Dancemania SPEEDの歴史18~SPEED G3~

Dancemania SPEED EVOLUTION "SPEED G3"
固まりの美学

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2004年6月23日発売


SPEED G2とサブシリーズSPEED TVを中継し、本編12作目となるSPEED G3。前回記述の通り、今作からDancemania曲リミックスはありません

空いた枠には3本柱……今回は特にLEDの曲が増え、SPEEDシリーズがDancemaniaメインシリーズの手を完全に離れて、その独自性を存分に発揮するようになります。

また今作は全体的にBPMが引き上げられ、本来BPM170前後でアレンジされた楽曲も軒並みBPM180前後にスピードアップしました。SPEED TVでHOT STUFFやI Fought The Lawを聴き込んでいた場合は、曲が忙しなく感じることもあるかもしれません。

ただこれがあるからこそIs Elvis Alive?やWhere Is The Loveなど後半の曲の加速度っぷりがより良く感じるような面もあるため、評価は難しい所です。


いつもと違い、今回はハードコア楽曲からご紹介。


02.Lovin' You / DJ Stompy
06.Tyme 2 / DJ Stompy & Abeyance(Time to Flyとも表記)
07.My Life / DJ Stompy & Abeyance(Odysseyとも表記)
21.Forbidden Fruit / Euphoria
22.Hardcore Overdoze / Euphoria
23.No Way Out / Euphoria
24.Blowin Up / Brisk & Ham
25.Realm of the XTC / VAGABOND
26.True Awareness / VAGABOND

序盤のStompy3曲は「SPEED G3と言えば」と投げかけ答えとして返ってくることも多いであろう、今作の代表曲筆頭です。


SPEED 2のComplete Loving以来のLovin' Youハピコアアレンジに加え



恍惚なスキャットと鋭いサウンドが混じり合うオンリーワンな一曲Tyme 2



ピアノの美しいメロディーが極上の多幸感を生み出すMy Life



有名曲アレンジLovin' Youはまだしも、後述する3本柱のカバーではなく、ガッツリとハードコアなTyme 2My Lifeがこんな早くに聴けるのは中々に謎です。

曲そのものはハピコア初心者でも印象に残りやすく、実際にStompy曲ではMy Lifeが初めて本編ベストHAPPY SPEEDに収録されたため、序盤に配置したこの采配自体は物凄く上手くハマっています。

Stompyが序盤に集中という意味でSPEED 9の「意外性」を思わせる構成で、筆者にもそのケがありますが定番から敢えてズラすようなトリッキーさが好きな人には堪らない曲順ではないかと。


後半にはNext Generationが6曲連続。この中でも今作SPEEDデビューとなったEuphoriaは別名義VAGABOND含め、なんといきなりの5曲提供

その名の通りオーバードーズするかのような激しいサウンドが至高の一品Hardcore Overdoze


Brisk & Ham、ベテラン2人のベテランたる力量を示すトランスコアBlowin Up


雄大なメロディーの中にもの悲しげな雰囲気を秘めた妖艶なトラックTrue Awareness



間にBrisk & Hamを挟みつつ、Euphoriaは上記の曲やForbidden FruitNo Way OutRealm of the XTCなど、新人とは思えない完成された世界観で一気にファンを増やしました。


海外レーベルは今作SAIFAMから。

03.What's Up(Menthal Kids Remix) / DJ MIKO
04.I Was Born To Love You(DJ Speedo & Alvin Rmx) / DJ SPEEDO feat.Alvin
05.Me Against The Music / SPEEDMASTER feat.Helen
15.Bad Boys Reply(95) / TOMMY B.
20.HOT STUFF / DJ SPEEDO feat.DJ MIKO(SPEED TVからの移植)
27.Pippi Girl(Speedooo) / Jenny Rom
29.Where Is The Love / BEAT BOX feat.DJ SPEEDO
30.Kiss Kiss / Hanna


今作も信頼の大量提供、この中では(元々別部署のJenny Romは置いといて)3曲目What's Upは珍しくSpeed Records楽曲ではありません。

DJ MIKOのいわゆる「What's Upのカバー」は、過去SPEED 3でGrandaleリミックスされたWhat's Up 2000の方がメジャーです。今回「2000」の付かないアレンジ元が時を越えてSPEEDに収録されたのですが、どういったわけか世界的にまだ知られていなかったMAKINAでリミックスされました。


MAKINAはスペイン生まれの音楽ジャンルで、シンプルかつ哀愁感のあるサウンドが特徴です。(MAKINAとして正しいかはこの際置いといて)音ゲーマーにはSigSigのジャンルでも有名でしょう。

しかしMAKINAが全く浸透していない2004年当時、特に派手な曲が多い今作ではシンプルな音使いの受けが悪く、賛否両論の否が多い感想が目立ってしまいました。(ブックレットのクレジットが正しければ99年には存在したアレンジなので、その場合は音使いがシンプルでしょうがない部分も)

