年上の後輩Ⅱ
「もしかしてすぱいすさんですか?」
突然、面識もない会社の女性から話しかけられた。「もしかして」って事は、この人は、自分の事を…知っている…?
いやいや、自分はあなたの事を1ミクロンも存じ上げていないのに、どこから自分の存在を知ったんだ…?え、なに、実は裏社会では「素行の悪過ぎる奴トップ3」として実は有名人だったのか?いや、仕事は真面目にやってきたつもりだったのに…!
「いや、そうですけど…」
少しイラッとした様子で返す自分。今思うと酷い態度だったな。猛省します。
「私、●●と言います。実はすぱいすさんの同期の方からお話をお伺いしまして…こちらに転勤になったとお伺いして、是非お話ししたかったのですが中々見つけられなくて…」
は?同期?誰だ…?
自分の入社同期の中に、中途採用で一緒に入社した同期がいる。
最初の研修期間の時から仲良くしていた。お昼ご飯の中に自分の嫌いな野菜があると勝手に食べてくるほどだ。
研修後の最初の配属先がお互いにとんでもないくらい逆方向になってしまって会えなくなってしまったが、何ヶ月かに一回は予定を合わせてよく遊びに行っていた。
さくらんぼ狩り、地方の祭りをふらっと観に行ったり。たまには、しこたま呑んだくれる時もあった。
その同期が2年目の時、初めて後輩指導で面倒を見ていたのが今回話しかけてきた彼女だったらしい。
そういえば、この彼女の話は聞いたことがあったような…「天然で、発言とか行動が時々ぶっ飛んでいて面白いが、たまに考えられない様なミスも犯す。だけど必死に頑張っているし、反省もしっかりする。トータルで真面目。」とか言っていた様な…
まさかその彼女か!ここで一緒に仕事をすることになるとは思わなかった。
彼女が続ける。
「その同期の方から、『見た目童顔で苗字が少しだけ珍しい〇〇君がそっちに異動になるんだけど、話してみると意外と真面目な子だから仲良くしてあげて!』と連絡を受けてまして…。もし声をおかけして全く違う方だったら申し訳ないじゃないですか。お顔も存じ上げないので名札をかなりチェックしてまして…すみません…」
そういうことだったのね。イライラしてしまって、むしろ申し訳ない。
この時から既に変わっているな、と思っていた。
どこか天然、だけど言葉遣いも丁寧で真面目でしっかりしている。
現代の子は不思議ちゃんばっかりだな…と思いつつ、そんな不思議ちゃんと仲良くなった。
この人には、人を惹きつける何かがある。何かはわからないけど。
この時から既に気になっていたのかもしれない。けど、好きになれなかった理由。
彼女には、彼氏がいた。