【悲しき理由が…】傲岸不遜たる「冥王」・冥加玲士はなぜマゾヒストなのか
※『金色のコルダ』シリーズ最新作『スターライトオーケストラ』内の「伝説の演奏家・冥加玲士」のストーリーには言及しませんでした。のでコルダ初見さんはもちろん、スタオケプレイしてるけど3や4の復習をしたい方、「結局なんで冥加ってマゾなのかいまいちよくわかってない」「そもそもマゾだったっけ!?」って方、どうぞ。
画質いいからスタオケの「黄金色の記憶」イベから画像を一つ引用したが、シーン自体は3のシーンだからスタオケのネタバレじゃないから出していいよね。イベ終わってるし。
我らが冥王・冥加部長とは
冥加部長お誕生日おめでとうございます(11/14)!高校生たちがクラシック音楽演奏の高みを目指すため切磋琢磨する青春群像劇&恋愛シミュレーションゲームシリーズ、『金色のコルダ』。そのシリーズの3から登場する名物男、冥加玲士(みょうが、れいじ)。
登場作は3、3Another Sky、4、オクターヴ、スターライトオーケストラ。
彼は前記事「七海と氷渡考」でも書いた通り、『コルダ3』での全国学生音楽コンクールのラスボスポジションとして立ちはだかる、横浜天音学園の室内学部部長である。高校三年生、担当楽器はヴァイオリン。
👇天音学園とは、以下のリンク記事の「天音学園とは」の章参照。
そんな冥加部長だが、
や、
や、
や、
とか、
や、
など、おかしな破天荒な言動に枚挙に暇がない。
まさに魔王(名前的には「冥王」)。
本当にこれ「恋愛シミュレーションゲーム(乙女ゲーム)」なんですか?いったいこれでどんな恋愛をシミュレーションしろって言うの???
と言いたくなるような言動が目立つ。しかも運営側は何を血迷ったか、冥加部長は『コルダ3』世代(3、3AnotherSky天音、4)のメインヒーローの一人なのである。嘘だろ???ほんとです。
前記事「七海と氷渡考」でも書いたように、人間味を感じさせない圧倒的な実力と独裁者のような傲慢な振る舞いが特徴的な人物だ。
ちなみに、冥加部長の圧倒的な実力と悪魔的な表現力のために、コンクールの対戦相手のヴァイオリニスト(円城寺阿蘭くん)が廃人になってしまうという、一幕もある。
そんな、いかにもサディスト魔王のような男だが、
恋愛においては、なんとドマゾなのである。
実はマゾ!?
それは彼の台詞や言動にやたら「女神よ、俺を縛り付けろ」といった旨の言葉が登場することからわかる。
これを解説するには、まず主人公と冥加の因縁を説明せねばなるまい。
冥加部長は、本編の7年前にあたる10歳の時、ヴァイオリンのソロコンクールに出場していたが、当時天才少女だった主人公に実力で負けてしまう。
しかし。冥加少年には決して負けてはいけない理由があった。後述するが、冥加は両親を事故で失くした孤児であり、演奏者を音楽のピース(部品)としか考えておらず平気でその心を裏切るサイコパスロシアジジイ世界的に有名な指揮者であり芸術をこよなく愛するロシア人の初老の紳士、アレクセイ・ジューコフに引き取られた。
だが、アレクセイは最上の完成された美しさしか認めない男で、冥加が負けそうとなると、援助を打ち切るようなことをほのめかす。
アレクセイにすがるしか生きる術を持たない幼い冥加は彼に必死にすがりつくが、彼の態度は冷たいまま。しかも、冥加一人ならまだしも、彼には妹がいる。自分が負けると、妹の命も危ないのだ。
そこで、主人公は自分がコンクールを辞退し、優勝を譲ると言い出す。
しかし、冥加にとってそれは演奏家・冥加玲士という存在への侮辱でしかなかった。そこから、彼は七年間、主人公へ憎悪を燃やし、彼女を叩き潰すことだけを生き甲斐に生きていくことになるのだ。
…あれ?サディストじゃん?
