第三章 知ってるようで知らない「Houseミュージック」〜Spliceの音楽ジャンルをもとに調べてみる〜
こんにちは!Hello! Splice編集部のDTMおじさん、3104(サトシ)です。
Spliceの音楽ジャンル調査記事。前回の第一章、第二章につづいて、今回は「House / Techno」のなかから、ハウスミュージックについて調べてみようと思います!
SpliceのHouse / Technoのジャンルには
House
Tech House
Deep House
Progressive House
4つの「House」があります。この違いを解き明かしていこうと思います。
まず最初に「ハウス」と聞いて僕がイメージするのは、キックが4分音符で「ドッ・ドッ・ドッ・ドッ」(いわゆる4つ打ち)と、ハイハット「チッチー・チッチー・チッチー・チッチー」をあわせて「ドッチー・ドッチー・ドッチー・ドッチー」みたいなリズム。スンマセン、擬音ばっかりで。そこに硬い音色のシンセでおしゃれなコードが乗っかって、たまに効果音的な女性や男性のボイス。
Spliceで探してみたら、
NITELIFE Audio - Sunday Sceneが近かったです。うん、まさにこれ。これがオレなりのハウス。ただしSplice上のジャンルは「UK Garage」。これはハウスじゃないのか?うーむ。
■そもそもハウスって?
まずはハウスミュージックの起源から調べていきます。
いろんな記事・Wikipediaを読んでみたのですが、大抵の記事が、ハウスのルーツとして、2人のDJ・2つの場所にたどり着きます。
それが、
シカゴのナイトクラブ ウェアハウス(The Warehouse)
DJ フランキー・ナックルズ(Frankie Knuckles)
ニューヨークのディスコ パラダイス・ガラージ(Paradise Garage)
DJ ラリー・レヴァン(Larry Levan)
とくにウェアハウスは、「ハウス」のジャンル名の語源になっているようです。さっき僕がみつけたサンプルの「UK Garage」のガラージはパラダイス・ガラージが語源です。
そして、この2つを中心にしたカルチャーには、かなり多くの共通点があるようです。
1977年あたりを起点としている
DJが主催するパーティーイベントが開かれる
アフリカ系・ラテン系のマイノリティが中心
ゲイカルチャーの影響を受けている
ドラッグカルチャーの影響を受けている
ラリー・レヴァンとフランキー・ナックルズはもともと知り合いだそうですが、ほぼ同時発生的に新ジャンルの音楽が発生したようです。
当時のウェアハウスやパラダイス・ガラージの様子を録音した貴重な音源がYouTubeにアップされていたので、上げておきます。
・Warehouse 1977
・Paradise Garage 1979
シンセ中心の「テクノ」ではなく、ソウル・ディスコ・R&Bなど広いジャンルを掛けるナイトパーティーってかんじですね。ピースフルに聴こえますが、人種的・性的なマイノリティが、唯一開放されるのがナイトクラブだったという点では、陰りを帯びたカウンターカルチャーだったんだと思います。
こうして5年ほど続いた最初期のハウスは、安価なシンセサイザーやドラムマシンの普及により、より現代に近いテクノの風味を帯びてきます。次の音源は1983年、フランキー・ナックルズの後釜、DJ Ron Hardyのプレイ。場所はウェアハウスが名前を変えたクラブ、ミュージックボックス(the Muzic Box)です。1977年から1983年は音楽のテクノロジーも飛躍的に発展した期間でもありました。
・DJ Ron Hardy 1983.12.15
後半はシンセやリズムマシンの音が飛び交う、ヒップホップのようなテクノのような、なんとも言えないミクスチャーな音像になっています。いま聴いてもカッコいいんですよねー。
Houseの起源を探ったところで、さぁ、ここからはSpliceにある残り3つのジャンル( Tech House / Deep House / Progressive House)に、どう発展していったのかを見ていきたいと思います。
Tech House(テックハウス)
テックハウスは「テクノっぽいハウス」という意味ですね。テクノの聖地・デトロイトとシカゴ(車で4時間半・意外と近い)が相互に影響を与えながら発展してきたジャンルのようです。このムーブメントはヨーロッパにも広がって、ドイツ / フランス / UKのレイブカルチャーに発展していきます。
・Fisher
よりテクノっぽいものも紹介します。
・Sebastien Leger - Like Before
さて、Spliceには、どんなTech Houseがあるんでしょうか?
