店舗開発のお仕事2:立地/商圏調査・物件調査(新宿駅から5分駅比較)
出店戦略を立て、出店エリア・路線を決定したら、実際に商圏(エリア)内の物件を検証しながら決定していきます。
ここでは、新規飲食事業立上げ(仮の事例)で、1店舗目の出店にあたりどのように商圏を考えていくか(分析するか)を記載します。
検証対象の駅は笹塚駅・代々木上原駅です。
この2つの駅は、渋谷区区内・新宿駅から5分、両駅間は徒歩で20分、という、似た環境にありながら、街のイメージが大きく違います。
1:立地と商圏の定義
商圏の比較に入る前に、立地と商圏の違いについて考えます。
弊社では、立地と商圏について以下のように定義しています。
立地:その土地がどんな特性を持った土地(場所)であるか。
商圏:その土地にどこからどこまでの範囲で人が集まり、どんな特性を持っ
た消費者が集まり行動するか。
注1)立地と商圏は考え方が被る部分が多くあります。そのため、
定義も会社によって変わります。
注2)ターミナル駅立地などの立地・初見詳細については、別の項で
書きたい、と思います。
2:立地確認
2つの駅がどのようなアクセス・ルートを持っているか確認します。
*笹塚駅から徒歩12分程度の距離にある幡ヶ谷駅には、テルモ(株)・(株)メディカルネットなどの上場企業があり、商業施設や飲食店の多い笹塚駅に交流人口が生まれる可能性が高い。
2-1:笹塚駅
駅改札を出ると、右手にフレンテ笹塚、正面は京王モールにつながり、大手カフェチェーンや飲食店、チェーンの小売・靴など様々なチェーン店に短時間で行ける帆は、甲州街道沿いなどに大手チェーンの飲食店が多い。
現在、駅北側の新宿中村屋工場跡地が「笹塚駅南口地区 地区計画」に基づき、三井不動産により再開発中であり、その先を北側に進むとは代々木上原に向かう住宅地があります。一方で笹塚駅南側は甲州街道を挟み十号通り商店街を抜けると中野区に向かう住宅地があります。上場企業の本社や背後の住宅エリアを考えると平日は通勤する会社員、休日は住民層の潜在顧客が見込めそうである。
2-2:代々木上原駅
駅ビルのアコルデ代々木上原には、スーパー・飲食店・書店が入居する。駅前にチェーンの牛丼屋、ダイソー、駅近くに串カツ田中が1店舗ある他は、チェーン店はコンビニのみである。ミシュラン店舗/ビブグルマン店舗が点在し通好みの飲食店(個人店)が多く、目的性の高い飲食店が繁盛している。
日中の交流人口はさほど多くない。
渋谷駅からのバスは大山町停車があるが本数は少ない、ハチ公バスが20分に1本駅前に停車する。大手バス会社のバス停は隣接する代々木八幡エリアに多く点在する。
2-3:想定される立地の違い
笹塚駅と代々木上原駅は3次商圏(2km)で比較すると、商圏が大きく被るため、似たような数字に落ち着きます。一方で、1次商圏(0.5km:徒歩6分)2次商圏(1.0km:12分)で比較すると、大きな違いが見えてきます。
一番大きな違いは生産年齢人口の差です。
1次商圏(0.5km) 2次商圏(1.0km)
笹塚駅:14,373人 51,106人
代々木上原駅:8,978人 39,576人
徒歩6分程度で、気軽に駅前商業施設や飲食店・小売店に行ける人数が、笹塚駅が5,395人代々木上原駅よりも多く、理論的には、笹塚駅は代々木上原駅に比べて1.6倍の集客ができることになります。
駅周辺の飲食店に集客できるPC(ポテンシャルクラスター/人が密集している住宅地・就業地)としては、笹塚駅の方が勝っているといえます。
用途地域の違いや商圏人口、商業施設などの周辺環境や施設から判断すると、笹塚は平日就業者と住居者が混在し交流人口が多い街、代々木上原は交流人口が少なく、文化的な匂いのする高級住宅地としての街、だと推察されます。
3:商圏調査
仮のモデル業態を以下の設定とします。
【仮:出店モデル】
将来の多店舗化を目指し、城西地区渋谷区への1号店出店を出店。
業態:居酒屋
客単価:3500円
3-1:交通機関・交通量調査
*乗降客数は各電鉄会社のHPより
【笹塚駅】
笹塚駅(京王線)新宿から1駅:4分 乗降客数61,710/日(2021年)