MAKINAを意識して聴けば上手くアレンジされていて悪くないのですが、先見の明過ぎたというか、後期SPEEDシリーズの空気感ではなかった……というのが大多数の正直な感想でしょうか。


同じく再アレンジなのが4曲目のI Was Born To Love You。筆者はSPEED TVのRAFFAバージョンは歌い方があまりしっくり来ず、今回のアレンジの方が好みです。ただ筆者と逆にRAFFAバージョンの方が良かったという人も多くいましたし、そうなると「なんで2バージョン作ったの?」という疑問に帰結します。

SAIFAM側が気まぐれで新アレンジしたのか、それともEMIが何らかの事情で新アレンジを要請したのか、今となっては真相を確かめる術はありません。



後半3曲はBPMの上がり具合もあってか、どれも相当なボルテージの高まりようです。

True Awarenessの妖艶さを激ノリのポップさで吹っ飛ばすPippi Girlも中々の出来ですし、Black Eyed Peasの原曲をG2のA Thousand Miles並の爽やか高速チューンに仕上げたWhere Is The Loveもお見事な一曲。

そしてKiss Kissはかなり重めのキックとBPM204という速さで、ラストナンバーらしく闇の彼方へ駆け抜けていくようなアレンジへと大化けしました。



続いてはRunaway

08.Peter Gun's Theme / CJ CREW feat.Duane Bucknall
09.I Fought The Law / Nancy and the Boys(SPEED TVからの移植)
16.Baby Boy / Nancy and the Boys
17.You Don't Know My Name / Nancy and the Boys
18.Black Night / CJ CREW
19.LA BAMBA / CJ CREW

18、19曲目のBlack NightLA BAMBAは確実にSPEED TVからの選出漏れでしょう。20代以上の人なら、どちらも飲料系のCMに使われていたのを覚えていることと思います。

アレンジの方向性は無難な系統ですが「これ聴いたことあるな」度の高さはかなりのものなので、この2曲がSPEED TVに入っていても面白かったかもしれません。


逆にNancy and the Boys名義のBaby BoyYou Don't Know My Nameは、Runaway得意の高速歌詞スピードダンスへと大変身。こちらはこちらでビヨンセやアリシア・キーズの原曲を大胆に再解釈する、SPEEDアレンジの醍醐味を思う存分楽しめます。



ピーター・ガンのテーマはドラマだけでなく飲料や車のCMにも使われ、後にこのアレンジがSPEED 刑事に収録されます。また過去には日テレの人気番組「秘密のケンミンSHOW」の提供ベース画面で、毎週必ずこのアレンジが流れたりもしていました。番組リニューアルに伴って曲も変更となってしまいましたが、人気番組で長年使われたアレンジということで、SPEEDを全く知らない方でも聴けばピンと来るかもしれません。

ちなみに本当に関係ない話で恐縮ですが、ケンミンSHOWは実はBGMにかなり小ネタを仕込むことでも有名な番組だったりします。野沢菜のVTRで流れるのがROSANNAだったり、メロンのVTRで流れるのがHave You Never Been Mellowだったり……洋楽に詳しい人は、曲とシチュエーションとの関連性を見つけるクイズ番組のように見ても楽しめると思います。


最後は過去最多7曲提供となったLED

01.Amazing Grace / Speed All Stars
10.Saturday Night / JOHN DESIRE
11.Hello, Dolly! / THE FALCO
12.The Hustle / Hardcore Synth Orchestra
13.I've Never Been To Me / ROSE
14.You Can't Hurry Love / JUDY CRYSTAL
28.Is Elvis Alive? / Billy Idiot


Amazing GraceはLEDで本編唯一のオープニングナンバー(サブシリーズにLast Christmasがありましたが、本編シリーズでとなると当曲のみ)。

そんな大役を任された、黒人霊歌の名曲のユーロビートアレンジAmazing Grace。その純真なまでに「陽」に振り切った曲調は、LEDらしさの具現化というか「SPEEDアレンジってのはこういうことだ」と主張するような、一種の清々しさすら感じる仕上がりです。



それ以外はSPEED TVからの選出漏れかもしれない、有名洋楽曲のカバーが主で、Saturday Night愛はかげろうのように恋はあせらずの3曲が個人的にはお気に入りです。

LEDはAmazing Graceに代表される「いっそリフが主役」と言わんばかりの派手なアレンジが多いのですが、そんな中Saturday Nightはサビのバックでシンセが暴れつつ間奏リフが結構控えめな、かなりユニークなアレンジになっています。原曲のハツラツとした魅力も活かされ、聴いていると自然と元気が湧いてくることでしょう。



