蟻酸 第4話
狩猟隊長はトクジにヘイケアリから一匹、偵察任務への随伴を許可した。ヘイケアリ側からの推薦で現れたのは、屈強な肉体をした、力技で物事を解決します、みたいな兵隊蟻で、トクジは思わず呟いた
「What the fuck...」
「はい?どうかした?」
「いやあの、隊長殿、恐れながら申し上げたいのですが」
「いいよ、構わんよ」
「偵察任務ということなんで、その、もうちょっとこう」
「もうちょっと何?あ、強そう?もっと強いのがいい?」
だめだこいつ。あほだ。トクジは思った。
「もうちょっと目立たない感じの…僕が選ぶっていう選択肢はありますか?」
「え?君が?ないとは言わないけど。適任者を知っているの?」
「はい。一匹うってつけな奴がいます」
と、こうこうこういう経緯でシロを随伴する許可を貰ったと、トクジは語った。
だめだこいつ。ばかだ。シロは思った。
「俺の意思はどうなるんだよ?」
「キミノイシ?」
「そうだよ。行く行かないの意思があるだろうが」
「ないよ。雑務蟻の君に意志なんてものは。行けって言われたら行くんだよ」
「ぐぬぬ。納得できないなあ。嫌だなあ」
「君が納得する必要すらないんだよ。許可を貰っている時点でこれはもう命令なんだよ」
「その強そうな兵隊蟻を連れてけばよかったじゃんかよ。奴らの仕事だろうが」
「あんな奴でかいだけで、何の役にも立たねえよ。これは君にとって良い経験になると思ったから君を選んだんだよ。それに友達じゃん?俺らって」
「友達になった覚えはないよ。余計な事しやがって。俺は今の自分の仕事が好きで、満足してるんだよ」
「友達になろうと思ってなる事なんてないんだよ?自然と友達になるんだよ」
ムカつくので、シロはトクジの長い口を、一発本気で殴ってから、連れ立ってアブラムシバーを後にした。蟻塚の出口に向かう中で、シロは不思議とワクワクしている自分に気付いた。
それもそのはずで、バーテンダーなどと恰好をつけてはいたものの、単なる雑務蟻であるシロは、多くの雑務蟻と同様に、その一生を、蟻塚の中で送る事を、運命づけられた存在だった。蟻塚の下層で暮らしている蟻達は、自分に与えられた役割に、疑問を持つ事はあまりなかった。仮に持ったとしても、統制を乱す恐れありと、上層部の粛清対象になって、拷問された後に、外に捨てられる可能性があるので黙っていた。女王蟻の理念「全ては種の保存の為」、それを理解して日々生きている蟻は、多くはなかった。この急激な運命の変化にシロが興奮するのは必然だった。
この思いをトクジに言うと、どうせまた調子に乗るのが、目に見えてわかっていたので黙っていた。出口の前まで来たシロは、今度はワクワクとは別に、先ほどまで乗る気がしなかった気持ちの根源に気付かされた。つまり、未知の世界に対する恐怖である。
「緊張してきた」
「ビビってんの?」
「ビビッてねえよ。行こう」
「よしいくぞう、ゾウムシだけにね」