〔民法コラム8〕催告による解除


1 法定解除権の発生要件

⑴ 催告解除の要件(541条)

⒜ 催告全部解除の要件

 債務者が「債務を履行しない」こと、「相当の期間を定めてその履行の催告」をすること、「その期間内に履行がない」こと、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微で」ないことが条文上要求されている。
 「相当の期間」とは、一応の履行の準備をすませている者がその後の履行を完了するのに必要な猶予期間である(判例)。なぜなら、債務者は元々履行期までに一応の履行の準備をすませていなければならないからである。
 「相当の期間」といえるか否かは、履行すべき債務の性質、取引界の事情、その他の客観的事情により定まり、債務者の病気・旅行等の主観的事情は考慮されない(判例)。
 「債務不履行」、「催告」、「相当期間の経過」を全体として考察した上で、債務不履行が軽微と評価される場合には、債権者が契約を維持する利益ないし期待は債務不履行により失われていないため、解除権が否定される。

⒝ 催告一部解除

 給付義務の一部履行遅滞の場合、債権者は、その一部について、相当期間を定めて催告をし、その期間内に当該部分の履行がされないときは、債権者は、契約の一部解除をすることができる。ただし、当該部分が履行されないことが軽微と評価される場合は、一部解除をすることはできず、この場合の救済は、損害賠償によることとなる(545条4項)。

⑵ 無催告解除の要件

⒜ 無催告全部解除(542条1項)

 次のいずれかに該当する場合には、催告なくして契約の全部を解除できる。
①履行が全部不能である場合(1号)
②債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合(2号)
③債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき(3号)
④契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき(4号)
⑤債務者がその債務の履行をせず、債権者がその履行の催告をしても毛役をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかである場合(5号)

⒝ 無催告一部解除(542条2項)

 次のいずれかに該当する場合には、催告なくして契約の一部を解除できる。
ⅰ債務の一部の履行が不能である場合(1号)
ⅱ債務者が債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合(2号)

2 売主の担保責任

⑴ 総論

 売買契約における売主は、種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合する目的物を引き渡すべき義務を負っている。売主から引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合、買主は、売主に対して、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる(562条1項本文)。
 契約の内容に適合しない目的物を引き渡して買主から追完を請求された場合に生じる修補義務等の債務も、売買契約の当事者として売主が負う債務であるから、この債務を履行しないことも、催告解除の要件の「債務を履行しない」(541条本文)を充足し得る。

⑵ 契約不適合の種類

⒜ 種類・品質に関する契約不適合

 種類・品質に関する契約不適合には、物質面の欠点のみならず、心理的瑕疵、環境瑕疵(日照・景観阻害)や法律上の制限(用途制限・建築制限)も含まれる。

⒝ 数量に関する契約不適合

 売買契約の当事者が当該契約の下で「数量」に特別の意味を与え、それを基礎として売買がされた場合(数量指示売買)に、数量が不足していて、初めて数量に関する契約不適合があったと評価される。
 登記簿に従って地番・坪数を示しただけでは、数量指示売買にならない(大判昭14.8.12)。

⑶ 買主の救済

⒜ 追完請求権(562条1項本文)

 引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約不適合であった場合、売主は、不完全な履行をしたことになるから、買主は、売主に対して、履行の追完を請求することができる。

⒝ 代金減額請求権(563条1項、2項)

 代金減額請求権の行使は、相手方に対する一方的な意思表示(単独行為)であって、形成権である。

⒞ 損害賠償請求権(564条、415条)

 買主は、415条以下の規定に従って、債務不履行を理由とする損害賠償を請求することができる。

⒟ 解除権(564条、541条、542条)

 買主は、541条又は542条に従って、債務不履行を理由として売買契約を解除することができる。

⒠ 期間制限(566条)

 買主が種類又は品質に関する契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、買主は上記の救済方法を採ることができない(566条本文)。ただし、売主が引渡しの時に、契約不適合につき悪意又は重過失であったときは、この期間制限は適用されない(566条ただし書)。
 数量に関する契約不適合については、566条の期間制限の適用はなく、消滅時効の一般原則に服することになる。数量不足は外形上明白であり、履行が終了したという期待が売主に生じることは考え難く、期間制限を設けて売主を保護する必要性が乏しいからである。

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