愛はかげろうのようには逆にシンセの主張が激しいLEDらしさ全開のアレンジなものの、原曲の一級品なメロディーとドラマティックなシンセリフとの相性が抜群で、SPEEDアレンジされて尚、バラードの如くうっとりと聴き入ってしまえます。



恋はあせらずはLEDで初めて原曲より遅いタイプの曲になりました。個人的にスプリームス原曲のメロディーが好き過ぎるため、そのメロディーをLED風味で味付け、きっちりとなぞってくれた時点で筆者としては大満足。オリジナルのリフも入らずユーロビート慣れしていない人にも優しいので、LEDの中では初心者向けのアレンジではないでしょうか。



そして28曲目にお目見えするIs Elvis Alive?「"破茶滅茶"という概念を曲にしたらこうなった」かのような、文字通りの破茶滅茶っぷりがもはや笑えてくる一曲。先に述べた「リフが主役」なド派手なシンセリフをBPM195という速さでブチ込んでくるのですから、これで笑うなという方が無理な話です(筆者は初聴で手叩いて爆笑しました)。終盤でこれだけのインパクトを残せればもうその時点で勝ちみたいなものでしょう。


Amazing Graceで始まり、中盤で数々のアレンジを披露し、ラスト手前のIs Elvis Alive?で特大の爆弾を落とす。こうして見ると、今作はLEDのためにあるアルバムだったかのような気すらしてしまいます。













……と、ここまである程度普通の紹介文を書いてきました。

しかし、ここからは今作のマイナス面について言及しなければなりません。


上述のように、それぞれの曲にきちんと独自性や個性がある……はずなのに、今作は全体通して妙に「あっさり」というか、アルバムとして「うすぼんやり」な印象に感じる人が多いような気がします。

実際HAPPY SPEEDにはAmazing GraceとMy Lifeの2曲しか収録されておらず、リスナー的にもEMI的にも、後期の中では優先度の低いアルバムだと認識されやすいようです。


ここからは筆者独自の見解のため賛同されない方もいるかもしれませんが、今作がそういった評価になっている最大の要因はアルバム構成にあるのではないか……と考えています。


序盤はStompy曲を混ぜる采配で、終盤はSAIFAMのアレンジの幅広さもあって、それぞれかなりバラエティ豊かで楽しく聴けるのですが、一方で10曲目以降から終盤にかけての構成が「色んな固まり」としか言い様がない配置図に。

Saturday Nightから始まって恋はあせらずまでLED5曲連続

Bad Boys Replyを挟んで、Baby BoyからLA BAMBAまでRunaway4曲連続

HOT STUFFを挟んで、Next Generationが6曲連続……。

LEDゾーンRunawayゾーンハードコアゾーンと、SAIFAMをつなぎに完全にセクションで区切られてしまっています。


SPEED 10でBrisk4曲連続、SPEED 8でハードコア8曲連続と、偏った配置自体は過去にもありました。しかしここまでジャンルごと、レーベルごとに固まって配置されているのは流石に今作だけです。

同じタイプの曲が連続で流れるとなると、実際各曲の印象がうすぼんやりしてしまうこともあるかもしれません。そういう意味では、LED曲はアクセントのように全体に散らばっていた方が各々の派手さが際立ったでしょうし、Euphoria(=VAGABOND)も中盤に数曲配置した方が5曲とも更に覚えてもらいやすかったと思います。

(筆者の経験談としてはHello, Dolly!The Hustleは最初曲が変わったことに気付きませんでした)

例えるなら「美味しいとんこつラーメン屋」が1軒だけあればその店の名前や特徴まで覚えてもらえるところを、5軒並んでいたら5軒全部美味しくとも「とんこつラーメン屋地帯」として十把一絡げに認識されてしまうような、そういう状態です。

新規リミックスが無くなったこと含め、KCP側に何らかの事情や意図があったのかもしれませんが、これでは曲の個性が薄まってしまうのも致し方ありません。


レーベルごとに一纏めにする今作の構成……この謎のこだわりのような、言い換えれば「固まりの美学」が、良くも悪くもSPEED G3という作品の個性となりました。賛否両論ある構成の否の見解のみ紹介してしまいましたが、この偏りを賛とする人ももちろんいるでしょう。

序盤はMAKINAやStompy曲による尖った構成を楽しみ
中盤はレーベルごとのサウンドの違いをより深く聴き分け
終盤ははっちゃけたノリで最後まで突っ走る
そんな楽しみ方も出来ます。

セクションごとに区切られたメリットよりもデメリットの方が一見すると大きく、それによって今作はアルバム全体が「うすぼんやり」してしまった可能性が高いでしょう。しかし一曲一曲をちゃんと聴き込めるだけの熱意があれば、そこから各曲の素晴らしさに気付けるはずです。

それを踏まえた上で、
筆者としての今作の感想は以下の一文に集約されます。


「もっと散らしてくれていれば……」

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