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『天国、それともラスベガス』の鏡像物質-僕の初めての自作PCについて

自宅のデスクからいつでも世界とつながっていたい。そんな思いを胸に、去年の春から整えている僕の自宅デスク環境、名付けて「天国、それともラスベガス」。

ガジェットが好きで、ラスベガスで開催されるCESのように世界各地のガジェットが多めに集まってしまう僕のデスクを、天国みたいにすっきり快適に過ごせる場所にしたい!という目的の取り組みでしたが、おかげさまで1年後のいまも快適に過ごせています。世界、感じてます。

最近の写真がこちら。

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去年書いたこのデスクの話は、Go Andoさんの「デスクをすっきりさせるマガジン」でもご紹介いただきました(感謝!)。たくさんの方に読んでもらえて、嬉しいです。

そして記事を書いたあとも、デスク環境の作り込みは続いています。特に、現代のコンピューティングパワーの象徴ともいえるデスクトップ用グラフィックボードを「eGPU」という形で導入したのは、ガジェット好き、コンピューター好きとしてもとても面白い体験でした。

eGPUの導入でパワーアップした僕のノートPC(ThinkPad T490)では、最新ゲーム『Microsoft Flight Simulator 2020』を楽しめるようになり、RAW現像ソフト(Capture One)やPhotoshopも快適に動くようになって、デスクの楽しみ、デスクで何かを作る楽しみは格段に豊かになったのです。

…でもね、もっとパワーが欲しくなった。

eGPUのおかげでノートPCでもフライトシミュレーターが遊べるようになりました。でも、「遊べる」とはいえ秒間30フレームにも届かず動きがカクカクしています。もっとスムーズに、もっとキレイなグラフィック設定で遊びたい。そして動画編集やDAW(音楽制作ソフト)といった重い作業では、やっぱりパワー不足が無視できないレベルになっていました。

これは、新たなPCが必要だ。

普段使いで、PCDJのときには外に持ち出すこともあるノートPCとは別に、高性能な据え置きデスクトップPCを導入しよう。それもどうせなら、既製品を買うのではなく、パーツを集めて組み上げる「自作PC」に挑戦しよう。

eGPUを通じて、PCパーツの世界にも少し触れることができました。この勢いで「自作PC」に挑戦しよう。速やかに参考書も買って、勉強開始です。

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すんごい、楽しかった。

ショップで売られる完成品のコンピューターの中から選ぶのではなく、自分の手で自分のために目標スペックを定め、パーツ構成を考え、実行できる自作PCの世界。扉をあけたら、めちゃくちゃ楽しかった。

そして自分の作りたいコンピューターを考える過程では、まるで鏡の中をのぞくように、自分自身の欲望と歴史に向き合うことになりました。最終的に組み上がったPCも、まるで自分自身の似姿みたいな、言葉の意味以上に深く深く「パーソナルな」コンピューターになりました。

今回は、そんなあまりにもパーソナルな自作コンピューターの話をします。自作PCのことをよく知らない人にも楽しんでもらえたら、と思って書いています。おつきあいいただけたら、幸いです。

1.はじまりは、わがままプリンセスのお買い物

時計の針を一気に進めて3月上旬。およそ2か月の勉強と調査と、企画立案そして注文の過程を経て、今回の作戦に関するすべてのパーツが自宅に揃いました。テーブルの上にゴトゴト積み上げたら、こんな感じです。

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あはははは。何これ。これって、コメディ映画とかでよくある、わがままなプリンセスが街に出て派手にお買い物したあとみたいですよね?

その通り。僕はわがままなプリンセスくらい自分に正直に、そして(予算の許す範囲で)わがままにパーツを選びました。しかもこれはコメディではなく、完全なシリアスストーリーです。全てのパーツ到着日とタイミングを合わせて勤務先の有給休暇も取得して、準備OK。

「さあ、組み立てるわよ!」「かしこまりました、姫様」

2.グッドルッキングなケース探して

noteにはMacユーザーの方がたくさんいらっしゃいますよね。そんなMacユーザーの皆さんにお伺いしますが、正直、Windowsとか自作PCのこと、ちょっと、「ダサい」と思ってませんか?

