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『ゆびさきと恋々』連載記念  森下suu先生 インタビュー 後編

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 前編のインタビューでは、おふたりの出会いから投稿時代のこと、そしてコンビを結成することになったきっかけと、デビューまでのお話を伺いました。

 後編となる今回は、新連載『ゆびさきと恋々』のテーマが決まるまでのできごとや、実際の取材、そして代表との作品作りについてまでをじっくりお話しいただきました。最後までぜひお読みください!

***前編のインタビューはこちら!***

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ゆびさきと恋々』あらすじ

 ある冬の日の電車内。聴覚障がいのある女の子・雪を助けてくれたのは、世界を広く旅する年上の男の子・逸臣(いつおみ)だった。友達を通して、同じ大学へ通う逸臣と再会できた雪は、彼のことをもっと知りたいと思いはじめ──。 

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新連載『ゆびさきと恋々』のテーマが決まるまで 

──『デザート』は以前からお読みになっていた?

なちやん先生(以下 な):私は、本誌は読んでなかったのですが、『デザート』から出ているマンガを個人的にけっこう買っていたので、鈴木さんのことは知っていました。「有名な人がいる」みたいな感じで噂も聞いていて。いつか「『デザート』で描きたいな」という興味はありました。

──では、お好きな作品がいくつもあったことがきっかけに

:それもですけれど、『デザート』の感じや自分の絵的にも誌面と合う気がする……という感覚があって。あと個人的に読んでいたマンガが、全部鈴木さんの担当作だったんですよ。「自分の好きな作品を、全部同じ担当者が編集している!こんなことがあるんだ!」と驚いて。鈴木さんじゃなかったら『デザート』じゃなかったかもしれない。私が先に会って、最初にお会いしたのは何年か前だったのですが、やっぱり鈴木さんと仕事をしてみたい、と思ったのがきっかけでした。

──マキロ先生はいかがだったのでしょう?

マキロ先生(以下 マ):他誌に移るというのは色々な意味で大きな決断がいりました。でも鈴木さんが『デザート』の連載のネームを全部見てると聞いてまず驚いたし、こんなに漫画に一生懸命なんだということと、私としてはメンタルが落ちていたので『デザート』という雑誌から求められるという事が嬉しかったです。

:本当にそれが嬉しかったよね。

:自分の味とか良さは意外と自分では気づかない部分もあって、編集さんにはそういう所を教えてもらいたいんですけど、なかなかそうは言えなくて。でも、鈴木さんは聞く前に、「あなた達のここがいい」みたいなまとめを送ってくれて。そうやって褒められる事も嬉しかったし、漫画家として肯定された事が初めてだった気がします。

──それで実際に、新連載へ向けた打ち合わせが始まって……

:でもいざ「『デザート』で連載を」となって、最初に用意していたネームを鈴木さんに持って行った時は、「うーん……」みたいな反応でした。

:だいぶコテンパンでした。

鈴木(以下 鈴):はははは。最初のね。

:言葉じゃなくて雰囲気が、「もっとやれよ!」「やんなきゃ意味ないだろ!」みたいな。

:「意味のあるもの持ってこい!」的な感じを受けて。

:ははははははは。

:いや、それは「感じ」じゃなく直接言ってたよ!(笑)。私たちはそのころ、心が弱ってたんですよ。自信もなくしちゃってて。「みんなに喜ばれる作品を描こう……」みたいな気持ちしか浮かばないくらい、弱ってたんです。あまり挑戦をしたくないような状態に落ち込んじゃってて。

──「守りの姿勢」みたいな

:そうそう、もう完全にプロテクションモード。そしたらしーげるさんから「喝!」が入り、熱い叱咤(しった)をいただいて。そのとき、心を入れ替えたんですよ。宿泊していたホテルに帰ってから、二人で「考え直そう!」と言いあって。

:「こんな熱いこと言う人いるんだあ」ってびっくりした。眠れなかったね……。

:寝なかったね、あのとき。めちゃくちゃ話しこんだよね。

:「手話」っていうテーマに関しては、なちやんが言ってきた。

:私、絵を描いている側じゃないですか。話を考えるのはマキロだから、マキロに「苦労しろ」とは言えない……という気持ちもあった。前から描きたいと思っていたけど、「手話」っていろいろ調べなきゃいけないテーマだし、私からはとても言いづらくて。

──そういった状況で、なちやん先生から提案した「手話」というテーマが、マキロ先生にとっても長年描いてみたい題材だった

:その偶然にびっくりしたんですよね。「え?い、いいの?!」みたいな。すごく驚きました。

:私も、「手話」ってマンガ家人生でやってみたい題材でずっと考えてたんですよ。「あ、いい!」「やる!」と思いました。だいぶチャレンジな題材だから余計に盛り上がりましたね 。

:「努力しないととても描けない……私たちが本気で挑戦するのはこれだな!」と決めて。「もう、やらなきゃダメなんだ。挑戦していかなきゃ、やっぱりダメなんだ!」という気持ちになっていたから、やると決意できたんだと思います。

