「ギリギリ読める」を目指して
※本記事は『アンビグラム Advent Calendar 2023』の一環として執筆したものです。
初めまして、螺旋です。
普段は文字で遊んでいます。
今回は、私がアンビグラムを制作する際の根本となっている考え方を文章化します。あくまで一例ですが、参考にしていただければ幸いです。
特別な場合を除き、ある文字を回転させたり反転させたりすると、もう文字としては読むことはできません。(特別な場合は「自然アンビグラム」と呼ばれたりします。画像参照)
そこで、文字に工夫を凝らして回転・反転etc. させても読めるようにしようぜ!、というのがアンビグラムの基本的な営みです。
このことに関連して、とても気に入っている図があるのでご紹介します。
解釈すると、まず緑の部分は「その文字として認識可能な領域」、緑の濃さは「認識のしやすさ」みたいなものを表しています。中心から遠ざかるにつれて色は薄れていき、あるところを境に消え失せてしまう、すなわち、その文字としては見えなくなることを意味します。
続いて、③の矢印に注目してください。これがアンビグラム化のイメージを端的に表しています。文章中でも「他所から飛んできて爪先で着地する感じ」と表現されているように、まだ文字として認識できない図形(=矢印③の起点=他所)を、何とか文字として認識できる図形(=矢印③の終点=爪先で着地)にする。これこそまさに、私が常々感じていた「アンビグラム化」という行為の説明だ!と、見かけた瞬間に思いました。
ピンと来ない方が大半だと思いますので、ここからは具体物を交えて見ていきましょう。
「通」という字を例に考えます。
ここで一つ実験をしましょう。「通」として認識可能な領域の"フチ"を探るべく、情報量を極限まで落とした「通」の字を書いてみましょう。こうすることで、どのような要素が「通」の字を「通」の字たらしめているか、炙り出すのです。皆さんも、紙とペンを用意して試してみてください。
私はこのようになりました。
字形について意識した点を書き入れると、このようになります。
どうやらこれらの要素が、「通」の認識に役立っていそうです。
そもそも私たちが普段文字を読むとき、一画一画を見て文字を同定しているわけではありません。そんなことをしていては一文を読むのにも一苦労です。そうではなく、文字全体の雰囲気を捉えて判断していると考えます。Σさんの「顔の比喩」がわかりやすいです。
特徴的な要素をある程度おさえることで、大胆な省略をしつつも、そう読ませることができるようになります。
「通」の特徴量が掴めてきたところで、今度は全く違う形からそこに着地することを目指します。出発点はこれらの字です。
先ほど書いてみた「情報量を極限まで落とした『通』」と見比べながら対応を決めていきます。細かい観察内容は画像に任せます。
その後なんやかんやありまして、できたものがこちら。
どちらも認識のギリギリを攻めていることが感じられると思います。
これに加えてもう1組の漢字をこしらえ、作品として出来上がったものが「仮想通貨」と「通信制限」というわけです。どちらもめちゃめちゃ気に入っています。
実際の制作は、ここで述べたような文字Aから文字Bへの一方通行ではなく、逆のBからAの方向も同時に考えながらやっている感覚です。
以上のような流れが、「他所から飛んできて爪先で着地する感じ」であり、私のアンビグラム制作の根幹となっている考え方でありました。
最後に、色々な作品の「通」を鑑賞しましょう。その際、どの特徴が大事にされているかに注目しつつ、変形の感覚を養ってみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました!