Dancemania SPEEDの歴史12~SPEED 10~
Dancemania SPEED 10
一つの到達点
2002年12月18日発売
とうとうここまで来たかと感慨深い10作目。
今作発売後にSPEEDシリーズ2度目のリスナーリクエスト投票が行われ、半年後に2枚目のベストアルバムSPEED Gが発売されることになります。
今作は、同じくベスト盤前に発売されたSPEED 5と同様、同時期の作品の中でも並外れた完成度の高さが目を見張ります。今作をSPEEDシリーズ最高傑作に挙げる人も多く、アルバムテーマというか、もはやこのアルバムそのものがある意味で「集大成」のようなものです。
収録されたリミックス・カバー・ハピコア全てがハイレベルで多種多彩な曲が揃っており、SPEEDリスナーのあらゆる需要に応える一枚に。SPEED 5がコミカルなハピコアも多くバラエティ豊かな集大成作品だったとすれば、SPEED 10は高水準楽曲だらけの全方向隙の無い集大成作品ではないでしょうか。
それでは早速新規リミックスから。
05.GIVE IT UP(Grandale Mix) / CAPTAIN JACK
07.MAS QUE NADA(KCP Remix) / X-TREME
08.I Do I Do I Do(KCP Remix) / CREAMY
25.L.O.V.E(Sex On The Beach) (Lution Remix) / E-ROTIC
30.CANDY☆(Planet Remix) / Luv UNLIMITED
KCPメンバーのみのためか中期では最少の5曲。しかし各々に持ち味があるため、少数精鋭と呼んで差し支えないでしょう。
GIVE IT UPはSPEED 2以来となる、CAPTAIN JACKとK.O.G森田氏の組み合わせ。CAPTAIN JACK(Grandale Mix)に負けないだけのパワフルさで「SPEEDはやっぱりこうじゃないと」と初期を思い起こさせる、粋なリミックスです。
MAS QUE NADAは前作Soul Bossa Novaと同じく、Dancemania SPORTSのX-TREMEアレンジが原曲。またも新ジャンル「スピードボサノヴァダンス」と表現したくなる斬新な曲調が、不思議な横ノリ感を体験させてくれます。
それに続くは、ぐるナイEDやDDR EXT収録でも有名だったI Do I Do I Doのリミックス。SPEED Gで7位と上位ランクインを果たしますが、「華」のある原曲のキャッチーさは語るまでもなく、それをスピードアレンジするのですから当然人気も出ようというものでしょう。
Dancemania DELUXにも収録されたE-ROTICの代表曲L.O.V.Eもリミックス枠に選出され、原曲リフを使いつつ浮遊感あるシンセのスペーシーなリミックスで、ガラリと印象が変わる一曲になりました。
そしてラストナンバーでNAOKI曲リミックスのCANDY☆。原曲がそもそもBPM192のハッピーハードコアなのでどうなるのかと思いきや、BPM199のさらなる高速チューンに進化しました。
元々NAOKIの万人受けな作風が活きる(何なら筆者もNAOKI曲の中でトップクラスに好きな)普遍的な曲なので、その人気も推して知るべしと言うべきか。SPEED Gではリクエスト4位とトップ層にランクインし、更には後期ベストHAPPY SPEEDのラストナンバーも後々勤め上げる等、大車輪の活躍をすることになります。
CANDY☆(原曲)
続いては海外レーベル。
今作はやはりRunawayから紹介しなければなりません。