*2021年、2020年共にコロナによる自粛期間のため乗車人数が減って
いますが、コロナ前は8万人超えをしていました。
【代々木上原駅】
・代々木上原駅(小田急線)新宿から4駅:7分(急行・快速特急1駅:5分)
2021年:小田急線 乗降客数:207,581人/日(千代田線の乗換含む)
千代田線 乗降客数:215,269人/日
注意)
小田急線と千代田線は、上り・下りとも同じホームで乗り換えます。
両線とも小田急線と千代田線の乗換による乗降客数含むと思われます。
正確な実数は不明ですが、コロナ前には実際の代々木上原駅の改札を通
る乗降客数は40,000人前後と推測されていました。
笹塚駅から代々木上原駅は新宿から並行して走っていることもあり、2駅間は徒歩なら20分、車なら6~7分ほどの距離にあります。しかし駅前の様相は随分違います
【笹塚駅】
駅前の用途地域は、準工業地域・商業地域・近隣商業地域。コロナ前は8万人前後の乗降客がいた。近くに上場企業本社が3社あり、隣の幡ヶ谷駅にもテルモ(株)など大手上場企業がある。(笹塚駅―幡ヶ谷駅間は徒歩12分)
駅前は京王グループによる複合施設や京王モール、ショッピングセンターがあり、日中の交流人口が多く、甲州街道沿いなどに大手チェーンの飲食店が多い。
現在、駅北側の新宿中村屋工場跡地が「笹塚駅南口地区 地区計画」に基づき、三井不動産により再開発中であり、その先を北側に進むとは代々木上原に向かう住宅地があります。一方で笹塚駅南側は甲州街道を挟み十号通り商店街を抜けると中野区に向かう住宅地があります。上場企業の本社や背後の住宅エリアを考えると平日は通勤する会社員、平日は住民層の潜在顧客が見込めそうである。
交通アクセスは、京王線笹塚駅、都営新宿線始発駅。バス路線は、渋谷駅から中野駅、阿佐ヶ谷駅行のバスが頻繁に運行しており、途中バス停が笹塚駅周辺に複数ある他、渋谷区のハチ公バスが周辺に細かく停車するため、アクセスが良い。
注)笹塚駅は準工業地域ということもあり、かつては桜護謨や新宿中村屋の工場がありました。そのため、大きめの商業施設があります。
【代々木上原駅】
駅前の用地地域は、第一種低層住宅専用地域。駅ビルとしてアコルデ代々木上原があり、スーパー・飲食店・書店が入居する。駅前にチェーンの牛丼屋、ダイソー、駅近くに串カツ田中が1店舗ある他は、チェーン店はコンビニのみである。ミシュラン店舗/ビブグルマン店舗が点在し通好みの飲食店(個人店)が多く、目的性の高い飲食店が繁盛している。
周辺には複数の大使館や東京ジャーミー(イスラムモスク)、古賀政男音楽博物館などの宗教、文化施設があり日中の交流人口はさほど多くない。
交通アクセスは、小田急線・千代田線始発駅である。渋谷駅からのバスは大山町停車があるが本数は少なく、ハチ公バスが20分に1本駅前に停車するが、バス停は隣接する代々木八幡エリアに多く点在する。
*代々木上原駅から代々木八幡駅は徒歩8分/650m
両駅とも新宿駅から急行で1駅、電車で4,5分の距離の位置にあり、両駅間は徒歩20分程度ですが、駅前の様相は随分違います。自社が展開する業態にとってどちらが良いのか、現地視察やデータを元に検討し出店エリアを選定します。
設定した客単価3500円程度の大衆向け居酒屋業態の展開を目指すのであれば、笹塚駅の方が1次エリア内に174,310人の顧客人口が居住していること、上場企業があることからサラリーマンが需要に応えてくれそうです。また、笹塚駅の2キロ圏内には代田橋駅や方南町駅も入るため、バスアクセスでの顧客も拾えそうです。
上記のように出店を計画する場合、近隣商業地域かつ背後に住宅地が控えている商圏が良いと第一検討エリアにするのであれば、笹塚・幡ヶ谷・初台や中野エリアなどの近似の商圏の中で物件を探して行くとよいと思います。
数カ月経っても良い物件が見つからず、他の商圏に広げて探す場合も、駅前近隣商業地域から住宅地に続くエリアを探して行くと想定したような属性の方々(お客様)がいる傾向が強いです。
また、商圏調査では、商圏データの収集で終わらず、必ずターゲット商圏内を歩き、街を歩く人々の属性や競合店、ターゲット商圏で人気の飲食店はチェックします。
