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過去から未来へ Vol.1 ~書籍『物語 日本のハンドボール』をもとに~

スポーツイベント・ハンドボール本誌で現在も連載中の「過去から未来へ」。日本のハンドボールの歩みを紹介した書籍『物語 日本のハンドボール』をもとに、ハンドボールの生い立ち、歴史に触れ、未来を切り開いていってほしいという願いをベースに、書籍に記された事象や時代背景をより掘り下げてお伝えする当連載を無料公開していく。

著者:杉山 茂(すぎやま・しげる)スポーツプロデューサー。
元NHKスポーツ報道センター長。慶應義塾大学卒。オリンピック、主要国際大会などのテレビ制作のかたわら、スポーツ評論の著述を手掛ける。近著に『物語 日本のハンドボール』 

日本のハンドボールとは

――『物語 日本のハンドボール』を著そうと思われたのはなぜでしょう

大きなきっかけは、2018年のジャパンカップ、東京体育館での日本対ドイツ戦を観ていた時のことです。

前半は記者席で観ていましたが、観にくいのでスタンドに上がったところ、20代の若者3人が、ドイツを、とくにウヴェ・ゲンスハイマーを観に来たようで「スピンシュートを観れば満足だ」といった言葉を交わしていました。

「どうして?」と考えたところ、彼らはインターネットの映像でゲンスハイマーやミケル・ハンセン(デンマーク)、リュク・アバロ、ダニエル・ナルシス(フランス)らを知っているのだと思い当たりました。

日本代表の土井レミイ杏利(大崎電気)や東江雄斗(大同特殊鋼)を知らなくても、本場のスターは知っている。日本ではなくヨーロッパの映像を見て、ハンドボールはおもしろい、と感じる人も増えるだろうと思いました。

これは新しい傾向です。ハンドボールをおもしろいと思ってもらえるのはうれしいことですが、このような入り口からの愛好者が、日本代表や日本リーグの試合を観て、満足できるのだろうか。ハンドボールは好きでも、日本のハンドボールの知識がまったくないままになってしまうのではないかという危惧も抱きました。

また、開催されるであろう2020東京オリンピックのハンドボール会場には、1日のべ2万人とすれば、競技15日間で計30万人が観戦に訪れますが、初めてハンドボールを観て、ハンドボールはおもしろい、と思ってくれる人も少なくないはず。

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長年現場で取材を続けてきた著者だからこそ書けた、日本へのハンドボール伝来から現在までを追った力作。(杉山茂著、グローバル教育出版発行)

「東京デビュー」の愛好者をいかにつかんでいくかも、日本ハンドボール界としては大きな課題です。海外デビューや東京デビューの人たちに「ハンドボールとは」と伝えるテキストはなにもないのが現状でした。

ハンドボールに関する素晴らしい書籍は多くありますが、いずれも競技者、愛好者向けのもの。また、1922年のハンドボール伝来からの歴史をまとめたテキストも皆無です。この現状をなんとかしたいと思い立ったのが、この書籍を著そうとしたきっかけです。

――この書籍を通じて、伝えたい、「その心」を聞かせてください

ハンドボールは世界のスポーツの中でも、じつに特異なものです。

第一にイギリス(大英帝国)やアメリカ育ちではありません。これは近代スポーツでは珍しく、ほかにはカナダ発祥説とフランス発祥説のあるラクロスぐらいです。

第二にまったく同じネーミングの競技があること。アメリカで「ハンドボール」と言えば、ラケットの代わりに手でボールを打ち返す「ウォールハンドボール」を意味します。

第三に同時に7人制と11人制が存在したこと。1938年に開かれた世界選手権は、室内での7人制が先に行なわれています。

こうした生い立ちを持ったスポーツはほかにありません。

また、このイギリス、アメリカ育ちではない、という特性が、生まれながらにハンドボールを苦しくしている、とも言えます。イギリス、アメリカ育ちのスポーツのような国際的な発展の手段を持たなかったからです。

ハンドボールの特徴や魅力は「走る・跳ぶ・投げるの三要素がバランスよく含まれていること」とよく言われますが、それはほかのスポーツと大きく変わりません。

ほかのスポーツとの違いは、生い立ち、その後の進んだ道の特殊性にあり、それこそがハンドボールの魅力だと私は思っています。

――昔を振り返るだけでなく、若い世代へのメッセージも含まれていますね

多くの人が、縁あって出会い、こよなく愛しているハンドボールを見つめ直したり、さまざま興味深いテーマを探して研究し、新たな歴史や事実を明らかにしてくれたらと思います。

「この本に書いてあることと、ぜんぜん違うじゃないか」という指摘を受けるならば、むしろうれしいです。書籍のはしがきに記した「『ハンドボールのこと』が、あまりにも知られていない」という現状が、少しでも変わっていくことを願っています。

 次回以降は毎月のキーワードをもとに『物語 日本のハンドボール』のより深い理解につながる事象のクローズアップや時代背景をお伝えしていきます。お楽しみに。

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