3Dフードプリンターで食体験の革新に挑戦|Byte Bites株式会社
食べることは人生の楽しみの一つ。
最近では、食材や形状、味まで自由自在に調整することができる「3Dフードプリンター」が登場し、食の広がりに注目が集まっています。
そんな3Dフードプリンティング技術を軸に、「調理技法・生産工程・食体験」の革新を目指しているのがByte Bites株式会社。
今回は、同社代表の若杉亮介さんに、3Dフードプリンターに興味を持った背景から、事業内容、今後必要としている人材について伺いました。
破壊への興味から、“構造と食感”の研究へ
——3Dプリンターに興味を持った理由は?
高校生の頃から動画編集やシール作りなどが好きだったこともあり、大学に入ってからものづくりの学生団体に入りました。夏のコンテストに向けて制作する中で「もっとものづくりを深掘りしたいな」と思っていたときに、通っていた大学で先進的な取り組みがされていた3Dプリンターに興味を惹かれました。
僕自身、手で作業するよりデジタルでモノを作るほうが向いていると思っていたので、3Dプリンターの研究室に入りました。
——3Dプリンターの中でもフードプリンターに興味を持った理由は?
3Dフードプリンターに絞って研究し始めたのは、大学院からです。
僕が大学生のときはまだフードプリンターのハードウェアがそこまで成熟していなかったんですが、大学院に入るくらいのタイミングでようやく個人でも買えて使えるようになってきました。
大学院1年目では「3Dフードプリンターの技術力を上げたい」という思いが強く、例えば、特殊な積層方法を用いた「手で剥けるランプシェード」を作ったりしていました。
しかし、技術面に注力しすぎたせいか「技術はあるけど、これって結局何に消化すればいいんだろう」という思考に陥ってしまって。
「一番身近な“壊れる”って何なんだろう」と考えたときに、食べることって一瞬口の中で食べ物を破壊する行為だなと思って。
チョコレートの紗々に代表されるように、「同じ食材でも、形や構造を変えることでさまざまな食感を設計することができるのではないか?」と思い、「構造と食感」の領域に興味を持ち始めました。
——大学院卒業後にはビジネスコンテストにも出場されていますが、当時から3Dフードプリンターに可能性は感じていましたか?
正直、課題解決のために3Dフードプリンターを発展させたいというよりかは、「3Dフードプリンターの技術が広がった世界では、どんな面白いことが起こるんだろう」という興味が、今も自分を突き動かしている気がします。
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アイデアを含めた3Dフードプリンターの活用方法を提案
——Byte Bitesの事業内容を具体的に教えていただけますか?
今メインでやっているのは、3Dフードプリンターの導入支援です。
3Dプリンターを個人で買う人も増えてきていますが、フードプリンターは他のプリンターと比べて、一から考えなければいけない項目が多く、一般人が機械だけを買って扱うには少し難しい領域です。
使用する素材が粘っこいかサラッとしているかなどによって印刷時の設定を大幅に変えなければいけないので、会社で使うにしても職人技がないと難しいのですが、そこを一般化して、例えば、パラメータのようなインターフェイスにすることで、3Dデータを自分で作れない人でも簡単に何パターンも作ることができるように設計しています。
——3Dフードプリンターの導入支援先と、導入経緯は?
今支援しているのは、サイバーパンクの世界観を味わえる『NEO新宿 アツシ』という飲食店です。
素材の開発から、そのお店のコンセプトに沿ったレシピ開発までを担当させていただいています。
そこは、レストラン内で食物を生産して提供しているお店なのですが、規格外のニンジンが余ってしまったり、サラダとして出す葉っぱの根が有効活用されていませんでした。
それらの食材を使ってデザートを作りたいというアバウトな要望に対して提案し、導入していただけることになりました。
明確な課題がある企業から問い合わせがあるというよりは、「3Dフードプリンターでどんなことができますか?」というような、アイデアを含めて僕たちに相談したいという問い合わせが多いです。
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ワークショップを通じた、構造と食感についての検証
——3Dフードプリンターのワークショップも開催されていますが、どんなテーマでやっていますか?
テーマは「形と食感」です。
僕が大学院で研究していたときも、曖昧なところまでしか解明できていなかったので、「形によってどこまで食感を操作できるのか?」「食感を数値化することはできるのか?」という問いを明らかにしていきたいという思いで、Melt.というチームと一緒に始めました。
参加者は、半分が個人で、残りの半分が食品メーカー勤務の方々や、昆虫食や食品素材を扱っている方々です。
これまで2回開催しましたが、題材は1回目がおでんで、2回目が米粉でした。
1回目は、食感のオノマトペを参加者に考えてもらったり、食感を硬さや粘度として数値化してもらったりして、当てずっぽうで作ったジェネレーターに数値を落とし込んで、実際に印刷して食べてもらいました。
2回目はオノマトペではなく、「この形だったらこういう食感になるのではないか」という仮説を基に作って食べてもらう形式にしました。
参加者は、3Dフードプリンターで作られたものを焼いたり、煮たり、揚げたりと自由に調理をして、味付けも各自でしてもらいました。
——仮説検証の結果はどうでしたか?
まだまだ検証は難しいですね。
評価方法が人によって違いますし、今はお餅っぽい素材を使用しているので、みんなモチモチとした食感に引っ張られてしまいがちです。食感を評価する際の素材を何にするかから改めて考え直しています。
参加者には、ワインソムリエならぬ“食感ソムリエ”として、自分が感じた食感を200字ぐらいで言語化してもらったので、それらをもとに構造と食感にどのような相関関係があるのかを言語学的に分析したりしていますが、引き続き検証が必要です。
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エンジニアから事業開発、マーケ人材まで募集!
——Spireteのコミュニティメンバーもすでに3名ほど参画していますが、どういった方々ですか?
今はプロボノという形で、もともと食分野で新規事業を考えていた人や、飲食店のバックヤード経験があって3Dフードプリンターに興味がある人に関わっていただいています。
——実際一緒にやってみていかがですか?
プロジェクトの進め方も、僕が何かを依頼するというよりは、メンバーの方々から「こういうところだったらお手伝いできますよ」とご提案いただくことが多く、とても心強いです。
——今、必要としている人材は?
直近で言うと、3DデータやUIの構築などができるフロントエンドエンジニアと、事業開発ができる人を探しています。
事業開発というのは、僕とは別の視点で3Dフードプリンターの活用方法を考え、アイデアをアクションに落とし込むところまでを一緒に考えてくださる方を想定しています。
また、マーケティング戦略を考えられる人材も探しています。
今はありがたいことにお問い合わせをいただくことが多いんですが、今後はもっと自分たちから3Dフードプリンターに興味のある方々にアプローチしていきたいと考えているからです。
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3Dフードプリンターの技術が広がった世界を見てみたい
——今後の展望は?
3Dフードプリンターはあくまで手段だと思っていますが、3Dフードプリンターならではの製造手法を概念として作り、それが当たり前に使われる社会を見てみたいと思っています。
そもそも3Dフードプリンターの認知度が低いという感覚があるので、3Dフードプリンターの価値提案にも同時に取り組んでいきたいです。