と疑問に思っただろうか。
しかし、この過去の呪縛に誰よりも苦しんでいたのは実は冥加自身なのだった。その点を冥加自身言語化できておらず、何も言わないから、冥加のこの本心の望みは非常にわかりづらい。
(この本心を言わない、言えないところが非常に男塾思想的である)
(妹・枝織だけがわかっており、「兄様を解放してあげて」と主人公に訴えてくる。)
幼い頃の主人公は、この一件でパニックになってしまい(そりゃ、こんな怖い年上の男の子に詰め寄られ、初老の外国人の男からもあやしげなことを言われ、無理もない)、心の防衛規制のため七年前の一件を忘れ、無意識にコンクールというものがトラウマになってしまい、この七年でヴァイオリンの腕を落としてしまっていた。もちろん、腑抜けのようになった彼女を倒しても冥加の復讐にはならない。だから冥加は彼女の成長こそを望んでいた。
彼女は、この夏のコンクールで仲間たちやライバルたちとの切磋琢磨により、昔の、いや、昔以上の成長した輝きを取り戻し全国優勝する、というのが『コルダ3』のあらましなのである。
輝きを得て女神のように君臨する主人公の前に、冥加は敬虔に呟く。
お前のすべてで俺を支配してくれ。
俺のファムファタルー。
乙女ゲープレイヤーたち「…え!?なんで急にマゾになったの!?(大困惑)」
冥加は、本気になった主人公を叩きのめすことで復讐するとずっと言っているが、その実、本当は覚醒した主人公から打ち倒され、過去の呪縛から解放されることを望んでいたのである。
それは下記のキャラクターソングの歌詞からも伺えるし、冥加とくっつかないルートでも、冥加を倒したあと妹・枝織がエンディングで「なんだか兄様嬉しそう」と微笑んでいることからもわかる。(その枝織の台詞は字幕がなく音声のみなので、画像は置かない)
参考
キャラクターソングの歌詞をいくつか紹介。
『ファタリテート』(意味は、運命。重すぎる。)
06:20~。視聴動画なので歌はないが雰囲気だけでも。
お前を愛すことで得られる「忘我の喜び」…我を忘れるのが「喜び」であり、それでは飽きたらず「もっと縛りつけろ」である。
更に、かの女を「ファタリテート(運命)」と称する。
ヒロインを神格化し、彼女に縛り付けられて我を忘れるほどになるのが彼の喜びなのである。しかも、最果ての果てまで。ドマゾ。ドマゾ、重い、果てしない。
次は『FEMME FATALE』意味は、男を狂わす運命の女。
ここで聞けるよ。公式アーティストに報酬入る動画なのでご安心を。
『lila lavandula lila』天音学園のテーマソングだが、冥加目線の歌詞のため、冥加の思想が全面に出ている。
しかし、実は冥加を攻略した乙女たちの感想ブログなどを読んでみると、彼女らの頭には疑問符が浮かんでいたようだった。
「傲慢な独裁者キャラなのに、ずっと主人公を倒すって言ってたのに、なぜいきなりドMになっちゃったの???(大困惑)」
無理もない。冥加本人が「倒されたい」とは一度も言っていないのだから、非常にわかりにくい。(妹だけは彼の本心を見抜いていたが、彼女はそこまで出番の多いキャラではないので人によってはあまり印象に残っていないかもしれない)
実は私も今までそこがよくわかっていなかった。コーエーさんお得意のギャップ萌えを狙ったのだろうか?あるいは、トップにたつ人間ほどマゾになりやすいという一般論をよく聞くし、そういうことなのだろうか?
という浅はかな理解しかなかった。
しかし。男塾思想を学んで男性心理が少しわかるようになってきた今、冥加がなぜマゾヒストなのか、を真面目に考えてみると、単なるオモロ男傲慢&マゾのギャップ萌えだけではない、とても悲しい背景だったことがわかったので、紹介したいと思う。
本稿のキモ・なぜ彼はマゾヒストなのか。
冥加があまりにも冷徹になってしまったのは、つまり、人間らしい感情を疎かにしてしまうようになったのは、幼少期の事件が原初体験になっていると思う。そしてそれが、最終的にマゾヒズムへと変貌していく。なぜか?ひとつひとつ解説していこう。
ちなみにマゾヒズムにも色々あるが、ここで言うのは、自分より強い存在を求めそれに屈服したい、包まれたいという欲望を指す。
幼い冥加玲士は、家族と車で出掛けた先で事故に遭ってしまう。吹雪の中、冷たくなっていく両親。運良く生き残った自分も小さな妹といっしょに、一晩中寒さに震え、命の危機にさらされてしまう。
「死ぬものか…死ぬものか…死ぬものか!」
両親を失ったばかりで、なおかつ自分も命の危険に晒されている幼い少年が、妹を守りながら気丈に絶叫する姿はあまりにも悲しい。
ここで注目したいのが妹の存在だ。もし玲士一人だったら、吹雪の中両親を失い自らも命の危機に晒される恐怖に思う存分泣き叫んでいただろう。しかし、それができなかった。
自分は兄だから。自分をすがって頼ってくる妹を守らなければならないからー。
人生で一番泣きたい時に、彼は泣けなかったのである。しかも十歳ごろの小さな子供の頃にである。
それが彼の原初体験として、心の奥底にずっと引っ掛かっていたのだと思う。
「本当は泣きたい」とー。
しかも冥加兄妹が引き取られた先も最悪の地獄だった。