でも、それも仕方ないかも、と僕も思います。MacとMac OSが実現しているミニマルで明晰な世界からみれば、虹色に光るデコトラみたいに派手なゲーミングPCのイメージとか、どうもに洗練されないWindowsの操作フィールとか、正直「ダサい」といわれてもしょーがない部分があるなと、ThinkPadと共に20年ちかくWindowsを使ってる僕でも思います。

でもね、そんなWindows派の僕でも、Macみたいなお洒落がしたい。なんたってわがままプリンセスですから、クールでクリアで、グッドルッキングなコンピュータをあきらめたくないわけです。

自分で作る自作PCなら、そこにも限界までこだわれるはず。星の数ほどある各社のPCケースを国内外通販サイトで慎重に慎重を期して調べ、自分のスタイルに照らし、熟慮の末にいちばん格好いいのを選びました。選んだつもりです。ご紹介しましょう。

フラクタル・デザイン 、「Meshify 2 Compact」!!

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どうどう? いいでしょ、この佇まい。

「Meshify 2 Compact」は、スウェーデンのイェーテボリに本社のあるFractal Design社のケースです。エアフローを確保するためにメッシュになってるメタルのフロントパネルの、抽象的で多面的な形状が素敵じゃないですか? 格好いいですよね? ひゅーひゅー(口笛)。

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あまり安易に「北欧」とか「スカンジナビア・デザイン」とか言いたくないけど、これはさすがに、スウェーデン人のみんなグッジョブと言いたい素晴らしいケースだと思います。

しかもこの見た目だけでなく、全体的な質感も、パネル開閉やケーブルの取り回しなどの整備性も最高なんです。誰にでも勧められる素敵ケースです。

このケースの国内発売日が2021年3月5日。予約して発売日に仕留めました。

3. 組み込むパーツたち

さて、スウェーデンからやってきたこのファビュラスでグッドルッキングなMeshify 2 Compactに、集めたパーツを組み込みます。

あ、ひょっとしてパーツの詳細とか興味ないですか?

パーツの詳細にあまり興味のない方は、画面スクロールで目をすべらせつつ写真だけ眺めていただければ、だんだん組み上がっていく過程をアニメーション的に楽しめると思います。さて、始めます!

■CPU(中央演算装置):AMD Ryzen 7 5800X

CPUは、2020年に大注目されたAMDの第4世代のRyzenを使うときめていました。僕はずっとインテル系CPUを使ってきたけれど、性能とコストパフォーマンスの両面で猛追し、ついに追い越したといわれたAMD社のCPUを使ってみたかった。

でも、使うと決めたはいいものの、昨今の世界的な半導体不足で年明け以降全然手に入らない状態が続いていました。ところが毎晩欠かさずチェックしていたショップのサイトで、ある夜ぽつんと1種類だけ少量復活した在庫を発見し、躊躇なく仕留めました。そして届いたのが、第4世代Ryzenの中でもミッドレンジに属する、Ryzen 7 5800xです。

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まあまあ大きい箱だけど、中に入ってるのは3.5cm×3.5cmのチップが1枚。でも、このチップには41億5000万個のトランジスターと、夢と勇気と猛烈な演算性能が詰まっています。

2019年以降のRyzenCPUの各世代には、著名な画家の名前がついています。「ピカソ」「マティス」と呼ばれた前世代につづく、「フェルメール」と呼ばれるこの第4世代Ryzen。マティスの「ダンス」が大好きな僕ですが、フェルメールで実現したこの強力な”演算装置(ハードウェア)”で、”踊(ダンス)”っちまいたいと思います。

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■マザーボード:GIGABYTE AURUS PRO AX

最新CPUを受け止める母なる基板(マザーボード)には、台湾GIGABYTE社のAURUS PRO AXを選びました。箱から基板を出して広げる。いよいよ、組み立てスタートです。

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まずは中央の四角いところに、先ほどのRyzen 7をセットします。あわせてCPUクーラーをマウントするための金属製フレームを左右にセット。

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■メモリ:Essencore KLEVV BOLT X(16GB×2)

続いて取り出したメモリは、香港エッセンコア社のKLEVシリーズ。

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動作クロック3600MHz、2枚で合計32GB。控えめなデザインの黒い放熱パネルが素敵。これをCPUの横にある、4つのメモリスロットのうち、A2とB2に差し込みます。