01.Complicated / Nancy and the Boys
02.A Little Less Conversation / CJ CREW feat.EL FEZ
03.Wild Child / CJ CREW feat.UPIA
11.Get The Party Started / Nancy and the Boys
15.Everyday / WINE feat.Micky Luv
何をおいてもSPEED Gリクエスト1位の大記録を打ち立てたComplicatedでしょう。アヴリルのローテンポな原曲が鮮烈なスピードダンスにアレンジされ、ボーカルは言葉の波に襲いかかられそうな高速歌詞に、そしてロックな原曲を意識してかギターまで入る……まるでRunawayの全ての要素が凝縮されたかのような圧倒的クオリティ。この曲がオープニングトラックを担う時点で、今作への期待値がマックスになるのは言うまでもありません。
Complicated(原曲)
それに続くA Little Less ConversationとWild Childも「意外性」のある選曲ながらアッパレなアレンジに。プレスリーとエンヤ(とアヴリル)という普通ではあり得ない並びも、Runawayにかかれば同じ土俵の上。どちらも原曲らしさを保ったままスピードダンスとして生まれ変わり、Complicatedの勢いを殺さずそのまま突き進みます。
P!NKのカバーGet The Party StartedとBON JOVIのカバーEverydayは、原曲を知っていれば何なら聴かずとも「わかってるよ、良曲だよ」と言い切れる盤石の組み合わせでしょう。当然その予想は裏切られず、こちらの予想するアレンジをこちらが予想した以上の品質でお届けしてくれました。
Everyday(原曲)
続いては今作前に発売のサブシリーズclassical SPEEDから、移植曲で参加のLED。1曲だけですがその1曲が「濃厚」すぎるため強く印象に残ります。
27.Carmen Prelude / Violent String Ensamble
「カルメン」の名は知らずとも、メロディーを聴けば一発でわかる偉大なクラシックを、LED十八番の濃厚ユーロビートでアレンジ。キンキンのサウンドがこれでもかと押し寄せる猛烈なアレンジのお陰で、終盤のテンションを途切れさせません。
三本柱の残り一柱に移る前に、今作の問題児も紹介しておきます。
26.GET UP'N MOVE(Speed Mix) / S&K
Dancemania BASSシリーズのベスト盤でリクエスト1位、DDRにも2バージョン収録されたそんなDancemaniaを代表する名曲が、驚愕のアレンジでSPEEDシリーズに収録されました。重低音のアダルティーな雰囲気とカッコいいラップが魅力的だった原曲を、作曲者自身がセルフアレンジしたわけですが、その結果前述の魅力をほぼ全て捨てる暴挙のようなリミックスが生まれることに。
ボーカルは高音に、サウンドはお祭り騒ぎのような快活さに……原曲に思い入れの強い人が聴けば怒り心頭な可能性すらあるリミックスですが、個人的にはもうここまで突き抜けてくれると笑えるので結構好きです。自身のヒット曲をSPEEDシリーズで培ったエレクトロサウンドでアレンジ……という背景を考えると、この曲もまたS&Kにとっての「集大成」なのかもしれません。
GET UP'N MOVE(原曲)
そして今作を「集大成」たらしめる、SAIFAMの傑出した70's&80'sソングアレンジ(とジェニーロムと剣の舞)です。
04.Private Eyes / TOMMY B.
