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僕の家にいた猫の話

十人並みの顔をした彼女は、近所にものすごいよく似た柄の猫もいて、逃げられたら僕はきっと見分けがつきません。

2013年の12月中頃のことでした。
マンションの入り口にいたサビ柄の入った三毛猫は、いかにも捨てられてほやほやといった不安げな顔をして僕に近寄ってきました。
帰宅途中だった僕はエレベーターの「上がる」ボタンを押して、彼女に尋ねました。
「一緒に乗るかい?」
それから今日まで10年ほどの付き合いになります。

彼女はすでに成猫で、口が臭く、血統書などあるはずもなく、引き取りては見つかりませんでした。

僕は彼女の件で一度警察に行っています。
警察官は言いました。
「別にこちらで引き取りますよ」
人懐こい彼女は飼い猫の可能性があったため、遺失物届を出しに来ていたのですが、警察官は親切にも彼女の保健所行きを勧めてくれました。

まぁめんどくさかったんでしょうね。
ちなみにその警察官とはちょっと喧嘩になりました。
その親切が必要な人もいます。彼は悪くありません。
でもきっと僕も悪くありません。

彼女を自転車に乗せていると色んな人に話しかけられました。
おばあさんが叫びました。「捨てるなよ!」
こいつが捨てたんじゃないだろうか、と僕は思いました。

というのも彼女は避妊手術を受けておらず、発情期特有の夜中の大騒ぎをはじめたのです。
「なるほど。かわいい子猫時代はよかったけど大きくうるさくなったのから捨てたのか」
警察に遺失物届を出したせいもあり、1年間は彼女はまだ僕の物ではありません。
避妊手術をすることが出来ず、僕は毎夜大騒ぎする彼女の股をさすってやる羽目になりました。

動物病院にも「野良猫なんか拾うな」という対応をされました。
色んな人に反対された気がします。

小学生の頃に服の中に猫が入ってきたことがあります。
雪が降っていました。寒かったのでしょう。
ただ何がどうやって猫が服に入ってくる羽目になったのかはまったく覚えていません。

当たり前のことですが、親は猫を元居た場所に戻すように命じました。
子供にとって親は絶対であり、逆らわずに元居た公園に猫を連れて行きました。

猫は妊娠していたようでした。
僕は猫と別れて「自分に助けを求めたものを助けられないのは、なんてみじめなんだろう」と思いました。

そんなわけで、僕の中に彼女を見捨てる選択肢はなく、彼女との生活が始まりました。
彼女はとてもめんどうな子でした。

まずそそうをする。おしっこを布団やクッションにしてしまいます。
そういう野良生活を過ごしていたのかもしれません。
これは何年もかかって、「タライの中にペットシーツをしく」ことで解決しました。

あと先ほども言いましたが発情期ですね。
大声でなかれるので非常に困りました。
猫の股を夜通しさする経験など、人生には不要だと思います。

口が臭かったです。生き物は全部臭いですが、臭かったです。
最終的に歯槽膿漏にやられた歯が全部抜けて、匂いはなくなりました。
歯もなくなりました。

彼女は頑張って僕に気に入られようとしていました。
怒られても、いやなことをされてもじっと耐えているようでした。

僕は実は猫が特別好きなわけではなく。
抱っこを拒否したいけど我慢する彼女を無理やり抱っこする気もなく。
つかずはなれず生活していました。

彼女はとてもふわふわで、その毛は大いに僕を悩ませました。
僕は猫アレルギーでした。
毎日ブラッシングをしなくてはいけませんでした。

餌が欲しい時、遊びたい時、彼女は僕を呼びました。
彼女の手は白い毛でおおわれてピンクの肉球がとても愛らしいです。
ただ声はまぁ要求が激しくヒステリックです。

僕は彼女が幸せだったかは知りませんし、きっと聞いても「幸せじゃない」と返答されたと思います。
わがままで生意気な猫でした。

僕についていかなければ、彼女はもっといい猫生があったかもしれませんし、なかったかもしれません。
何度繰り返しても彼女はエレベーターに乗ってくるのかもしれません。

僕はなんだかんだ彼女のことを愛してしまっていて
今日は長い夜をやり過ごしています。

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