蟻酸 第14話
迫りくるカマキリの鎌。トクジ絶体絶命である。
「おほほほほほほ」
次の瞬間。
「忍法「五月雨毒針毛」!」
ボウ坊は身体を震わせると、周囲に大量の毒針を飛散させた。飛散した毒針の数十本が、カマキリの柔らかな腹部に突き刺さった。
「ぎゃあ!」
「ええい玉砕覚悟だ!忍法「力業」!」
シロはカマキリの足に噛み付き、渾身の力で捩じり上げる。思わぬ反撃に一瞬バランスを崩したカマキリの、ノーガードの腹部に更に追い打ちを仕掛けるボウ坊。
「これでも食らえ!忍法「剣山装束」!」
飛散した毒針よりも、殺傷能力の高い、体を覆う毒針をピンと張りつめて、ボウ坊は体当たりを仕掛けたのだった。
「あばばばばば」
ここを先途と、トクジも忍術を畳み掛ける。忍法「無作為の常連」を発動したことで、コミュニケーション能力が向上したトクジの、精神攻撃だ。
「俺をナゲットと呼びやがったな。ナゲットなんてもんじゃない。ワイはハッピーセットや!犬のオモチャ付や!!」
腹部に致命的な本数の毒針が刺さったカマキリは、20センチばかり飛翔して後退し、距離を取った。
「フライドポテトも付いとんのやで!犬のオモチャ全種類欲しいから翌日も行くんや!その次の日も!」
「うるさい!!ばか!いい加減にして!いたたたた…雑魚虫どもと思って油断したわ」
各々、肩で息をしながら睨み合う。しかしカマキリの劣勢に変わりはなかった。
「いたたた…卵を産めなくなったら責任とってもらうからね!お尻からジワジワ喰ってやるから、最後まで意識があるんだから!いたた…憶えておきなさい!あんた達次出会ったら最後よ!」
そう捨て台詞を残して、カマキリは何処かへと逃げて行ってしまった。逃げ去るカマキリに向かって、トクジが叫んだ
「俺も愛してるぜオネエちゃん!電話くれよ!」
かくして3匹は、強力な肉食昆虫であるカマキリの、撃退に成功したのであった。緊張が解かれて、その場に倒れこむ忍者達であったが、誰からともなく、ふふふっと笑いが漏れて、いつしか笑いは大爆笑に変わって、いつまでも止む気配がないのだった。
一方、逃げ出したカマキリはというと。激戦地から遠く離れた草むらに、身を隠して、呪いの言葉を吐き続けていた。すると後ろから声が掛かる
「あらカマキリさん?どうかしたの?こんなところで?怪我したの?」
「蟻と話す事なんて何もないわ。あっちに行って」
「そんな。心配しているだけじゃない。そういう言い方って傷つくわ」
草の陰からぞろぞろと蟻が湧いてきた。
「どうしたの?あ!泣いてるの?誰が酷いこと言ったの?」
「泣かすとかないわー」
「なになに?このカマキリがなんかした?」
「しんじらんなーい。ヒドーイ」
これにて漸く、自身が既に、見知らぬ蟻達によって、周囲を取り囲まれていることに気付くカマキリだった。
「ちょちょちょっと待ってよ。怪我をしたから休んでいただけなのよ」
「そうだったの。なあんだ。私達ゲンジアリに喧嘩を売ってきたのかと思っちゃった」
「まさか。そんなことしないわよ。でも今は、ほおっておいて貰えると助かるわ」
「誤解が解けて良かったぁ。じゃあ一緒にいこっか」
「行く?どこに?」
ゲンジアリは、一切の感情が読み取れない表情で、カマキリに答えた。
「カマキリバーガー」
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