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■CPUファン:Noctua NH-U12A

メモリを差したら、CPUの上にクーラーをとりつけます。

CPU上部にマウントし、CPUの発する熱を処理する冷却ファンは、大好きなノクチュア製「NH-U12A」です。

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ノクチュアは、eGPUのときにも使った大好きなブランド。オーストリアRASCOM社と台湾Kolink社が共同開発している静音追求ファンのブランドです。音楽の都ウィーンで設計されたという、静音をうたう装置にとって最高のバックストーリー。ラテン語で「フクロウ」という意味のノクチュア。

このブランド名だけで、いかにも上質で静謐そうな雰囲気があります。箱から出しました。製品も期待に違わず格好いい…。

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最近流行の簡易水冷クーラーは動作音が大きめという話をきいていた僕は、静音を大事にしたい気持ちから、ホンダF1参戦第1期の本田宗一郎みたいに空冷にこだわり、このファンを使うことにしました。

CPUとファンとの間を密着させるためのグリスは、熱伝導率のいいナノダイヤモンドタイプを選択。熱を移動させるためにグリスを塗る、という電子機器とは思えないアナログ物理の感じが良い。CPU表面に灰色のグリスを塗って伸ばして…。

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この上にファンをしっかりと取り付けます。

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整然としたラジエーター部のフィンと、それを支える片側7本のヒートパイプの美脚っぷり。ああ、何もかも素敵すぎるよ、ノクチュア!

■ストレージ(SSD):SAMSUNG 980 PRO(M.2)/980 EVO(SATA)

続いては、ストレージをセットしていきましょう。

OSをインストールするメインのSSDには、現在市場に出ているモデルの中でも最高速だと評判の、韓国サムスン電子の980 PROの1TBを選びました。これをマザーボードのCPU直結M.2スロットにセットします。

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セットしたSSDの上に黒いヒートシンクのカバーを取り付けたら、これでマザーボードは完成。ファビュラスなFractal Designのケースの中に収めます。

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主にバックアップや巨大ファイルの一時退避所になる予定のサブSSDは、同じくサムスンの980 EVO。こちらはマザーボードにSATAケーブルでつなぎ、ケースの下段にとりつけます。

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■グラフィックボード:MSI GeForce RTX3060 Gaming X 12G

次はいよいよ、グラフィックボードです。

ゲームの要、3D計算の化身、そしてコンピューティングパワーの象徴。そんなグラフィックボードは、台湾MSIのGeForce RTX 3060に「なっちゃいました」。

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奥歯に物を挟みながらこう表現する理由は、現在のグラフィックボード市場の苛烈な品薄に原因があります。いま(*2021年3月時点)、グラフィックボードは世界的な半導体不足や物流の停滞に加え、仮想通貨のマイニング需要の高まりにより、空前絶後の品薄状態になっているのです。

ショップの棚が空っぽになった写真を、ニュース記事などで見た方もいるかもしれません。ほとんど「飢饉」といいたいような、ひどい状態なのです。

そのため、僕が欲しかったRTX3070系は軒並みソールドアウトか、または転売業者による目を疑う高価格で全く手がでません。そんな中、なんとか手に入った下位モデルのRTX 3060で、今回は手を打ちました。

前述のわがままプリンセスも、ここだけは納得いってません。不機嫌です。でもね、とにかく売ってないんだから仕方がないんですよ。機嫌をなおしてください姫様。

グラフィックボードは将来(たとえば来年とか?)在庫や価格が正常化し、もっと素敵な新機種が出たところで交換しましょう。こうしてアップデートの余地を残せるのが自作PCのいいところじゃないですか。

それにRTX3060だって捨てたもんじゃないです。いまThinkPadのeGPUボックスに入れてるGTX1660Tiよりは、ずっと強力のはず、です!

