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女子アスリート健康相談室Vol.5 もっと女性の身体を知ろう①

近年、女性特有の課題が取り上げられることが多くなってきました。みなさんも女性の身体について正しい知識を身につけ、より素敵なハンドボールライフを送りませんか? 弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年12月号から20年6月号まで連載していた婦人科スポーツドクターの高尾美穂先生による「女子アスリート健康相談室」を全文公開します。第5回からは女性の身体にまつわる疑問質問にお答えしていきます。
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高尾先生プロフ

この連載では、女性特有の課題についてみなさんに知っておいてほしいことを、4回にわたってお伝えしてきました。今回からはみなさんの疑問、質問にお答えする形で、話を進めていきたいと思います。

また、ハンドボールという競技に合ったアドバイスができるよう、日本リーグ所属の女子チームのみなさんにアンケートへご協力いただきました。トップリーグの選手の悩み、解決法も、参考にしてほしいと思います。

生理痛がつらい時薬以外の対処法は?

ハンドボーラーの声を集めてみると「薬を使いたくない」という考えがベースにあるようですね。「薬に頼る前にできることはないか」との質問が多く寄せられました。

私は診察の際、食事などでの体質改善は多くの人に当てはまるわけではないので、残念ながらその観点からのアドバイスはしていません。それに「なぜ効果があるとわかっているのに、薬ではダメなのだろう」とも思います。

「薬に頼りすぎてはいけない」という思いがあるのかもしれません。しかし、一般の人ならば「薬を飲みたくないのであれば休みなさい」と言うことができるものの、つらいからといって簡単には休めないのがアスリート。今は、「つらいのならば対策を考えよう」という時代です。スポーツ選手は、トップレベルであればあるほど、高いパフォーマンスを出すためのコンディション管理として、薬の服用を含めた課題解決の方法を考えてほしいと思います。

そこで、少しでも不安が和らぐように、薬の服用についてもう少し詳しく解説していきます。

これまでお伝えしてきたとおり、女性特有の課題を解決する薬である鎮痛剤、ピルは、婦人科で処方されるものはすべてドーピングチェックには引っかかりません。まず、その点は安心してください。

鎮痛剤の使用に関しては、朝昼晩1回1錠で2〜3日間服用するくらいなら、心配せずに使用すればいいと私は思います。多すぎると言えるのは、規定量を飲んでも効かない場合。そういった状況であれば、一度婦人科で診てもらいましょう。

ただし、そもそも生理痛で困っている時点で病院に来てほしいですし、指導者のみなさんは、困っている選手に婦人科受診をすすめてほしいと思います。

病院で生理痛を重くする病気の有無を確認。病気なら治療、そうでないのなら、鎮痛剤が効くはずだと考えて、1回の生理期間のうち丸2日くらいはしっかり飲んだ方が、楽に過ごせます。毎月使ったからと言って、効かなくなることはありません。痛みに対して早いタイミングで薬を飲むことで、症状が改善されることも多いですよ。

また、一般の人に対する治療法としては、漢方薬を使うという選択もあります。しかし、アスリートのみなさんは、ドーピングチェックに引っかかる可能性があるので、漢方薬の使用は避ける習慣を身につけましょう。

漢方薬の成分は動植物や天然由来のため、禁止薬物が含まれないという保証ができない、かつ、意外と禁止薬物に相当する成分が多く含まれています。ですから、アスリートであるうちは、そもそも漢方薬は選ばないという意識を持ってください。

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つらい生理痛を放置した時引き起こされるリスクは?

生理痛が重い人と、あまり痛みを感じることがない人とでは、将来的に子宮内膜症を発症する可能性が2.6倍も違います。生理痛がひどいと感じている人たちの方が、将来病気になってしまう可能性が高いのです。

この連載では詳しくは触れていない子宮内膜症ですが、この疾患は不妊や発がんにつながる可能性のある病気です。こういったリスクを避けたいと考えるのであれば、早い年代からきちんと痛みへの対策をしましょう。その方が、将来的にメリットがあるとも考えられます。

子宮内膜症の治療、対策として有効とされているのがピルです。基本的にこの薬は、初めての生理が来たら飲み始めてOKです。初経が来てすぐの12、13才からでも使用できることを知っておいてください。

生理が来ないとなぜ困る?

第2回でも少しお話ししましたが、生理不順や無月経の時期があるとの声がありましたので、もう少し詳しく生理の重要性についても解説していきましょう。

生理を起こすきっかけとなるエストロゲンの働きの中で、アスリートにとって一番重要なのが、骨を強く保つことです。

骨全体の7%は、毎日新しく作り替えられています。破骨細胞が骨を壊し、骨芽細胞がその部分を補てんするというサイクルを繰り返しており、破骨細胞の働きを抑えるのがエストロゲンです。エストロゲンが分泌されなくなると、破骨細胞が活性化し、骨芽細胞が補てんする以上に骨を壊してしまいます。

これが骨密度を下げる原因となり、骨折を引き起こします。

女性の身体にエストロゲンがある期間は、生理がある10〜50才前後までの約40年間。この40年の中で、エストロゲンがない期間が長く続くと、閉経後と同じ身体の変化が起こります。つまり、どんどん骨密度が下がっていくのです。

さらに、10代で1年以上生理が止まった経験がある人は、閉経後、骨粗しょう症の有病率が高いことがわかっています。

想像しにくいとは思いますが、10代の生活習慣は50年後の身体を作ります。アスリートの身体が老後はよぼよぼになってしまった…なんてことは望ましくないですよね。だからこそ、自分の将来を考えて、身体がちゃんと機能している=生理が来ていることを確認することがとても大事です。

順調に生理が来ていた人が生理不順になる、生理不順の人が無月経になるといった変化があった場合には、2、3ヵ月さかのぼってみて、ストレスに感じる経験や、環境の変化がなかったかを振り返りましょう。引っ越しやチームの移籍も、ストレスの原因になります。また、体重の大幅な変化がなかったかもチェックしたいポイントです。

エストロゲンは、身体の変化をとおしてちゃんと働いていることを確認できるほぼ唯一のホルモンです。だからこそ、女性のコンディションチェックの1つとして、生理に目を向けてほしいと思っています。

婦人科で「生理が不順です」と相談する際にも、最低1つ前、できれば2つ前の生理が始まった日、終わった日を把握しておきましょう。加えて基礎体温の記録を持って外来に来てもらえると、さらに具体的なアドバイスができます。記録がなければ、私たち医師は想像で話すしかなくなってしまうので、せっかくの時間がもったいないですよ。

とくに周期がバラバラで生理自体があまり来ないという人は、前回がいつか忘れやすいので、ぜひ記録をつけてください。

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次回も引き続き、みなさんの女性特有の課題についての疑問、質問にお答えしていきます。

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