手話

:その後、鈴木さんにプレゼンしたんです。 「私たちがやりたいのはこういうことです」と。でも「うーん」と考え込まれて、うっすら難色を示している感じで……。

:難色ではなく、どういうイメージで提案してきたのか想像がつかなくて。自分で煽っておいてなんですが、完全に予想外だったんです。

:「(どういう形になるのか)ちょっと見えない……」って、ずっと言ってましたね(笑) 。

:だからすぐに、どういう気持ちや根拠で「手話」をやりたいのか聞きに会いに行ったのですが、もうだいぶ前からやりたかった題材だということ、二人で本気で話し合って出した結論だということ。ゆえに、どう表現するかイメージもすでにあって色々聞けたので、じゃあこれでやりましょうとなったんですよね。

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作品づくりと偶然の出会い 

──その後、『デザート』で新連載が始まるまでの準備はいかがでしたか? 

:鈴木さんのお仕事は、想像以上でした。想像以上に「やってくる」感が。 

:あー、それは私も感じました!「この人ちょっと普通じゃないな」って。細部にまで本当にこだわる!
 
:だいぶクレイジー(笑) 。

:とにかく「面白い作品を作りたい」という熱がすごい 。

:むしろそれしか考えてなさそう 。たとえば「家を作る」というミッションがあるとしたら、同じ家を建てるにしても「土地探しから始まる」くらいの感じです。

:新連載を立ち上げる時に、ものすごく下調べをしてきてくださったんですよね。私も図書館で聴覚障がいのことを調べていましたが、鈴木さんの調べてきてくれた資料の量が尋常じゃない。やる気がすごくて。あと、私たちはわりと作品に対するこだわりが強く、そのために以前は「ここまでこだわってごめんなさい」という気持ちを感じることがありましたけれど、今回はほとんど感じずにすみました(笑)。

──なるほど……!代表らしさが伝わってくるエピソードですね(笑)。テーマが決まってからお話を作り始められたこの作品ですが、お話とキャラクターはどちらが先に決まりましたか?

:キャラクターが先かな。

:お話は取材へ行ったときに、いま作品に協力してくれている柚希(ゆき)ちゃん(=『ゆびさきと恋々』作品協力の宮崎柚希さん)と偶然会ったりしたことで、徐々に固まって行きました。 

ゆきちゃん

──柚希さんとの出会いはどんな感じだったのでしょうか

:もともと、私の姉の知り合いにろう学校の先生がいて、それで取材をしに熊本へ行きました。でも、「やっぱり実際に聴覚障がいのある子に話を聞かんと、分からないところがあります」と言われて、「絶対探そう!」と心に決めて。手話カフェが博多にあるのは知ってたんですよ。それで鈴木さんと私たちの3人が福岡に居たとき、「そういえば手話カフェって博多にあるんですよ」って言ったら、鈴木さんがすごく興味を示して 。

:「じゃあ明日行きますか」みたいな感じになって、「一緒に行ってくれるんだ……!」と驚いた(笑)。

:それは行きますよ(笑)。僕も実際に聴覚障がいのある子に会って話を聞いてみたかったですから。

:それで「取材ではなく、まずは普通にごはんを食べるだけにしましょう」ということにして、お店に行きました。「もしチャンスがあって、話しかけられたら話しかけよう」と。普通に、誰でも行けるカフェなので。

:そこで接客していた方が、すごくかわいくて。「あの子いいね」って目をつけてて(笑)。

:ちょうど店内からお客さんがいなくなった時に、彼女がニコニコしながらホワイトボードを持ってきてくれたんですよ。私が筆談用の道具を持っていたので、「たぶん聞こえないのかな?」と考えてくれたようで「どうぞ」って渡されて。

:「今だ!チャンスだ!」と。

:「私たち、漫画家です。モデル探してます」みたいなことを伝えて、「お話伺えますか?」と尋ねたら「大丈夫です!」とお返事いただけて。そのあと、 LINEを交換しました。

──展開が早い……!

:名前がたまたま、主人公と同じ「ゆき」ちゃんだったんですよ。キャラクターの名前はだいぶ前に決めていたので、本当に偶然。びっくりして。その後は作品の監修もしてもらってます。  

:私は今でも月一くらいで会って話を聞いたり、手話を教えてもらったり。「こういう時、どう思うか」と具体的なアドバイスや、ネームのチェックもお願いして。「違和感ない?」「大丈夫です!」みたいなやり取りを重ねています。  

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「音のない世界」と「普通の女の子」を表現する

──そういった出会いを経て作られた第一話では、「トリリンガル」という言葉が、セリフとして独特の形で表されていました

:普段の生活で使われない言葉は、やはり口を読みにくいと思うので。私も柚希ちゃんと話している時に、普通にしているつもりでもうまく読み取ってもらえない言葉があって、そういった場面を文字で表してみました。

