蟻酸 第17話
忍術集団に加盟したものの、状況をまったく理解していない「カメレオンのお虹」はシロに尋ねる。
「それでこれはどこに向かっているところなの?」
「一族を滅ぼして、女王をさらっていったゲンジアリの追跡をしている最中なんだ」
「ゲンジアリ。これまた厄介な相手ね」
「ゲンジアリを知っているの?」
「知ってるもなにも有名じゃない。凶悪だって。出会ったら積極的に逃げることが推奨されている連中よ」
「今まで出会わなかった事が奇跡だったんだな」
「集団はとても危険だけど、1匹の戦闘能力はカマキリに劣るはずよ」
先程からお虹の忍術名を考える、と黙ったままだったトクジの、シンキングタイムが終わった。忍法「すっとび伯爵夫人」と忍法「ゲシュタルト崩壊中」を提案。これは、シロが即時却下し。ボウ坊が呟いた、忍法「一尺飛び」と忍法「森林鏡」が採用となった。トクジは不満げだ。そうこうしていると、前方にたむろして談笑中の、数匹のゲンジアリを発見した。幸い、ゲンジアリ達は4匹の存在に気付いていない様子である。
「みんな隠れろ!」
咄嗟に茂みに隠れる忍者達である。緊急会議の結果、無用な戦闘は避けるに越したことはない。隠れて通り過ぎる事に決定した。お虹は忍法「森林鏡」を使い、周囲の風景に同化する。お虹の身体に隠れて、残りの3匹は息を殺し、ゲンジアリの背後を進んで行く。依然、ゲンジアリは談笑中だ。
「きゃははは。さっきの命乞いは傑作だったねー」
「ホント。仲間はどうなってもいいから自分だけは見逃してー。だって。最低なくそ虫」
「そのあとのアンタのセリフ。仲間も見逃さないしお前も殺す、月に代わって天誅よ。だってさー。ウケるんだけど」
「きゃははははは。あんなに昆虫を木端微塵にしないでもいいのにー」
凶悪な談笑があったものである。忍者達は更に慎重に進んで行く。
「きゃははは…ん?なんかハンミョウ臭くね?」
「すんすんすん。ホントだハンミョウくさ!」
「あいつら馬鹿だから隠れてるつもりでも、臭いでバレバレなんだよ。くっせーつうの」
「きゃはは。くせーからばれてんだよ!探すのが手間なんだよ!でてこいよ!くっせえな!」
ふるふるするお虹である。シロが「あ。やべえかな」と思い、落ち着くようにと、お虹に声を掛けようとした次の瞬間。
「忍法「一尺飛び」!!」
茂みから、凄まじい速度で飛び出したお虹が、きゃはは笑いのゲンジアリの頭部を引き抜いたのだった。
「あ!てめえ!殺してんじゃねえよ!」
「うるせえ!くそビッチ共が!体臭のことを馬鹿にすんじゃねえよ!気にしてんだよ!」
「生意気な口きいてんじゃねえよ!ぶち殺すぞ!」
「やってみろよ!くそ○○○!」
修羅場であった。女子の迫力に圧倒され、声も出せない男子忍者達。怒りで我を忘れたお虹は、単身、2匹のゲンジアリを相手に、連続して一尺飛びを繰り出し、相手を翻弄する。お虹の姿を目で捉える間もなく、ゲンジアリ達は頭部を引き抜かれて息絶えていった。男子忍者一同、お虹を絶対に怒らせてはいけない、と心に誓うのであった。