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ということで、RTX3060をマザーボードに差しました。

■電源ユニット:Fractal Design ION+ 760P

電源ユニットも、ケースと同じスウェーデン・Fractal Design社製にしました。最大760Wを安定供給し、静音と付属ケーブルのやわらかさ(取り回しやすさ)をうたうモデルを選択。これをケースにネジ止めします。

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そして配線。初めてなので、何度も何度も確かめながら、ひとつずつケーブルをつないでいきました。

■オーディオインターフェース:MOTU M2

最後に、音を出すためのオーディオインターフェースです。

マザーボードにも音声出力端子はあるのですが、よりよい音質を求めて、USB-C接続のオーディオインターフェース「MOTU M2」を使用します。これは以前ThinkPadで使っていたものですが、ThinkPad側を同じMOTUの「M4」に置き換えて、余った「M2」をこちらにおさがりしました。

M2を、デスク天板の下面に3Mのデュアルロックファスナーでマウント。MOTU Mシリーズならではのきめ細やかな素敵サウンドを、僕の「天国、それともラスベガス」の音響システムに入力します。

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はじめての自作PC、これでパーツの組み立ては終わりです。わがままプリンセスが考えた、わがままマシンが組み上がりました。

「ほんとに動くかな…」と震える手で、HDMIケーブルを8.9インチサブモニターにつなぎ、電源ボタンを押下。

最初の設定画面が出るまで緊張の時間が続き…。

やった、画面が出た!

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画面が出たら、まずはBIOSをアップデート。そしてWindows10をインストールし、各種のドライバーを入れ、ソフトをインストール。

情け容赦なくわがままに、自分に正直な気持ちで組んだ、最新型のハイパフォーマンスなパーソナルコンピューターの完成です!

4. 光るピラミッドの謎

さて、自作PCといえば、虹色に光るイメージがありますよね。あれをダサいと感じてる人はWindowsの世界にもいて、たとえばmsi社は、光らない黒さを謳ったマザーボード・UNIFYシリーズを出したりしています。最初は僕もカッコつけて、この「光らせない」方向で考えていました。

けれどそれも何だか、「光る」から逃げるみたいで嫌だったんですよね。だってほんとは、僕の中にも「光る」に魅力を感じてる部分があるのです。そこから逃げる自分でいたくなかった。今回の自作PCは「自分に正直」がテーマでもある。そうだな、やっぱり光らせよう。

それに僕には、光らせたい、ある「形」がありました。

とはいえ、自作PC入門者の僕には、まずあの光らせるパーツたちがどういう仕組みで光っているのかわかりません。そこで、まだ購入前だったマザーボードの説明書pdfを公式サイトからダウンロードして読み込みました。

そしてそこから「Addressable RGB LED」の存在を知り、ピン配列を調べ、秋葉原の千石電商で買ってきたマイコンつきLEDライトユニット(写真右下の白い「田」の字みたいなパーツ)をつなぐ変換ケーブルを自作。

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ライトのハウジング(ケース)は、3D製作ソフト「Fusion 360」でモデリングして、DMM.makeの3Dプリントサービスにデータ入稿。だいたい10日ほど待つと、3Dプリンターで物質化したものが届きます。

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自作したケーブルがばっちりはまる。ノギスで図りまくってモデリングした甲斐があった。気持ちいい。

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これを、艶消し黒のスプレーで塗装し、PCケース内に設置します。

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そしてこのベース部に、いよいよ僕が光らせたかった形=「ピラミッド」を乗せます。

このピラミッドは、学習教材として売られている、2cm角のピラミッド型ダイクロイックプリズムです。

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なぜピラミッドなのか? 

鏡をのぞくように自分の欲望に対して正直に向き合い、自分の歴史に向き合って組んでいる今回の自作PCですから、この「ピラミッド」にも込めた思いがあります。そのストーリーについて、お話ししますね。

5. 1982、僕とコンピューターとの出会い

僕とパソコンとの出会いは、いまからおよそ40年前、1982年のことでした。下の写真は、当時たまたま放送を観て、瞬時にはまったTV番組・NHK趣味講座「マイコン入門」のテキストです。ボロボロの表紙から、当時の僕がめちゃくちゃ読み込んでるのが、わかりますでしょうか? 

