弓と禅
『あなたは何をしなければならないかを考えてはいけません』
幼なじみの友人と同じ組みで走ることになった。遊びのかけっこは、だいたいいつもこっちが勝っていた。
でも彼は足が速い。
全力で走ってやる。
スタートが大切だな。
滑らないかな。
負けたらどうしよう。
スタートのタイミング合うかな。
あれ、足はどっちが前だっけ。
結果、はっきりと負けだった。
『正しい射が正しい瞬間に起こらないのは、あなたがあなた自身から離れていないからです』
初めてリレーのアンカーに選ばれた。
自分がアンカー。
今度アンカーで走るんだ。
自分がアンカーか。
かっこいいかな。
4人の走力はほとんど変わらなかったので
本当は誰がアンカーでもよかったのに。
むふふ。
アンカーか。
アンカーだ。
よし、かっこいいところを見せてやるぞ。
結果、見事にバトンを落としてビリだった。
『いったい射というのはどうして放されることができましょうか、もし"私が"しなければ』
『"それ"が射るのです』
『"それ"とは誰ですか。何ですか』
試合の相手が、すごく強かった。
いつもは自分のプレーを見せつけてやる、と息巻いて空回りしていたが、何かできるような相手じゃなかった。開始からずっと守りっぱなし。
そっちが上手いのは認めてやる、でも絶対に負けたくない。いくらでも攻めたらいいさ、明日の朝まで守ってやる。
そうしてただひたすら守った。するとたまたまパスカットしたボールがフォーワードに渡り、それが決まった。
試合は1対0で勝った。
『弓と禅』
そばに置いておきたい本。君たちがスポーツに携わるなら、と先生。
こうすればうまくできるはずだ、とアタマ。
「了解しました」とぎこちなく動き出し、
こっちに任せてくれねえかなあ、とカラダ。
弓と禅
君の体を動かしているは君じゃない
僕らはただ宇宙の一部なだけなんだ
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