蟻酸 第15話
シズカは薄暗い自室で黙想している。するとそこに、1匹の兵隊蟻が捕虜を伴い入ってきた。
「シズカちゃん連れてきたよ」
「来客中は女王陛下と呼びなさいと、いつも言っているでしょう」
「あ。そか。女王陛下お連れいたしました」
「はい。ありがとう。外に控えていなさい」
兵隊蟻は去り際に、捕虜の耳元で囁いた。内容は、女王陛下に対して無礼を働いた場合、コンマ2秒で殺すので、そこんとこよろしく、といった内容だった。シズカは捕虜に向き合うと、優しく美しい声で尋ねた。
「あなたはヘイケアリの女王ね?名前はあるのかしら?」
「…ハシヒメ」
「えなんて?足?あしひめ?」
「ハシ!愛し姫と書いてハシと読むのです」
「へー。名前めっちゃカワイイね!」
「なんで私はここに連れてこられたのですか?」
「なんで?何故かってこと?ワイってことよねハウじゃなくて?それはつまり一言じゃ表せないな。でもがんばってあえて一言で表すとしたら。そうね。お友達になるため。と言われた場合、あなたは私に対して凄い無礼を働いていると、個人的に思うのだけれど。ハシヒメちゃんはどう思う?無礼だったら殺すよって、ちゃんと言われたでしょ?言われなかった?しっかり勤めを果たさない兵士を罰しないといけないのかしら?」
「おっしゃる意味が良くわからないのだけれど…おぼろげながらに理解できた内容の範疇で答えるならば。お友達になるなら貴方のお名前を聞かないのは失礼になってしまうということかしら。お名前を伺っても?」
「そのと~りみんな丸く~なんて唄が古の時代に謳われたらしいってハシヒメちゃんは知っていた?賢いお友達が相手だと助かるわ。私の名前はシズカ。シズカちゃんって呼んでもいいよ」
「それじゃあシズカちゃん。もう一つ聞いても良い?」
「なんでも聞いて。お友達なんだから」
「あなた達は何者なの?友達になってどうしようというの?友達ならこのまま私を逃がしてちょうだい。お願いよ」
「受け付けた質問はあと一つだけだったけど。頭の良いハシヒメちゃんなら当然理解していると思った私のミスね。いいわ。三つの問いに答えてあげる。以下回答になります。
問壱「私達が何者であるか」→ゲンジアリです。
問弐「友好関係を築く目的」→実際には友好関係ではなく、主人「甲」と奴隷「乙」の主従関係である。「食料供給の義務について」‐ 甲に対して乙は産卵という形式によって、生涯食料供給を行う義務が発生しました。その事実を乙に言うと、取り乱したり傷ついたりする恐れがあったので、敢えて「お友達」と呼称していました。
問参「解放する意思があるか」→問参に関しては「要求・要望」案件としての処置になります。要求は却下されました。前述の「食料供給の義務について」をご参照下さい。
以上。オツです」
ハシヒメは牢でショック状態に陥ったまま、身体が冷たくなっていく様な感覚を味わっていた。