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この「マイコン入門」と同時期(1983年)に、人気漫画「ゲームセンターあらし」をヒットさせた漫画家・すがやみつるによって、「こんにちはマイコン」というパソコン入門コミックが刊行されました。ハイテクに関する彼の嗅覚の鋭さを背景に、僕たち子供にコンピューターのことをわかりやすく教えてくれる漫画を、すがやは届けてくれたのです。

いまから40年前=1980年の前半では、まだ、家庭にコンピューターが入ってくること自体が革命でした。

もちろん、この時代でも電卓や一部の家電にはマイコンチップが搭載されていましたし、銀行などのシステムにもコンピューターが使われていました。ロボットアニメにもコンピューターは普通に登場しています。でも、現代的な意味でコンピュータ然としたコンピューターが本当に家庭に入り、始めて僕らが手に触れられるようになったのが、この頃だったのです。

そんな時代だったので、技術者ではない一般人の僕らは、パソコンとは何なのか、その概念から知る必要がありました。

革命的な新概念「コンピューター」の仕組みをわかりやすく説明するため、すがやみつるは、コンピューターの中に広がる「マイコンランド」にキャラクターたちを飛び込ませ、ビジュアル的・比喩的に説明する、という手法を用います。

これは、「バーチャル・リアリティ」や「サイバースペース」といった言葉が一般的になる、ずっとずっと前のことです。その先進性たるや。

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©すがやみつる「こんにちはマイコン」2巻より引用

そして、当時このコミックを手に取った僕の印象に強く残ったのは、上記イラストの左下、「ROM」がピラミッドだということでした。

6. 歴史的対比①:ピラミッドは、ROMのモニュメント

ROMとは「リード・オンリー・メモリー」の略で、ユーザーが書き換えできない=読み出ししかできない、システムプログラムやデータなどが格納されていたパーツです。まだ高速で安価なストレージデバイスがなかった当時のパソコンにとっては、その持てる機能のすべてをあらかじめ書き込んで本体内に保持しておける、唯一の手段であり大事なパーツがROMでした。

(注:一部の例外として、クリーンコンピュータ設計のシャープMZ系パソコンがありましたね。でも、MZもBIOSレベルが書き換わるようなものではなかったし、起動時にシステムを十数分かけて読み込ませる必要がある面倒さで、当時それほど一般化はしていなかったと記憶しています)

そしてエジプトのピラミッドは、確かにROMを表現するのにぴったりのモチーフなのです。

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Photo by Ricardo Liberato - All Gizah Pyramids  | CC: BY-SA 2.0
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ピラミッドは、およそ4500年前の人類の記憶を保持し、現代の私たちはそれを読み出すことしかできない、リードオンリーのモニュメントです。

吉村作治がエジプトでアジア人として初めて発掘調査をしたのが1966年、日本テレビが「ピラミッド再現計画」プロジェクトを吉村とともに木曜スペシャルで放送したのが1978年。なので、世界史を学ぶ前の小学生だった当時の僕も、古代文明が残した王たちのモニュメント、エジプトのピラミッドのことは知っていました。

すがやが描いたマイコンランドで、右上にあるRAM(=ランダム・アクセス・メモリー、自由に書き換えできるメモリ)が、見るからにテナントが出入りできそうな現代的なビルとして描かれているのと比べて、ピラミッドとして描かれたROMはその古代的で微動だにしない姿が目立ちます。

確かにピラミッドは人類にとってのROMだ。だから、すがやはROMをピラミッドにしたんじゃないか。

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©すがやみつる「こんにちはマイコン」2巻より引用

そしてこの時代から40年後、2021年のパーソナルコンピューターの世界では、「ROM」の存在はほとんど消えかかっています。集積回路型だったROMは、この40年の間にフラッシュメモリやHDD、SSDといったストレージメディアに置き換えられていきました。

OSは内蔵のSSDに保存していつでもアップデートできるし、最下層のBIOSですらフラッシュメモリで書き換えられるようになっていて、40年前のコンピューターが備えていたような立派で不動でリードオンリーの「ROM」なんて、もうほとんど載っていないのです。

パーソナルコンピューターの能力を決めていた、あの壮麗なピラミッドみたいなROMは、いまのパソコンにはない。

そこで僕は、82年にコンピューターに出会った頃のときめきを結晶化し、一目みれば自分がコンピューターと共に歩いた40年の歴史を想起できるよう、「ピラミッド」を光るモニュメントとして自分のPCの中に置いたのです。

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この光は、かつてのROMたちの存在を現代に伝える記念碑であり、40年前と今とを歴史的に対比させる光です。

ケースの中で光るピラミッドの形をみるたび、僕は1982年にコンピューターに出会ってときめく自分とリンクします。そして同時に、40年で進歩に進歩を重ねた2021年のコンピューティング環境に思いを馳せ、しっかり楽しんでいきたいわーと誓い新たにできるのです。