06.RELAX / SPEEDMASTER
09.IKA UKA(E=MC2 Mix) / Jenny Rom
16.Heaven Is A Place On Earth / WILDSIDE
17.Joy To The World / Orlando
18.Sabre Dance / Blue Venice
24.SEPTEMBER / DJ SPEEDO
classical SPEEDの移植曲Sabre Dance(剣の舞)含め、過去最多7曲提供。
その剣の舞は原曲が破茶滅茶過ぎるが故か、ユーロダンスの割と「あっさり」した曲に。Doesn’t Really Matterなどボーカルテンポを落とす手法はSAIFAMでもよく見られますが、今回は「そもそも原曲より遅い」逆転現象が起きる稀有なアレンジとなりました。高BPMなので勢いはそのままですが。
Jenny Romは前作SENORITAから戻っていつもの路線に。今作IKA UKAは持ち味であるキャッチーさがポップスのレベルを超え、もはや童謡のようなキッズソングレベルの大衆性にまで到達しています。
タイトルを掛け声のように歌い上げるサビは完全に「おかあさんといっしょ」状態。何なら曲全体がその雰囲気を醸し出しまくりで、これを日本語で歌うと冗談でなくおかあさんといっしょの曲として通用してしまうのでは。
IKA UKA(キッズソング度がより高い原曲)
剣の舞、IKA UKA以外の5曲は全て70、80年代の有名洋楽曲のカバーアレンジで、どの曲もCMやドラマ等でよく使われ、タイトルを知らなくても聴けば「ああ、あの曲か」と気付けるレベルの名曲たち。それらに対してのSAIFAMのアレンジアプローチは、今までSPEEDシリーズに収録されたSpeed Records曲の正に「集大成」と言うべき完璧さです。
Private EyesはソニーのデジカメのCM曲としてもお馴染みでした。SAIFAMアレンジによって渋いギターリフをクールなシンセリフにチェンジし、趣あるロックから今風の爽やかなダンストラックへ華麗に転身してみせました。
RELAXはココリコミラクルタイプのOPやヤクルトのCMで覚えている人も多い一曲。静かに盛り上がる原曲をどう調理するか想像もつきませんでしたが、ボーカルのイメージはそのままにバッキバキのサウンドで疾走感を演出し、こちらの想像の先を行くドラスティックなアレンジを作り上げてしまいました。
Heaven Is A Place On Earthは車のCMやニュース番組で使われた曲ですが、個人的にSAIFAMのこのアレンジには感動すら覚えます。シンセリフの高揚感や原曲にも負けないボーカルの歌声、そしてフルバージョンですら時間が短く思えるほどのドライヴ感。SPEED Gリクエスト6位となるのも納得の、SAIFAMアレンジの一つの「集大成」がここにあります。
Joy To The Worldは当時の月9ドラマの主題歌で広く知られていました。太い音が絡みあうシンセやノリノリなサビの盛り上がりもあって、このアレンジの気持ち良さは一緒に歌いたくなるほど。リフはオリジナルなのにAメロ前にちゃんと原曲のフレーズを使う心憎い演出も素敵です。
SEPTEMBERはEarth, Wind & Fireが誇るディスコの名曲ですが、このアレンジもまたSAIFAMらしさ全開。スピードテクノポップとして完成されたサウンドはこの速さを心地良く思わせ、また何度聴いてもその度に新鮮な気持ちで楽しめる底知れなさすら秘めています。"好み"で言えばこの曲以外にも好きな曲はたくさんありますが、もし「SAIFAM曲の中で最も”優れた”アレンジは何か」という問いがあるとすれば、私はSEPTEMBERだと答えます。
ハピコアの布陣も「集大成」と呼ぶに相応しい豪華さ。
Follow The Sun等から連綿と紡がれてきた多幸感溢れるハピコア
Vortexに始まりSPEEDシリーズでもムーブメントの起きたトランスコア
Deliriousの衝撃冷めやらぬ内に新たに作られるニュースタイルガバ
そしてムーブメントの先の新たな「未来」を思わせる曲まで
上記全ての要素が複合され、SPEEDシリーズの歴史を辿るかのように様々なハードコア楽曲に触れられる選手層の厚さが非常に魅力的です。
いわゆる「ハピコア」系統の楽曲はこちら。
10.Champagne Supernova / Sound Assassins
12.SWEET / DJ EVIL
23.Here To Stay / DJ Stompy(Blue Sky Dayとも表記)
28.Feel The Beat / DJ Kambel vs MC MAGIKA
