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女子アスリート健康相談室Vol.7 もっと女性の身体を知ろう③

近年、女性特有の課題が取り上げられることが多くなってきました。みなさんも女性の身体について正しい知識を身につけ、より素敵なハンドボールライフを送りませんか? 弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年12月号から20年6月号まで連載していた婦人科スポーツドクターの高尾美穂先生による「女子アスリート健康相談室」を全文公開します。最終回となる第7回では前回に引き続き、女性の身体にまつわる疑問質問にお答えしていきます。
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高尾先生プロフ


7回目を数える本連載も今回が最終回。第6回に引き続き、みなさんからの疑問、質問にお答えしていきます。

生理用品はなにが適当?

松やにの使用やシュート時の体勢などを鑑みると、日本で一般的に使用されているナプキンでは、「替えるのが大変」「ずれてしまう」と、困っている人が多いこともうなずけます。

サイズを大きくしたり、ショーツタイプにしたりしても解決できないのであれば、タンポンの併用もオススメです。ナプキンとの併用で3時間くらいは問題なく過ごせると思います。

実際、「タンポンを取り入れて楽になった」という声もありました。話しづらい内容かもしれませんが、役立った解決法は、ぜひ周囲に伝えてほしいです。

ヨガやマッサージで身体の中から温めよう

生理痛を引き起こすプロストグランジンは、子宮を握りしめる時に血管も収縮させてしまいます(第3回参照)。そのため、骨盤周りの血流が落ちて皮膚が冷たく感じます。生理中の一番つらいところを過ぎたあと、まだ生理は続いているけれど、落ち着いてきた時期に、むくんだり、身体がダル重く感じたりする人も多いのではないでしょうか。

カイロの使用も1つの解決策ですが、温まるのは皮膚と筋肉まで。そこで私がオススメしているのはヨガです。筋肉を動かせば、冷えを感じている部分に意図的に血液を集め、身体を内側から温めることができます。ヨガだけでなく、ストレッチでもOK。身体が楽に感じますよ。

生理前後では体重が変化。気をつけるべきことは?

生理前はエストロゲン、プロゲステロンのせいで、生理中は失血状態となることで、身体がむくみやすくなるので、2㎏くらいの体重の上下は想定される正常な変動です。これはほぼ水分量の変化なので、脂肪、筋肉の増減はほとんどありません。

この時期に気をつけるべきは、塩分摂取量です。塩分を取りすぎるとよりむくみやすくなるので、とくに夕食において、塩気の強いものを控えましょう。タレなら、かけずにつけて食べれば塩分を減らすことができます。

なお、水分量が増えないようにと、水を控えてはいけません。それよりも、塩分を取りすぎないことが大切です。

また、なにが食べたくなるかというのは、生理周期のどの時期によって変化します。補食として好きな間食を3つくらい選んでおいて、どの時期になにを食べたくなるかを観察してみるとおもしろいですよ。

生理前は食欲が増加。我慢せず食べて大丈夫?

生理前は血糖値が一気に下がるので、確かにいつもより空腹を感じます。だからといって、満腹感が得られるまで食べてしまうのは考えものです。

しかし、どうしても我慢できない時には、脂肪分が少なく、かつ、しっかりエネルギーが取れるものを補食として食べることをオススメします。チョコレートなどのお菓子を食べてしまうと、「あれを食べちゃったから…」と、精神面にも影響してしまう可能性も。そうならないように、自分で考えて食べるものを選択することが大事です。

生理前は精神面が不安定。オススメの対処法は?

まず、不安定な時期がいつかを把握し、原因を考えてみることが大切。それがわかれば、対策ができるはずです。大事な予定は好調な時期に合わせるのもいいですし、ピルの服用も精神的な不安定さに効果があります。

また、イライラしたら深呼吸をしましょう。息をしっかり吐くと副交感神経が優位になり、感情をうまくコントロールできるようになります。

例えば、バレーボール元日本代表のある選手は、サーブを打つ時は大きく1回息を吐いてから打っていたそうです。このように、トップの選手は「自分がうまくいく方法」を自然と身につけています。みなさんも、自分なりの解決策を探してみてください。

それと同時に、物事を前向きに捉えるトレーニングも、アスリートにとっては重要なことです。メンタルコントロールの方法を身につけて、「この時期は仕方ない」と割り切れるようになることも必要だと思います。

そして「生理前はいまいちだ」と思ったら、周りにもそれを理解してもらう努力をしましょう。精神的に不安定な時期は攻撃的になりがちですが、その理由を伝えておけば、相手の受ける印象が違うと思います。しかし、それが過剰になるようであれば、婦人科を受診してください。

なお、トップアスリートにアンケートを取ると、その多くが生理中は「情緒不安定になる」「テンションが下がる」と答えます。生理中に不安定なのは、あなただけではありません。「テンションが下がっている時は若干練習で手を抜く」と答える選手も。トップ選手でもそう感じていると覚えておけば、少しは気が楽になるのではないでしょうか。

女性特有の課題は生理痛以外にも!

これまで紹介してきた症状以外にも、婦人科系の疾患はさまざま。カンジタもその1つで、睡眠不足やストレスなど、口内炎のように体調が悪いと、かかりやすい病気です。

カンジタに限らず、婦人科系の疾患は恥ずかしいと思う人も多いようですが、隠したりする必要はまったくありません。よくある病気の1つです。

女子選手にかかわる人に覚えておいてもらいたいこと

まずは指導者のみなさんへ。選手本人から指導者に対して、調子のいい時、悪い時を申告することは、やはり難しいことです。それでも選手のコンディションはきちんと把握しておきたいところ。工夫をしながら情報をゲットしていきましょう。

練習日誌に調子の良し悪しの項目を設けて必ずチェックさせるという方法であれば、比較的申告しやすいと思います。今の時代はアプリもありますし、監督が男性でも、女性スタッフがいるのであれば、その女性と連携を取りながら選手の状態を把握するという方法もあります。そういったところから少しずつ信頼関係を築いていきましょう。

また、男性指導者が女性特有の課題についての理解が少ないというケースに加え、女性指導者が「自分は大丈夫だったから」と配慮に欠けてしまっているパターンも少なからず見受けられます。現在は、同じ生理でも、自分と違う経験をする人がいるということを念頭に置かなければならない時代です。選手本人が「今は調子の悪い時期だ」という認識をしているのであれば、その意見を尊重してください。

そして、女子アスリートのみなさんへ。女性特有の課題と向き合うにあたって「自分のコンディションがなにに影響を受けているのか」を考えましょう。

例えば、「生理中で思うように身体が動かなかったから、シュートを外してしまった」「昨晩よく眠れなかったから、ミーティングでイライラしてしまった」といったように、なにかしら自分の中でうまくいかなかった理由を探す習慣をつけてください。そうすると、どこを改善するべきかが見えてきます。

その際、「赤いパンツを履いたから」といった非科学的な要因ではなく、必ず科学的な観点から自分なりに因果関係を探してみましょう。

なにかできることはないかと考え、実行することはとても大切です。自分に合う方法を模索しながら、素敵なハンドボールライフを送りましょう!

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