注1)笹塚駅のように乗降客数が6万人以上(コロナ前は8万人以上)の駅は
普通の住宅地ではなく、近隣に企業があることが多いため、周辺の企
業を調査します。
注2)TG(トラフィック・ジェネレーター)になるような大型施設が近隣に
近い未来できる予定がある場合は、チェックが必要です。例えば、駅
南口が商店街やSCがあり賑わっていても、北口にシネコン付きにの大
きなSCができる予定があると、人流が変化することがあります。
上記の視点から立地・商圏を比較した際に、多店舗化を目指した客単価3500円の居酒屋1号店を出店する場所としては、平日の会社員・休日の家族を取り込める笹塚駅の方が適している、と言えるでしょう。
また、代々木上原駅が目的性の高い飲食店が多いことから、交流人口や前面交通量に影響される店舗は笹塚駅の方が、出店場所として向いていると言えます。
前面交通量に影響される業態としてはファストフード店(ハンバーガー/牛丼/蕎麦屋)の他、アイスクリームショップやサンドイッチショップ(売店)などの比較的軽装備で出店でき、テイクアウト客を主力客とする業態にも適応します。
4:物件選定と調査
4-1:物件選定
出店場所を笹塚駅周辺に決めると、次は物件選定を行います。
物件は、駅前(駅近)路面店ビル、商業施設、駅前から離れた隠れ家的物件などがありますが、この事例の場合は、店舗事業の1号店という設定になっています。そのため視認性が重視され認知を上げられることを前提として考えます。商業施設は急な出店に対応できないため、ここでは、最も前面交通量が見込めるであろう、駅前飲食店ビルで検討します。
物件の場所を1Fにこだわるのか、2F以上の空中階でも出店可能か、階数の選定は投下資金に大きく影響します。
駅を基点とした人の流れを掴む通りに物件があり1F物件は家賃が高く手が出ない場合、専用階段のある2Fや地下物件も検討して行きます。
居酒屋業態でも、拘りのあるコンセプト型居酒屋(和食店)ならば大通り
から少し路地に入った1.5等や2等立地も合わせて検討できますが、今回は事例条件に添って、大衆的な居酒屋の店舗展開から視認性を優先します。
➡このあたりの物件取得の考え方はまた改めて別項で書いて行きます。
4-2:設備調査
仮に駅前の飲食ビルを検討する場合、その区画に営業上必要な電気・動力・水道・排水・ガス等の必要設備容量があるか、排気(ダクト)設備はあるか、看板は設置できるか看板の視認性は良いか、消防法上必要な2方向避難が取れているか、などの確認が必要です。
特に注意確認する3つの設備ポイントがあります。
a) 排気ダクトは臭いの問題で、近隣トラブルを避けるためにビルの屋上までダクトを上げることを求められることがあります。最初の調査段階でチェックしておきます。新規でダクトを屋上まで上げると工事費用が大きく跳ね上がります。
*炭火を使う業態は、一般ガスの排気量の3倍が必要なため業態よっては注
意が必要です。
b) 既存の電気容量が不足しビルのキュービクルに空きが無く、東京電力に 低圧内の申請可能な場合でも、配線工事が申請後に1.5カ月~2カ月近く掛かることもあります。
*キュービクルはビル専用の変電所、ビル全体の電気容量が500Aを超えると設置が必要。
c) ガスの容量の確認。ガスメーターの容量、区画内への配管状況によってガス会社に確認が必要です。
飲食店用物件を探す場合、前テントが飲食店でも業態が変われば、必要な設備容量が変わります。状況によって本管などの工事が必要な場合がありますので、確認をします。
開業までの空家賃がどの程度掛かるか、把握しておくことで総投資コストの管理や収支予測、予実管理が堅実にできます。
次回は契約条件交渉(経済条件)について書きます。
店舗開発のお仕事についてマガジンに纏めています。
独立前の3つのチェーンストア勤務時代の業務、独立後のスパイカ(株)の業務内容について記載しています。
店舗開発プロデューサーとして、新規店舗事業構築及び空きビル業態転換のプロジェクト管理をPM/CMを兼任しながら行っています。
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