7. 歴史的対比②:ステッカーと温度計

最新パーツでそろえたケース内のシステムは、暗い半透明のガラスパネル越しに見られます。そのガラスパネルの上部には、「マイコン制御」のステッカーを貼りました。

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このステッカーは、CounterfeiterことANIさん制作。80年代当時の電子レンジなどの前面ガラスドアには、こういうシールが貼られていたのです。そこに着目して、ステッカー化するANIさんの視点が素敵。マイコンが家電に入りはじめたころのわくわく感とときめきが詰まったこのシールで、僕のマシンの歴史的コンテキストを強化します。

実際、このPCも「Ryzen 7 5800X」という高性能マイコンに制御されてますしね。嘘じゃない。これがポイントです。

そしてケース後方には、昭和23年創立の老舗、佐藤計量器製作所のバイメタル式温度計をピアノ線で固定。ケース内エアフローの温度を(電子センサーとかではなく)マテリアルの熱的性質で計測させることにしました。

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アナログメーターが好きなんですよね。熱膨張率の異なる2つの金属を貼り合わせるというローテクな作動原理で、最新型のRyzenとGPUとメモリとSSDが生み出すケース内のハイテク発熱を測定する、この対比がやりたかった。

そしてアナログメーターが指し示すケース内エアの温度は嘘じゃない。ここです、ここがポイントなのです。

8. 歴史的対比③:起動画面と指紋ログイン

ハード的には大分仕上がってきた僕の自作PC。そのWindows起動画面には、僕が1980年代に始めて触ったパソコン、NECのPC-8801に搭載されていたN88-BASICの起動画面を画像で再現して、設定しました。

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N88-BASICは、当時まだ社員数が数十人のベンチャー企業だったマイクロソフト社のビル・ゲイツと、アスキー創業者の西和彦が共同で設計したものだそうです。すなわち、Windows 10の遠い遠い、遠い祖先なのです。

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*サブモニターに出したログイン画面。Windowsが表示している左下の時計を消せていないのが残念。かなり調べたけど、消す方法が分からなかった。無念。

しかし実際のログインプロセスは、デスク前面のUSBハブにつないだKensingtonのUSB型指紋認証デバイス「VeriMark」で行います。こうして、僕が知る最も古い起動画面と、最新のログイン技術で対比をつくりました。

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9. パーソナルな、2021年の鏡像物質(ミラーマター)

有給休暇の朝9時からごそごそと作り出して、気がつけば午後もかなり深まった頃。おまたせしました姫様。

ついに、僕の初めての自作PCが完成しました!!!!!!

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既製品のPCと違って、パーツを集めてつくる自作PCには、誰かがつけない限りコンピューター全体の名前がありません。誰か…って僕だよな。どうしよ、どういう名前にしようかな。

ここで脳裏をよぎったのが、「ミラーワールド」という言葉でした。

「ミラーワールド」とは、現実世界が1対1でデジタル化された、デジタルツインと呼ばれる鏡像世界のことです。現実世界をすべてデジタル化したその世界は新たなプラットフォームとなる。WIREDでも特集が編まれましたね。

この「ミラーワールド」の概念になぞらえるなら、いま目の前に完成したこの自作PCは、僕自身のコンピューターとの出会いから、コンピュータとともに生き、形作られた現在の自分までの歴史や、欲望や意思を映した僕自身の「デジタルツイン」、物理学で言うところの鏡像物質(ミラーマター)じゃないかと思ったんですね。

「ミラーマター」か。いいじゃん。決定。
こうして僕は、はじめて作ったこのPCを「ミラーマター」と名付けました。

僕のミラーマターは、僕が最初に出会った頃のコンピュータと現在のコンピュータとの歴史的対比を通じて、ときめきを感じたいという意図で作られました。40年の時間を感じさせるコントラストを最大限に強めることで、僕が最初にコンピューターに感じた頃のときめきと、最新パーツから生み出される現在のときめきをいつでも感じられるようにしたかったのです。

Windowsのインストールも終わり、完全に動作するようになった僕のミラーマターで、ここでもう1つ、過去と現在の対比が生み出す、ときめきをご紹介したいと思います。

