第76話・1997年 『熊本が史上空前の熱い舞台に』
日本にハンドボールが伝来して100年になるのを記念した1話1年、連続100日間にわたってお送りする企画も終盤です。21世紀に入っての20年間は“あすの課題”でもあります。大会の足跡やチームの栄光ストーリーは少なくなります。ご了承ください。取材と執筆は本誌編集部。
(文中敬称略。国名、機関・組織名、チーム名、会場名などは当時)
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熊本での世界男子選手権という、一大イベントが開かれる1年は、年明け早々、明るいニュースで幕を開けた。
前年末の12月29日から年始の1月5日かけ、ハンガリーで開催された第14回世界男子学生選手権で、日本は前回王者・ロシアを破るなどして過去最高の6位に躍進。旧ソ連時代も含め対ロシア戦での勝利は、男女すべての代表カテゴリーも含めて初。熊本に向けて弾みとなるニュースに活気づいた。
『It's possible』(何事も可能になる)をスローガンに掲げるオレ・オルソン監督のもと、身長を伸ばせないならば、体重を増やして世界の大型選手と立ち向かおうと、筋力強化と栄養補給をミックスさせて体重増量に励んだ日本男子チーム。前年のジャパンカップ(第75話参照)や海外に出向いてのテストマッチは黒星が先行し、周囲からは本番に向けての不安の声が少なくなかったが、以前は弾き飛ばされてばかりだった世界の大型選手とのコンタクトで、逆に相手を弾き飛ばせるまでに成長。戦術面も日本のスタイルを確立させて、地元での世界選手権という、大舞台を迎えた。
日本球界全体が待ちわびた第15回世界男子選手権は、5月17日、開会式に続き超満員1万500人の観衆で埋め尽くされたパークドーム熊本での予選リーグA組、日本-アイスランド戦で幕を開ける。
日本はお家芸の速攻も封印して極力攻撃回数を減らし、ポスト、サイドと得点率の高いシュートで勝負する戦いに徹するとともに、この大会の活躍で世界的にもその名を高めた守護神・橋本行弘が神がかり的なファインセーブで失点を最小限に食い止める戦いで、アイスランドに食い下がったが、20-24で惜敗。続くユーゴスラビア戦も19-22と僅差で敗れ、連敗発進となった。
それでも、日本はこの連敗も織り込み済みとばかりに気落ちすることなく、サウジアラビア、アルジェリアから着実に白星を奪い、A組4位で決勝トーナメントへ進んだ。
5月27日、決勝トーナメント・1回戦の相手は前回王者のフランス。指折りの強敵を相手に、どこまで戦えるか、というのが内外の日本評だったが、3:2:1DFを敷いて多くの時間を戦った予選リーグでは披露しなかった6:0DFが功を奏し、守りでリズムをつかんだ日本は前半を11-11のタイスコアで折り返すと、後半スタートで勢いづき、8分、18-13と前回王者から5点ものリードを奪った。
日本が前回王者を倒すという、大番狂わせが現実味を帯び、パークドーム全体も異様な雰囲気に包まれる中、徐々に攻め手を失っていった日本をフランスが懸命に追いかける。残り5分、20-20と同点に追いつかれたあとも、懸命の戦いを見せた日本だったが、タイムアップ寸前にフランスに決勝打を許し、20-21で力尽きた。
順位決定戦は行なわれず、国際ハンドボール連盟(IHF)規定により15位と、残された数字は物足りなかったが、フランスを土俵際まで追い詰めるなど日本セブンの大健闘もあり、大会は序盤戦の観客が中盤戦、後半戦もリピーターとして会場に詰めかけるなどしてヒートアップ。当初は熊本限定での開催に、集客や盛り上がりに欠けるのではという声もあった大会だったが、最終日6月1日までの16日間、80試合で史上空前の20万7679人を集める大盛況となった。優勝はロシア。スウェーデン、フランスと続いた。この大会で後藤登・清水宣雄が日本人レフェリーペアとして初めて世界選手権のジャッジを担当した(3試合)。
日本チームを率い、この熱狂を演出。次のステージでの采配ぶりを期待されたオルソン監督はブンデスリーガの名門・グンマースバッハの監督に転身。その一方で、秋にはヨーロッパからビッグニュースが伝わってくる。日本と死闘を演じたフランス代表の左腕エース、ステファン・ストックランと前回世界選手権優勝メンバーのフレデリック・ヴォルの「日本行き」が報じられた。
男子に続くセンセーショナルな戦いをという期待を背に、11月末からの第13回世界女子選手権(ドイツ)に挑んだ女子は、予選リーグで引き分けたアンゴラに得失点差で上回られ、決勝トーナメントに進めず17位。大会はデンマークが制した。
国内では、中盤戦まで(1~4回戦)をアウトドアコートで行なうことが通例だった全日本高校選手権(インターハイ)を、この夏の京都大会では全試合インドアコートで実施。この大会以降、全試合インドアコートで開催される。
1月、IHFは各大陸男子クラブチャンピオンによる新イベント「スーパーグローブ」を発足させオーストリアでの初大会に大崎電気(埼玉)が推薦を受け参加した。
第77回は10月8日公開です。
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