東欧古城漫遊記:あの漫画の世に遊んだ十年の記録と記憶。
圧巻のゴツさと廃れの美に魅了され、ひと昔前まで《東欧》と呼ばれた国々の古城に遊んで十年になる。猛虎襲来の煽りで、1985年10月16日、道頓堀の闇に放り落とされたカーネル・サンダース像が、23年後に引き揚げられ、また陽の目を見たように、ゴツかわいさと威厳を放つ古城の存在感は、数百年の紆余曲折を経て、いま、メモラブルに誇り高く際立つ。
仕事ついでに、ポーランドサッカー界のエースストライカー、ロベルト・レヴァンドフスキ(FCバルセロナ)の戦車の様にゴツい肉体と、その巨漢がピッチを暴れ回り、ゴツ〜んとゴールマウスに叩き込むゴっツいヘディングシュートを目の当たりにする度に、まるで威圧感あふれる東欧の古城からドカンドカンと発せられし豪砲のような弾頭だ、と城景が浮かぶほど、どっぷりハマった歳月である。
こどもの時分『ドラゴンボール』に描かれしレッドリボン軍のアジトの世界観には度肝抜かれたものだが、ペンギン村みたいな田舎育ちの身としては、鳥山明氏の豊かな空想力が産んだ100%架空のアートだろう、くらいに想っていた、が、どうやらモデルは実在した。
エストニアの首都・タリンにニョキニョキ聳え立つタワー群。リトアニアのトラカイ城。ポーランドのマルボルク城。などなどは、レッド総帥の本陣のように赤茶けた尖塔が、赤裸々に刺激的に衝撃的に、ボカンボカンボカンと目に飛び込んで来て、目の前の現実を疑った旅の記憶が蘇る。山頭火風に感慨を詠むならば、
わけいっても わけいっても 赤いヤマ。
ルーマニアの古城群も粒揃いで『吸血鬼ドラキュラ』の舞台と噂されるブラン城(実際には、実在したドラキュラ公※ヴラド三世の居城ではなく、祖父のミルチャ公が暮らした城)が有名だが、城の外観的に圧倒的なのは、フネドアラ城(コルヴィン城〕である。そのドラキュラくんも登場する『怪物くん』の怪物ランドのモデル城ではないだろうか?息を呑む絶景の中に、豪快にたたずむ巨城がお目見えするや、仰天目を奪われた。谷底から夜な夜な狼男くんの遠吠えが聴こえて来そうな雰囲気でがんす。怪物くんは、ルーマニア国旗を象徴する黄・赤・青を身に纏っているわけざますよ。
※ドラキュラ公の生家は世界遺産に登録されているシギショアラの歴史地区に遺されており、現在は、ドラキュラを売りにしたアミューズメントレストランとして営業している。地下のドラキュラちゃん生誕スポットで写真を撮った際には、幽霊みたいな白い靄がピンポイントで写っていてゾクっとした記憶も蘇るが...ぉギャ〜〜!
『天空の城・ラピュタ』のモデルでは?と目されるのがスロヴァキアに在るスピシュスキー城である。古城の廃墟であるが、高地に存在する為に、頻繁に朝靄や風雲に雲隠れする。その靄や雲が切れて城壁の頭がお目見えする際、天空の流れに浮かぶようなスピシュスキー城の残骸はラピュタ感満載で、実に幻想的に映える。
『魔女の宅急便』の舞台の一つと囁かれる街が、クロアチアが誇るリゾート地・ドゥブロブニクである。真っ青なアドリア海を見下ろす城塞都市の夏は、燦々と赤るく美sea街並みが広がる。
海の無いチェコに、コロナ禍幽閉されたように暮らしていた身にとっては、獲れ立ての魚貝類やイカ墨のパスタが美味しくて、広島んちゅの胃袋はホッとしたもんじゃ。港で漁師から分けてもらったお魚を咥えた猫が、我が物顔に波止場を闊歩し、お腹いっぱいになったらまた、陽なたぼっこしながらお昼寝している境遇も「悪くない」と唸った。
レッドリボン軍の本拠地に憧れバルト三国を横断し、トランシルヴァニア地方を大遠征して怪物ランドと思しき大城に足を踏み入れ、天空の城ラピュタを地上に見つけ、キキとジジが箒で飛んだ眼下の街をうろつき、カレル橋に一目惚れしてプラハ城のお膝元に暮らした旧東欧諸国十年の歩みは、7つのドラゴンボールを集めて廻るようにワクワクドキドキの大冒険だった。
普段は、怪物くんのようにかわい娘ちゃんが好きで、亀仙人のようにパフパフも好きな梵人だけど、旅の空では悟空やパズーみたいな純心や冒険心も宿った。一方で、古城って軒並み、ピッコロ大魔王と云えば大袈裟だろうが、ドラキュラ伯爵やピラフ様並みに君臨したキングダムの、野蛮で残酷な悪夢の跡やもしれぬ。城の中には残忍を極めた処刑道具が並べられ、血で血を洗った哀しい記憶が詰まっている。ピラフ様は憎めないが、おどろおどろしい古城内部の陰気は御免だ。
だからこそ、のほほんとブルマさんみたいな素敵な美女を誘って、ランチも兼ねて、御当地の焼き立てパイパイ...じゃなくてパイなどをちょいちょいつまみながら、粋な古城の外観だけを見上げつつ、美観と美女と美食が並んだ平和ボケに感謝しながら、ただ美味しいばかりの旅をするのも、乙である。ひき肉やキノコ、チーズやベジタブルのギュっと詰まったポーランドやバルト三国のパイは、こってり濃厚ヤミツキになるディープさで、寝ても覚めても涎がタレた美味しい記憶が並ぶ。ひとり旅の場合は、テイクアウトして、古城を眺める絶景スポットで気ままに半分だけ食べて、夕飯にまた半分温め直して食べるアンチメタボリックな、ひとり旅ごはんの流儀も、また乙である。