Dancemania SPEEDの歴史8~SPEED 6~

Dancemania SPEED 6
あっさりなのに後引くおいしさ

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2001年3月16日発売

BEST 2001(とHAPPY RAVERS)を経て、心機一転となる6作目。

心機一転感を出したかったのかジャケットがいきなりアニメ調になりました……が、不評だったのでしょう。次作SPEED 7ですぐ元に戻りました。


今作の特徴を一言で表すと「あっさり」に尽きます。

ブンブンダラーやトワイライトゾーンのような攻撃的なアレンジはほとんど無く、ハピコア方面でもEye OpenerやNow Is The Timeのような激しいサウンドの曲はほぼありません。

いわゆる攻撃的な激しい曲となるとキャンストリミックスLET ME PLAYBLUE FEVERくらいのもので(BPMが速い時点で十分激しいという意見もありそうですが)基本的にはどれも、曲調が暗めでもサウンドの面では大分あっさりしています。「ボーカル曲が多い」のも特徴ではあるのですが、今作最大の売りはとにかくその軽さにあります。

軽い、あっさりとは言っても音がペラいとかそういうことではなく、ユーロポップ調の気軽に聴ける曲が多いことが要因で、そのお陰か、ふとした時にサッと聴いて楽しめる一枚でもあります。ひょっとすればKCPは当時のパラパラブームに乗って(ジャケット含め)緩いユーロポップスのギャル向け路線を模索していたのかもしれません。
(流石にそこは筆者のわかり得る所では無いので、完全なる憶測ですが)

ジャケットの件も合わせ、前述のようにシリーズ中でもかなり異色の一枚ではありますが、BEST 2001の次に手にしたCDということもあって、個人的には特に思い入れの強いアルバムです


まずは新規リミックス7曲から。

01.Dancing All Alone(Kimono Grandale Mix) / SMILE.dk
03.Oh Nick Please Not So Quick(Momo Mix) / E-ROTIC
05.Can't Stop Fallin' In Love(Ventura Hyper Mix) / NAOKI
06.LUPIN THE 3RD '78(Speed K Mix) / Ventura
07.Get Ready For This(KCP Mix) / 2 Unlimited
16.MY GENERATION(Speed Pich Mix) / CAPTAIN JACK
23.WITCH DOCTOR(Hyper KCP Mix) / Cartoons

BEST 2001から引き続きVenturaが参戦。NAOKI初のPaula Terryボーカル曲Can't Stop Fallin' In Loveと、日本人なら知らない人はいないであろう超有名曲ルパン三世のテーマのリミックスを担当しました。

自分語りになってしまいますが、当時小学生だった筆者はルパン三世のテーマのリミックスでとてつもない衝撃を受けまして……初めてこのアルバムを聴いたCDショップの試聴コーナーで、ルパン三世のテーマだけアホみたいに何十回もリピートしていた記憶があります。

「知ってるあの曲がこんなノリノリに!?」なSPEEDアレンジはもちろん、特に中盤の、Ventura特有のオケヒを使ったオリジナルパートのハーモニーが物凄く心地良く、未だに「自分の中で一番気持ちいいサウンド」の座を保ち続けている程です。(※自分語りここまで)


キャンストはいつものVenturaリミックスとは少し違う方向性の、アグレッシブかつ独特なサウンドによるリミックスで、収録されたDDR 5thでもトップ層の人気を得ていました。このCDでは珍しい攻撃的なアレンジな分、サビの盛り上がりも原曲以上です。


KCPリミックスも今まで通り安定したクオリティ。今回取り上げたいのはDancing All AloneOh Nick Please Not So Quickの2曲。

Dancing All Aloneは原曲ではなく「Kimono Mix」という、歌詞の一部が変わっている(だけの)アレンジを基にリミックスされていまして、その歌詞にあわせて、SPEEDシリーズでは異色の和風リミックスになっています。「Kimono」から発想して琴や拍子木や鼓を鳴らしてしまうK.O.G森田氏の唯一無二のアレンジアイデアには脱帽するしかありません。

Oh Nick~MOMO金沢氏による、前作ブロンドガールとはまた違う方向性のユーロポップなリミックスに。前述の「軽さ」を体現するようなすっきりとしたシンセリフは、原曲とはまた別の魅力を発見させてくれます。


Dancing All Alone、Oh Nick Please Not So Quick(原曲)


次は海外レーベル曲の紹介ですが、今作から「LED」というイタリアのレーベルが新規参加します。beatmaniaIIDXの不沈艦のことではありません)

音楽プロデューサーLuigi Stanga氏を中心としたユーロビート制作チームLEDは、Dancemaniaにおいては既にユーロビートコンピ「HAPPY PARADISE」等で人気曲を多数提供しており、今回満を持してのSPEEDシリーズ初参加に。