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──「聴き取れないってこういう感じなのかな」と驚きました

:同じ母音の文字が続くと、唇を読みづらいみたいで。ほかにも、「聴覚障がいをどう表現するか」という面でこだわった場面は多いです。「口話は分けたい」とか。

:(マンガだと)その感じを視覚化できるかもしれないのでいろいろ挑戦していきたいと思っているんです。

──今回の場合はそういった違いを、「文字色の薄さ」で表現されていました
  
:私はトーンで表せばいいかなと思っていたんですけれども、鈴木さんが「(セリフの印刷を)薄くしてみる?」と提案をくださって、実際に刷り上がったものを見せてくれて。

:お二人のこだわりがとてもステキなので、こちらもできるだけ協力していろいろな形でイメージを実現していきたいんですよね。

──柚希さんから話をうかがう中で、印象に残っていることはありますか

:んー……よく食べるところ?(笑)。キャラとご本人をリンクさせているわけではないので。ただ、とにかく天真爛漫で、ろう学校の先生からも「みんな、普通の子なんですよ」と聞いてたんですけれども、柚希ちゃんと知り合ってから「やっぱりそうなんだなあ」と実感がわきました。本当に普通の少女なんですよ。かわいい女の子です。

──『ゆびさきと恋々』第一話の冒頭でも、雪ちゃんがワンピースを買って喜んでいるシーンは、「どこにでもいる女の子の日常」でした

:事前に「道徳の教科書っぽい描き方はしたくないよね」と話していました。でも、社会に訴えかけるわけでもなく。

:そうそう。フラットに。

:とにかく読まれることが大事だなと思って。読んだ後に「あ、この手話覚えてる~」みたいな感じでいいと思うんですよ。「これを覚えてね!」じゃなくて。

──作中で、雪ちゃんの格好がオシャレだなあと。参考にされたものなどはありますか?

:ネットで古着屋さんのサイトを見たり。

:私も服が好きなんです。取材にも行きました。日常的に見ていて、古着も好きで。 

ゆきちゃん2

:雪の服は「普通のかわいい女子で、ちょっとレトロファッションが好き!」といったテーマを決めて、あとは自分の好みのまま描いている感じです。大学も実際見に行きました。 

──学園祭といったイベントへ? 

な:いえ、平日の大学にただ入りこんで(笑)。大学の日常や空気感を味わいに。じっと眺めて、大学のパンフレットをいっぱい持って帰ってきました。やはり見ないと描けないので。 

──そういえば、今回はこれまでの主人公たちより年上の、大学生という設定です。その違いは


:お話の幅が広がるんですよ。たとえば「お酒のシーンが描ける」という点だけでも、大きいなあと思って。高校生には高校生のよさがあるんですが、高校生は「青春」を強く書かなくちゃいけない。

:大人であれば、もうちょっとリアルな感じが描けるので、今回はどんな風に描いていけるか楽しみにしてます。

──最後に、読者の方へメッセージをお願いします!

:あまり重くならないように描こう、とは思っています。前作の『ショートケーキケーキ』(※1)が後半重かったので。「聴覚障がいだから大変なんだよー」みたいな描き方はしたくない。抽象的なんですけれど、物語が光っている感じ。それを描きたいな。あと柚希ちゃんが読んで、「面白い!」と思うマンガを描きたい。「聴覚障がい」というテーマだけれど、「ほとんど恋愛もの」という見方をしてもらってもいいですし、雪の「本当の音がない世界」もちゃんと描きたいと思っています。

:私は「勇気が出ないな」という時に、一歩その助けになるような感じのマンガが描きたい。そういう気持ちで描いています。

マ&な:連載として始まったばかりですけれど、描きたかったこれまでの思いを込めて、がんばって描いていきます。もし、この漫画をきっかけに手話に興味を持ってくれる方がいたらとても嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします!

──お話や雪と逸臣の二人の関係がどんな風に進んでいくのか、今からとても楽しみです。長いお時間、ありがとうございました! 

<森下suu先生の代表作・ご紹介>

※1 『ショートケーキケーキ』 
森下先生の連載二作目。高校入学後、バス通学2時間の生活から友達のいる下宿で暮らすことになった女の子と、その下宿先で出会った男の子たちとの新しい日々。『マーガレット』2015年23号~『マーガレット』2019年7号まで掲載された。 

日々蝶々』 
森下先生の連載一作目。学校一の無口な美少女と、硬派な空手男子の同級生。異性が苦手な二人、でも自分たちなりにその距離を縮めていき──。『マーガレット』2011年24号に読み切り作品として掲載、その後連載となり『マーガレット』2012年6号~2015年13号まで掲載された。

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 森下先生の今までとこれから、そして作品に対する姿勢や代表との作品作りなど、じっくりお読みいただけたでしょうか。
 新連載の『ゆびさきと恋々』、これからの展開にもどうぞご注目ください!

☆★☆ 前編のインタビューはこちら
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