サッカー場の稼ぎ方
近年、国内でも大型サッカー場の建設や構想が各地で練られている。2024年だけでも広島や長崎、金沢にサッカー場が新たに誕生し、今でも多くの都市でサッカー場の建設構想を練っている都市もある。
このことを考えると、サッカー場の新造というのは近年のスポーツ界のブームの一つである。そこで思ったのは、サッカー場はいかにして稼ぐのだろうか?という疑問である。
こういった巨大建造物はあるだけでも莫大な費用が掛かり、規模によっては数億円必要だ。このことを考えると、スタジアムにとって「お金を稼ぐ」ということは途轍もなく大事だ。
では、スタジアムはどのように稼ぐのだろうか?自論ではあるが、考えてみたい。
※使用している画像はOpenAIの生成AIを使用したものであり、著作権法上の問題もないとの見解をOpenAIは示しています。
貸館収入
まずは貸館収入である。その名の通り、スタジアムを貸し出して収益を得るものである。
フィールドの貸し出し
サッカー場ではJリーグ、つまりプロスポーツ戦の開催がその主であり、スタジアムを支える大黒柱である。Jリーグチームのホームスタジアムであるだけで年間で19試合のリーグ戦開催がほぼ確約されており、時には天皇杯やリーグカップ戦、大きなスタジアムでは日本代表戦が行われる。また、チームによってはWEリーグの公式戦が行われることもある。
それ以外にもラグビーやアメリカンフットボールといった他のフットボールの大会を行うこともあり、変わり種では野球やモーターレースなどが行われたケースもある。
また、プロスポーツが行われない日には市民や学生スポーツ向けに貸し出しを行っていることも多く、都道府県の選手権大会や高校サッカー選手権の都道府県予選(関東では本選も開催されることがある)など、アマチュアの大会で広く使われるJリーグチームの本拠地スタジアムも多い。
それ以外にも様々なイベントを開催しており、エディオンピースウイング広島ではスタンドとフィールドを活用して学会が行われたこともあった。
なお、プロスポーツに対する貸出料金は市民利用やアマチュア大会開催時よりは高値にしており、その多くがアマチュア利用の倍~数十倍の料金である。また、入場者数により収益の数パーセントを徴収する料金設定であることも少なくない。要するに客が来れば来るほどスタジアムとしては稼げる形態であり、貸し出した団体に収益が依存するため、貸し出し先やタイミングによっては莫大な収入を得ることができるケースもある。
また、音楽コンサートなどスポーツ目的以外のスタジアム貸し出しも都市部の大きなスタジアムを中心に行っている。しかし、芝へのダメージ、交通混雑や騒音といった公害の発生など、懸念事項が多いことから、条件の整ったスタジアムでなければ行われることは少ない。もっとも、こういったコンサートは人工芝を敷設してる都市部のドーム球場で行われることが多い。
フィールド以外の貸し出し
サブフィールドを持っている場合はそのフィールドを市民や他のスポーツに有償貸出することも可能だ。例えば、ジェフユナイテッド千葉の本拠地である、フクダ電子アリーナ周辺にはサッカー場が4面、野球場が7面、20面のテニスコートやグラウンドゴルフ場やスケボーパークなどがあるスポーツコンプレックスであり、それらは広く市民に貸出されていて、収入源にもなっており、これらの広い土地を活かして、音楽フェスを複数誘致しており、新たな音楽フェスの聖地となっている。このとき、フクダ電子アリーナ、つまりスタジアムはスタンドしか使用しておらず、Jリーグスタジアムの芝が傷むことはない。
フィールド以外にも付帯施設が多い会場であれば、フィールドを貸し出さずとも貸館収入を得ることができる。
多くのサッカー場には大会本部室や会議室、VIP室などの諸室が設置されているが、それらは広く一般に貸し出しされており、MICEの会場や地域や市民向けのイベント会場としての活用が行われている。また、スタジアムには広いコンコースがあることが多いが、そこをイベントスペースとして活用する事例がある。2024年の事例であれば、パナソニックスタジアム吹田では、コンコースを主な会場として、市民を対象にしたフリーマーケットや展示会を開催した。
※MICE・・・Meeting、Incentive travel、Convention、Exhibitionの4つの頭文字を合わせた言葉・造語で多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどを指す総称。
さらに、有名な施設であれば撮影利用がされることが多い。主に映画やドラマのロケーション撮影や雑誌のスチール撮影などに活用されており、この場合、芝生・フィールド内に立ち入らない条件であれば数万円で貸し出していることが多い。
このように、貸館収入はスタジアムの収益の根幹をなすものではある。その一方で不安定要素が多く、さらに、芝生の養生などの理由で稼働率にも限界はある。
公共による支払い
地方公共団体からの支払いは日本のスタジアムの主な軸になっている。
日本のサッカー場のほとんどは地方公共団体が所有している。そのため、スタジアムの建設経緯の多くは公共施設としての建設や国民体育(スポーツ)大会用の会場確保を目的としており、官営の運動公園内に建造されることもある。それもあって、行政による維持費の支払いや補助金、税制上の優遇を受けているスタジアムは多い。
