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番外編2:ワールドワールドワールドから見るトラベログ

アルバムを聴くという音楽の聴き方

アルバム聴き

私が音楽にハマったのはかなり最近の話である。昔からテレビ番組でちらほらと聴く機会はあったのだが、流れている曲はアイドルの曲や親が好きな古い世代の曲ばかりで、面白いと感じる事がなかった。しかし高校生になってからスマートフォンを手に入れたことで音楽の世界は大きく広がった。最初はボカロにハマり、続いてアニソンへとハマり、邦ロックへと傾倒していった。どのジャンルも気に入った曲をずっと聴いていたため、それほど多くの曲は知らないが、ハマった曲には思い出がぎっしりと詰まっている。
そんな中でつい最近、初めてアルバム聴きというものをした。アルバム聴きというのは、一つのアルバムを歌詞カードなどを見ながら最初から最後まで聞き通す事だ。最初は「結束バンド」、続いて「棘ナシ」とアルバム聴きをしていった。実際にやってみると、好きなアーティストのアルバムを通しで集中して聴くのは大変だったが、その分満足感が高かった。そこでアジカンのアルバムも通しで聴いてみたいと思った。そこで聴いてみたのが、知ってる曲が二つほどしかなかった「ワールドワールドワールド」だった。

ワールドワールドワールドとは

ワールドワールドワールドとは

私が初めてアルバム聴きをした「ワールドワールドワールド」。名前からして目を惹くが、ジャケットもそれ以前のアジカンのアルバムと比べるとわちゃわちゃしている色鮮やかな見た目になっている。これを聴いてみた理由は、このヘンテコな名前が気になったからというのと、「転がる岩、君に朝が降る」「或る街の群青」という好きな曲が収録されていたからである。
ちなみに、このアルバムはコンセプトアルバムというジャンルに含まれる。コンセプトアルバムとは、そのアルバムが一つのストーリー性やテーマを持っているもののことを指す。個人的にこれはアルバム聴きにうってつけだと思う。(ちなみに、この用語を知ったのはワールドワールドワールドを聞いた後だった)

収録曲

まずワールドワールドワールドに含まれる楽曲を以下に羅列する。

1. ワールド ワールド ワールド
2. アフターダーク
3. 旅立つ君へ
4. ネオテニー
5. トラベログ
6. No.9
7. ナイトダイビング
8. ライカ
9. 惑星
10. 転がる岩、君に朝が降る
11. ワールド ワールド
12. 或る街の群青
13. 新しい世界

ワールド ワールド ワールド

それぞれの曲に関して書くとキリがないため省くが、一度聴いてもらえると、全ての楽曲に一体感があって、一つの演劇を見ているような感覚が味わえると思う。例えばワールド*3とワールド*2はほぼインストの曲で、それぞれオープニング、最終章の始まり、といった印象を与えてくれる。他にも旅立つ君へとネオテニーは曲の間が繋がっており、まるで一つの曲のようになっている。
そしてどの曲も幸福感のある、明るい曲調が多いのが特徴になっている。しかしながら歌詞を見てみると、大きく印象が変わってくる。実はこのアルバムでは全体を通して戦争や情報化する社会に対するメッセージが散りばめられている。例えば「No.9」には戦争反対のメッセージが露骨に表現されている。

炸裂 目も眩む熱さで
何もかもみんな吹き飛んだ
・・・
ミスター・パトリオット
もう何も落とさないでくれ

「No.9」 歌詞提供:プチリリ

さらに「惑星」にもこのような一節がある。

揺らめく旗の星に
数えて五十二番目に
本当は誰の言いなり
気付かれぬように空を奪う

「惑星」 歌詞提供:プチリリ

このように直接的なメッセージを入れた曲が含まれているため、好き嫌いがはっきり分かれるアルバムでもあると思う。
もちろん曲のイメージはこれだけではない。疾走感に溢れる「アフターダーク」やアジカンにとっての”ロック”を歌った「新しい世界」など、かっこいい曲や心打つ曲も収録されている。

トラベログという曲

トラベログとは

さて、ワールドワールドワールドについて話したところで、私がこの中で一番好きなトラベログという曲について書いて終わりにしようと思う。この曲は音楽的な注目ポイントがいくつもある上に歌詞も良いのだが、世間的には人気がないようである。YouTubeには動画があるが再生数が少なく、Spotifyの再生数を見てみても、ワールドワールドワールドの中で最下位争いをするぐらいだった。しかしこの「トラベログ」はアジカンの隠れ名曲だと思っているため、ぜひ聴いてみてその良さを感じ取ってほしい。