10. 2021年のコンピューティングパワーを楽しむ

僕がコンピューターという概念に出会った80年代初頭、その格好良さにほれぼれした世界最高のスーパーコンピューターが、1925年生まれの米国人電気工学者、シーモア・クレイがその名を冠して生み出した「CRAY-1」です。

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Photo by Clemens PFEIFFER
Ein CRAY-1, aufgenommen im Deutschen Museum, München.  (CC BY 2.5)
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この円柱状の形状、いかにも特別な存在に見えるでしょう? そして長年コンピューターの性能評価をしている「TOP500」のFAQに残された記録によれば、その性能は12メガflops(=1秒間に1200万回の浮動小数点計算ができる)だったらしいのです。

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TOP500 the list FAQより引用(赤線は筆者)

OK、じゃあ40年後の2021年に自宅で組み上げた僕のミラーマターはどれくらいの性能なんだろう? TOP500でも使われているベンチーマークソフト・LinpackのWindows版をダウンロードし、実行します。

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…結果が出ました。5回計測したうちの最大値で、スコアは332.2447ギガflops。1秒間に3322億4470万回の浮動小数点計算ができることになります。

つまりですね、僕のミラーマターは、1982年に1台数億円で売られていた「CRAY-1」の、実に2万7千687倍もの性能を持っているのです。2万7000倍て。こどもの頃には想像もできなかったような、とんでもないスーパーマシンが、今目の前にあるんですね。

でね、そんなスーパーマシンで何をやるかといえば…。まずは何をおいても『Microsoft Flight Simulator 2020』です。めっちゃ絵がすごくなった。さいこう!! 早速40分のハウスミュージックMIXとあわせて動画を作りました。

このグラフィック性能で・動画編集もサクサクできちゃうミラーマター。2020年代の家庭用コンピューターは、まだまだ楽しませてくれそうです。

11. 乗り物には、乗り物らしい設置方法を

最後に、置き場所の話をします。

『Microsoft Flight Simulator 2020』でリアルに再現された世界中の空をとぶ。動画を編集し、世界に向けて公開する。僕の自宅デスク環境「天国、それともラスベガス」は自宅にいながらにして世界を感じる・世界とつながることがテーマなのですが、今回作ったミラーマターは、そんな世界を高速でかけめぐるためのハイパフォーマンスな「乗り物」になりました。

デスクトップPCは、床置きするとホコリを吸い込んでしまうので、スタンドや台などで少し高いところに設置するのが王道です。ここでも各社からいろんな製品が出ていますが、僕はそういったPC用のものではなく、赤い「バイクジャッキ」を導入しました。

そうです、走るバイクの整備用アイテムです。

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最大500kgのバイクを持ち上げることができるバイクジャッキは、僕のハイパフォーマンスな「乗り物」を支えるのにぴったりのアイテムだと確信しました。…なんて、本当は「上下に高さが変えられる」をやりたかっただけなんですけどね。秘密基地っぽくて面白いなって。

ハンドルを取り付けて、ぐるぐる回すと高さが変わります。

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一番下まで下げるとこんな感じ。

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実はこれにもちゃんと実用的な意味があって、バイクジャッキを下げるとPCがデスク面の下に隠れる形になるので、耳に入る動作音(ノイズ)が小さくなるんです。これはDAWで音楽制作をするときや、静かに音楽を聴きたいときにはメリットがあります。

そして上にあげれば、わが鏡像の上1/4が見えます。所有欲を満たす、この景色。佐藤計測器製作所のバイメタル式温度計もしっかり見えます。フライトシミュレーターでPCに高負荷がかかると、40度近くまで上昇したりするんですよ。そういう様に、うっとりできるのです。

バイクジャッキは、我が愛しのミラーマターを支え、所有する喜びと静音性を両立させてくれるのにぴったりのアイテムなのでした。

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以上、ガジェット多めな僕の自宅デスク環境「天国、それともラスベガス」にやってきた最新ガジェット、ハイパフォーマンスな自作PC a.k.a.「ミラーマター」の話でした。

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このミラーマターを通じて、僕は自作PCの世界につながることができました。

そしてこれからはこのミラーマターに乗って、2021年以降も僕のデスク環境「天国、それともラスベガス」から、さらにいろんな世界を感じ・世界とつながっていきたいと思います。

次は、どの世界とつがろうかな?

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寺本秀雄(spinnage / spinn)
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