OASISのヒット曲の上質なハピコアアレンジChampagne Supernovaや、昔ながらのハピコアテイストがStompyらしいHere To Stayもありますが、注目したいのは残りの2曲。
SWEETは日本を代表するハードコアDJ EVIL氏の楽曲。EVIL氏はKniteforce RecordsというLuna-Cが立ち上げた海外レーベルに所属する、日本ハードコア史にその名を刻む偉大なDJです。SPEEDシリーズにおいてはRAVERSシリーズのDJ Mixを担当した他、UPHORIA名義で各アルバムのライナーノーツ(楽曲紹介)執筆活動も行っておりました。
そんなEVIL氏の当曲は、美しいピアノの旋律がトレードマークのまさに「HAPPY」なHARDCORE。自身が執筆するライナーノーツでは謙遜か照れ隠しか他と比べて大分あっさりした紹介文でしたが、他の海外ハードコアと比べても全く遜色ないクオリティで、SPEED 10の完成度の高さに一役買っています。
Feel The Beatは随所でKambelらしい激しい音使いを見せる一曲。MAGIKAの優しい歌声とうねり続けるハードなサウンドのコンビネーションがエクスタシー感を増幅してくれます。
トランスコア系統の楽曲はこちら。
13.Fly With You / DJ FADE
22.Want Your Love / Brisk & FADE
29.BRAINSTORM / DJ Kambel vs MC MAGIKA
Vortexを送り出した稀代のプロデューサーFADEによる最新トランスコアFly With You
そのFADEとカリスマDJ Briskとの鉄板のコラボレーションWant Your Love
スペーシーなKambelサウンドを思う存分堪能できるBRAINSTORM
特にFly With Youの完成度が凄まじく、聴いているだけで「アンセムのオーラ」を耳で感じ取れる気がしてしまう程。高揚感や多幸感を超えていっそ恐怖すら覚えるレベルの仕上がりっぷりです。
Want Your Love(とリミックスのEye Opener)含め、Briskは今作5曲収録と縦横無尽の大活躍。SPEED 1から皆勤賞、毎作上質なハードコア楽曲が収録され、そして2019年現在でも第一線で活躍……そんなレジェンドDJの当時の仕事っぷりを拝めるという意味でも今作は必聴です。
BRAINSTORMは普段のKambel以上に甘美でファンタジックなトランスコアに。BPMも190付近なため、恐らくCANDY☆が無ければいつもどおりラストナンバーを飾っていたことでしょう。
そして「革新性」と「未来」を感じられるこれらの曲。
14.Eye Opener(Scott Brown's Earcloser Remix) / Brisk & Trixxy
19.DROPTOP / Double Dutch
20.HEAVEN(Here Come the Noize) / Double Dutch
21.Radio Rockin' / Brisk & FADE
SPEED 1のアンセムが時を越え、Scott Brownの手によって先鋭的なNU-STYLE GABBAとして蘇ったのがEye Opener。リミックス前の苛烈なシンセの代わりに曲全体に重くのしかかるダークなサウンドで、Scott Brown流ニュースタイルガバをこれでもかとリスナーに見せつけます。
Briskが手がけた残りの3曲は、当時の分類上はトランスコアにあたるものです……が、今こうして聴くとそのトランスコアの発展形「FREEFORM」や「HARD NRG」に片足(全身?)突っ込んでいるような曲調です。
Radio Rockin'が特に顕著ですが、3曲とも音の厚さや硬さが、Vortexから続くトランスコアの系譜とは明らかに異なります。
あっさりめの剣の舞から切り替わるやいなや濃厚すぎるハードなシンセがリスナーに襲いかかるDROPTOP、ブライアン・アダムスの名曲をバンギンサウンドで最高のハードコアトラックへと変えたHEAVENも含め、トランスコアからの進化……現在のUK HARDCOREへと続く「未来」をも感じさせてくれるアンセムたちです。
と、言うわけで、SPEED 5同様全曲を書き出し……そして今回は全曲紹介することになりました。他と比べてもかなり贔屓目入った紹介となってしまいましたが、それも已む無しのアンセムだらけなアルバムであることは間違いありません。
個々人の曲の好みはあるかと思いますが、SPEEDリスナーで今作を下の方に評価する人はまず居ないのではないでしょうか。中期の「集大成」たる作品として、またSPEEDシリーズでもトップレベルの完成度を誇るアルバムとして、自信を持って人に勧められる一枚です。