AudiotentのDeep Tech ToolsというPackを題材に分解して見ていきましょう。
・定番のキックの4つ打ち
11_Audiotent_-_DTT_-_KIT_1_DROP_-_Kick_F#
・Fisherが使っていたようなフィルターを掛けたハイハット
16_Audiotent_-_DTT_-_KIT_1_DROP_-_Clap
・単体で聴くとテクノなシンセのマイナーコード
04_Audiotent_-_DTT_-_Bass_Loop_-_123bpm_dm
Tech Houseがハウスとテクノの中間であるというのがバラバラで聴いてみるとよくわかりますねー。
Deep House
ディープ・ハウス=深いハウス。「深い」って、いったいどういうことなんでしょうか?1980年後半くらいから呼ばれだしたジャンルのようです。そして、このジャンル名には様々な解釈があるようです。調べていくと「ディープ」の謎を解く、キーマンが見つかりました。シカゴ出身のDJ / トラックメーカーのラリー・ハード(Larry Heard・Mr. Fingers)です。彼がそれまでのハウスミュージックをより、根源的でスピリチュアルなもの=ディープに変えたとのことです。
8分ほどのドキュメンタリービデオ、その名も「ラリー・ハードはどのようにハウスミュージックをディープに変えたのか?」面白いです。
・How Larry Heard made house music deep
・Mr. Fingers名義のファーストアルバム / AMNESIA(1989)
確かに、当初のソウルフルな雰囲気は消えて、よりストイックで機械的なビートに姿を変えています。これがテックハウスとどう違うの?といわれると・・・それは・・・わからん。
ただ、1点。日本版のWikipediaに面白い記述があります。
ボーカルメロディの有無や、わずかなBPMの違いで「これは〇〇ハウス」という流儀があるようです。確かにディープ・ハウスの曲はちょっと遅めです。まぁ、DJ文化ですから、曲がつながっていかないとダメですからね。
では、Spliceのディープ・ハウスのBPMはどうなっているのでしょうか?ちゃんと125を下回っているのでしょうか?
ちゃんとやってますねー。128のトラックが1つありますが大体、120〜125の間におさまってます。
ちなみにTech Houseで絞り込んだ場合のBPMは125を超えるものが多かったです。素人ではわからない細分化された、BPM / 音色 / リズムパターンの違いがあるようです。その辺の流儀を理解し、守りつつ、新しいトラックを作っていくという、なかなかストイックなハウスの世界。これからも研究ですね。
Spliceの素材でいうと、やはりちょっと落ち着いた雰囲気のトラックが多いようです。
・ストイックなシンセのループ
dhs_123_kit06_loop_valor_full_Gmaj
・ボーカルが歌詞を歌うのは「ディープ・ハウス」とのこと(Wikipediaから得た知識)
dhs_123_kit01_loop_donot_vocal_G#min
Progressive House
プログレッシブは「進化した」という意味。シカゴから海をわたりヨーロッパ、特にUKで進化した1990年代の新しいハウスを指すようです。ソウルフルな要素は完全になくなり、長ーいイントロから徐々に盛り上がって、またブレークして、というクラブでの盛り上がりを重視した音像になっていきます。
・Leftfield - Not Forgotten
・Sasha & Digweed - Northern Exposure Expeditions
クラブでの高揚感を求めるトランスと従来のハウスの融合が、進化の主な原因のようです。ここまで来ると初期のウェアハウスやパラダイス・ガラージの雰囲気は残ってないのですね。ただ、クラブ(レイブ)カルチャー、また、ゲイカルチャーだけでなくLGBTQ、人種を超えた多様性を肯定する当初の精神は確実に引き継がれているのではないかと思います。
さて、こういう長めのトラック、すこーしずつ盛り上がっていくトラックを作るのに、Spliceはどんな素材を用意しているのでしょうか?絞り込んで見てみましょう。
名前もそのまま、Melodic Progressive HouseというPackが見つかったので、みてみましょう。BPMは128でした。ディープ・ハウスより、ちょっと早いです。
・15秒くらいのメロディックなシンセ、8小節
mph_128_kit_loop_surface_pads_F#min
・単音フレーズに展開
mph_128_kit_loop_surface_pluck_F#min
・さらに肉付けして盛り上げる
mph_128_kit_loop_surface_chords_F#min
・盛り上がりまくり!
mph_128_kit_loop_surface_full_F#min
・徐々に盛り上げるためのつなぎの効果音たち
8小節のループを繰り返しながら、効果音を挟んで徐々に盛り上げていくトラックが、すぐにでも作れそうです。イッツ・プログレッシブ!
いかがでしたか?1977年にシカゴやニューヨークで始まったムーブメントが、形を変えつつ今に続いています。音楽ジャンルに歴史あり!