この曲の面白いポイント

この曲について、サウンド的に面白いポイントは三つある。一つ目はイントロである。少しマニアックな話になるが、ここでは開放弦リフがギターで使われている。これによって重厚感のある音ができている。二つ目は途中で変拍子が挟まるところである。二回目のAメロでずっと四拍子で来ていたものが一瞬三拍子が挟まる形になる。これによって少し急ぎ足になっているような表現が生まれている。まさにトラベル、旅を表現しているのだろう。そして三つ目、これが一番大きな特徴なのだが、この曲の間奏にRe:Re:のイントロのようなサウンドが使われていることである。初めて聴いた時、アジカンの代表曲の一つであるRe:Re:の長いイントロ部分が唐突に聞こえてきて驚いた記憶がある。これが採用された経緯についてはボーカルの後藤正文氏がブログに書いているので、こちらを見て欲しい。

いろいろ話したが、兎にも角にも実際に聴いてもらってこの曲の良さを感じてもらえればと思っている。

トラベログの歌詞について

ここから少しだけトラベログの歌詞について考えてみたいと思う。まず全体の歌詞は以下の通りである。

虚構の街を遠く眺めて
画面をさすらう ふらふら
眼孔の奥に飛び散るのは
余計な字面 塾々 想うよ
嗚呼…手触りのないそんな言葉の飽和
埋もれるよ いつも
線路脇に路地を見つけて
余白をさすらう ふらふら
角膜の奥で像を結ぶのは
世界の隙間 滑滑 巡るよ
嗚呼 此処に在ること 此処で見ること
そのすべては誰のもの
塞ぎ込むより
まだまだ見たこともないような景色があるよ
君の想像を超える情熱を
一瞬の邂逅を告げるサヨナラを
永遠の漂流を 夢と現実を
旅の果てに僕は探すよ
路面湿った雨の匂い
嗅覚で そう 未来を知る
電線の共鳴 風の道
聴覚でそう 現在に出会うよ
揺れる世界を超える情熱を
一瞬の邂逅を告げるサヨナラを
永遠の漂流を 夢と現実を
旅の果てに僕は探すよ
いつも探すよ いつも探すよ

  「トラベログ」 歌詞提供:プチリリ

歌詞自体は難しい表現が多く、一見わかりづらいが、トラベログ(旅行記)というタイトル、そして情景描写が多いことから、なんとなくのイメージは湧く。
序盤ではインターネット世界と現実世界を対比させている。「虚構の街」「画面をさすらう」「余計な字面」はインターネット世界を、「線路脇に路地」「此処に在ること」「此処で見ること」というのは現実世界を示している。この二つを対比させた上で、最終的には現実世界での経験の重要性を訴えているのではないかと考える。大量の情報に溢れているインターネット世界を「手触りのないそんな言葉の飽和埋もれる」と表し、自分の中へと「塞ぎ込む」。そうではなく外の世界へ旅に出て、さまざまな物事を感じ取ることが大切だということではないだろうか。
ちなみにこのような意味合いの歌詞は、同アルバムの「旅立つ君へ」という曲でも登場する。全体的に両方とも同じような歌詞ではあるのだが、こちらの「トラベログ」の方では実際に風景を言葉で表しており、”旅”のような感覚があるため、こちらの方が私は好きである。
私が特に気に入っている箇所は、曲の終盤の「嗅覚で」「聴覚で」という言葉遣いだ。今ではインターネットが普及したことで、世界各地の風景を画像で見ることができ、高画質や加工によって現実よりも綺麗に見えるかもしれない。しかし、実際にその場に行って、五感を通して経験することは超高画質の写真を凌駕する感動があると思っている。この歌詞にはそのような意味合いが含まれているのではないだろうか。

最後に

とにかく好きなアルバム、曲について文字に起こしてみた。ここまで読んでくださった方には「ワールドワールドワールド」を試しに聴いてみてほしい。アジカンの良さ、アルバム聴きの良さを感じ取ってもらえると思う。

追記:YouTubeでトラベログと検索したらかなり良いライブアレンジの動画を見つけたので、ここに貼っておく。(無断転載だが、レーベルに収益が入ってそうなので大丈夫かと)


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