先述のアレクセイが義父にあたるが、アレクセイは最上の完成品を好む。少しでも完璧に陰りが出たら玩具のように演奏者を捨てる悪魔のような男だ。(天音学園の行き過ぎた結果主義は、この男が建てた学校だからだ。現在の実権は冥加が握るが、皮肉にもアレクセイのこの部分を冥加は受け継いでしまっている→前記事「七海と氷渡考」の「サバイヴ」の章、冥加の氷渡の捨て方参照。冥加自身はアレクセイと同じことをしているのに無自覚であった。「親子」ってそういうもん。)
当然、冥加少年は必死で彼の求めるレベル(海外コンクールで優勝当たり前レベル)を保ち続けた。先述通り、アレクセイに気に入られなければ生活を援助してもらえないからだ。しかも、自分だけならいざ知らず、か弱く可憐な妹。自分が堕落すれば、妹までも死地にさらされてしまう。それが拍車をかける。
「冥王」の通り名の通り、冥加は大袈裟ではなく常に死と隣り合わせの生活を送ってきたのだ。
冥加玲士は、嫌でもトップの座を走り続けねばならなかった。
玲士少年はあの吹雪の夜以来、弱音を吐くことも、弱みを見せることも、ただの一度も許されなかったのだ。
妹の存在による影響が小さくないとは思うが、私は、妹・枝織を責めるつもりは毛頭ない。幼い女の子が兄とこのような状況になれば、こうなるのは当然だ。妹は本編の時間軸でもまだ13才、まだ大人の庇護がないと生きていけない女の子なのだ。
ただ、妹の性格が肝っ玉母ちゃんタイプの女だったり強いタイプの女だったならもう少しだけ話が違っていたのかもしれない。いつまでも過去の主人公に囚われる兄・玲士に「兄様いい加減になさい!」とビンタできるような妹ならば、玲士がここまでマゾヒズム願望をこじらせないですんだのかもしれない※。しかし、よりにもよって、守ってやらねば、という兄心を掻き立てるタイプのか弱い女の子だった。それが余計に兄・玲士をして強がらないといけない要因を強めてしまったのが、冥加の物悲しさ、数奇な運命をより彩ることとなる。
※妹からビンタ→いや、それはそれでマゾになるのか。。。?(笑)
まとめると、幼い頃に親と死別しているため親にぞんぶんに甘えることができなかった上に、幼い頃から守るべきものがあり強制的にトップに立ち続けなければならなかった。それにより弱みを出せなかった、強い存在であることを強いられ続けた。それが冥加をしてマゾヒスト=自分より強い存在を求めそれに屈服したい姿勢にした要因である。
しかも冒頭でも書いたように、やたら命や立場を狙われ、敵がいっぱいなのも、強い存在であることを強いられるのに拍車をかける。(冥加の厳しすぎる態度によるせいもあるので自業自得な部分もあるとは思うのだが…。しかしその態度もこのアレクセイにより過剰に過酷に育った環境のせいなので、冥加は被害者でもある)
要するに、冥加部長は「強い存在」であることに疲れているのだ。
だからこそ、主人公を「女神」としたいのだ。「自分より大いなる温もりに包まれて甘えたい」。彼本人は口にはしないが、彼の根底の本心はそれなのだと思う。それが、冥加がマゾヒストである理由なのだ。
しかも、彼は蠍座の擬人化のような性格で、手が抜けないどころか普通の人が100%を目指すところを、200%を目指してしまうような性格だから、自分では「休む」ことができないし、自分では「甘える」やり方がわからないのだ。つまり、自分からは「強い存在」の立場から降りられない男だということだ。
冥加のワーカホリック※は異常で、楽器で海外レベルだけでなく、学業もおろそかにしないし、本来の理事長アレクセイを駆逐したため天音学園の理事業務を実質的に行っているのは冥加なのだ。Another skyでは、深夜2時ごろにコンビニを徘徊している姿も確認できるし、5年後冊子では食事もとらずに2徹3徹してるらしき描写もある。弱さを出せないことが、冥加の弱さなのだ。
※ドラマCDで、「お前の演奏を聞いてなお仕事していられるほど、俺はワーカホリックじゃないんでね…///」とかのたまっていたが、それは仕事より主人公の演奏が大事だからの相対的な比較であって、仕事の絶対量で見ればあなたは充分ワーカホリックです。
だから、自分より大きな存在に甘やかしてもらわねばならないのだ。。。
彼に一番きくスタンスはきっと、
「玲士くん、今までよく頑張ったね。もう頑張らなくていいよ。甘えていいよ。泣いていいよ。弱くてもいいよ。私は一生絶対にあなたを裏切らないし、置いていかないよ」
であろう。たぶんみょーがぶっちょに一番きくのはあかちゃんプレイ
おまけ
補足だが、冥加部長は男性たちに対しても、彼を恐れずに刃向かってくる人物を好む傾向にある。それも上記の願望が関係しているものと見える。君臨する魔王として手応えのある相手が好き、というサディスト的一面による理由もあるだろうが。
遠慮せずツッコミをいれてくれる如月響也、冥加の人格を恐れず純粋にヴァイオリンのライバルとして挑んでくる如月律や東金千秋、飄々として「冥加はああだからね、ほっとくといいよ」的なスタンスの幼馴染み、天宮静など。
前回記事でも書いた七海と氷渡の冥加へのスタンスの違いを見ると、七海が選ばれたのもさもありなんと思えるだろう。