押さえておけば、ほとんどの場合得られる利益が危険を上回ります。
まとめ
スポーツ医学は医者だけでなく他職種が一緒に学び、活動する分野である
そのカバーエリアはけがの治療にとどまらず、多岐にわたる
けがは予防の時代
スポーツ→運動→日常での体を動かす活動へ注目は広がっている
生活習慣病以外の病気にも運動するメリットはある
運動は健康な人だけのものではない
生理学、チームイベント医学については、次回以降に説明したいと思います。どちらも面白い分野です。
本格的なスポーツにとらわれず、体を動かすことの楽しさを知りさらに健康になってもらえることを願っています!