また、国家単位での補助金の助成や(出典)、スポーツ振興くじによる助成も行われており、特にスポーツ振興くじはサンガスタジアム by KYOCERAには30億円の助成が行われるなど、日本のスポーツ施設建設には欠かせない存在となっている。(出典)
しかしながら、税制上の優遇には限界がある。栃木市にあるCITY FOOTBALL STATIONは民設民営のサッカースタジアムとして、2021年5月に完成した。私企業が約17億円の建設費と年間約7000万円の維持管理費を負担する見返りに、市が固定資産税と公園使用料を免除した。
しかし、サッカースタジアムの固定資産税や公園使用料を市が免除しているのは違法だとして、免除差し止めを求めた住民訴訟が起きた。
市は地域活性化や財政改善効果などから、税と使用料の減免について公益上の理由を主張していたが結果、減免を認める強い公益性は認められないと判断され、2023年10月18日に行われた控訴審で東京高裁は市側の控訴を棄却する判決を出した。栃木市は上告を断念した上で、運営会社に2年分の固定資産税と4年分の公園使用料を請求すると発表した。
この判例により、サッカー場に限らず、税制上の優遇などを受ける場合は公益性の観点から注意しなければならないことが分かった。
これに関しては地方公共団体によって異なるため、建設したい団体と行政が慎重に擦り合わせる必要がある。
非貸館収入
その名の通り、施設を貸し出さずして収益を得る方法である。ここではCOI(Contractual Obligated Income:契約上で金額・期間等が定められた収入)を中心に考える。
貸館収入は不安定かつ限界があり、行政からの優遇も制約がある。それを考えると、ここでの収入が重要である。
ネーミングライツ・スポンサーシップ
他の企業と契約を結び、施設などの命名権などを与えるネーミングライツがそれの代表例だろう。
2002年秋に東京スタジアムがネーミングライツ制度を導入して以降、様々な施設に命名権が導入されており、官営・民営問わず、スポーツ施設の多くには企業名がつけられている。
また、入場ゲートや座席など、多くの箇所にネーミングライツが導入されているケースもあり、ネーミングライツによる収入は拡大傾向にある。
企業のスポンサー契約に応じ、スタジアム内に様々な企業の広告を掲載することも非貸館収入の一つである。
これらの広告はスタジアムの庇や壁、柱、さらには外周の壁や床といった部分に掲載される。それらはFIFAなどによってクリーンスタジアムが義務付けられないかぎりはは様々な目的で訪れたファンの前に掲載され、広告となる。
シーズンシート
本拠地としているクラブのシーズンシートも非貸館収入の一つに数えられる。
シーズンシートは年間で買い切りのため、まとまった収入となる。基本的にはクラブの収益になるが、シーズンシートによる収益が分かるとスタジアム側もクラブの収益と期待できる使用料が計算しやすい。スタジアムにとっても確実に受け取れるような固定的な収益である。
なお、これらのシーズンシートは個人・法人問わず売られており、固定収入のバロメーターともいえる。
また、VIP席がクラブのシーズンシートとして売り出されることがあるが、これらは非常に高額であるため法人が年間購入することが多い。また、VIP席は先述のように諸室として貸し出しもできるため、貸館・非貸館収入の両方に影響する。
その他
スタジアム内、特にコンコース内には飲食店やグッズショップがひしめくことがある。もちろん、それらはビルなどのようにテナント収入となっており、この非貸館収入の一つである。
こういったテナントに対しては、家賃を受け取ったり売上の何割かを手数料として徴収しているパターンもある。
また、スタジアムツアーなども非貸館収入の一つである。イベントが何もない日はスタジアムのバックヤードを見学できる有料ツアーを多くのスタジアムで行っており、収益を生み出している。直営のミュージアムを設置しているスタジアムも存在している。
さらに、車社会であれば駐車場収入も見込める。試合の日はサポーターの利便性を高め、そうでない日は安価に貸し出して市民利用に充てるなども可能だ。
加えて、ライセンス収入も存在する。かつて、ウイニングイレブンにJリーグのスタジアムが収録されていることがあったが、それらにはゲーム会社よりライセンス料が支払われている。
まとめ
スタジアムの収入は多岐にわたる。しかし、日本のサッカースタジアムの収益は行政頼みであることも多く、民設民営のスタジアムは2024年8月時点で大きなものは開業していない。
それもあってか、Jリーグのスタジアムは陸上競技場であることが多い。陸上競技場は国民スポーツ大会などの大会で行政が整備することが多く、そこにJリーグのクラブが本拠地として定めることが多い。
しかし、サッカースタジアムが自力で稼げるようなビジネスモデルが構築されればどうなるか。クラブや民間の私企業が作った、魅力的で、ファンファーストで、デカくて、楽しいスタジアムが全国各地にできるだろう。
その為にはサッカーというものをさらによりよくしていかなければならないのはもちろん、ビジネスとしてさらなる成熟に導かなければならない。これは日本サッカー界が欧州に肩を並べるための重要なステップであることには間違いない。