SAIFAM、RunawayとあわせSPEED中期~後期を支えた「三本柱」が、今作で遂に揃い踏みいたしました。

そんなLEDは、

02.Jumping To Heaven / JUDY CRYSTAL
21.SHA LA LA / Maria Short

の2曲を提供。

Jumping To Heavenは、LEDの歌姫JUDY CRYSTALのSPEEDデビュー曲。
実はこの曲、SPEED本編シリーズ中「アルバム2曲目で唯一の完全オリジナル曲」という変わった特徴を持っています。

SPEED本編シリーズにおいては、オープニングトラックはもちろん始まって3曲目くらいまでは、ダンスマニア曲リミックスや有名曲のカバーなど、全て「見知った曲」で構成されているのが普通です。そんな中でこの曲(とG5の3曲目)は、完全オリジナル曲なのにこの好位置に配置されているのです。

とても明るくポップなユーロビートなので、Dancing All Aloneからバトンを引き継いでスタートダッシュの役割は果たせますし、実際に聴けばこれだけの好位置にあることも納得は出来るでしょう。しかしこうして改めて分析すると、中々に大役を任されたオリジナル曲であることがわかります。

SHA LA LAも同じく明るいユーロビートで、跳ねるようなシンセリフが楽しいLEDらしい一曲。コード進行がどこか懐かしく、聴いているとノスタルジーな気分に浸れるかもしれません。


Jumping To Heaven


SAIFAM

14.HYMN / DJ JAXX
18.HIGHWAY STAR / SPEEDMASTER
29.Hanky Panky(E=MC2 Mix) / Jenny Rom

今作こちらの3曲を提供。特に意味はありませんが全部頭文字「H」です。

泣きメロ系ロックにファンタジックなハピコア調でアプローチしたHYMN、原曲の力強さを4つ打ちダンスアレンジでも再現してみせたHIGHWAY STARもさることながら、ジェニロム節前回なHanky Pankyのキャッチーさが突出しています。

実はこのハンキーパンキーは「原曲をほぼそのまま速くしただけ」なリミックス。原曲はDancemania未収録なので当時のリスナーに知りえない事実ではありましたが、とは言えこのシンセリフを変えてしまうとこの曲の優しく可愛らしい雰囲気もガラリと変わってしまうため、そのまま速くしたこのアレンジはむしろ英断だったのではないかと。


Hanky Panky(原曲)


3本柱残りのRunawayが提供したのは、この4曲。

04.I Want It That Way / CJ CREW feat.FELLANY
17.Larger Than Life / CJ CREW feat.FELLANY
19.Up To Eleven / CJ CREW feat.XOTIC
22.MUSIC / Nancy and the Boys

バックストリート・ボーイズとマドンナの当時の大ヒット曲を違和感無くSPEEDアレンジし、I Want It That Wayはそのアレンジの自然さと甘い男性ボーカルという独自性もあり、中期ベストSPEED Gでもリクエスト11位を記録しました。


I Want It That Way(原曲)


今作で言えばUp To Eleven以外の3曲が特にそうなのですが、Runawayは選曲傾向としてR&B等の低速曲を特に好んでアレンジしています。

もちろんDancemania(というか製作元の東芝EMI)から曲の注文やオファーもあったかとは思われますが、LEDのようにガッツリとユーロビートなわけでなく、SAIFAMのようにユーロポップ・ダンスポップ調とも言い切れない、ロックテイスト混じりの独特なカバーアレンジは、正にRunawayだけが持つ低速曲への特性……ジャンルとして掲げるならば「SPEED DANCE」「SPEED ROCK DANCE」な作風・個性と言えるのではないでしょうか。

ちなみに除外したUp To ElevenはCJ CREW名義には珍しく、リミックス元がすぐにはわからない尖ったアレンジに。ギターリフがエアロスミスのWalk This Wayに似ているのでこれが原曲と思われますが、作曲クレジットにタイラー他の名は記載されていないなど、とにかく謎の多い曲です。


また海外レーベルで言えば、DDRでもお馴染みだった「GET UP'N MOVE」S&Kがオリジナル曲で初提供しました。

24.Sound Of The Nations / S&K


バグパイプをフィーチャーした、中々に陽気で面白いトラックです。
今作では使用していませんが、S&Kはファミコンのピコピコ音のような独特なサウンドを持ち味に、この後もSPEED 10まで皆勤賞を続けます。


最後にハピコア楽曲。
……ですが、今までと比べると、今作ハピコア方面はちょっと弱めです。

12.Your Dreams / DJ Stompy(※This Is The Nightとも表記)
13.Eternity / Triple J
25.Wanting to get high(DJ Storm's Dancemania Mix) / Hixxy & Sharkey
27.LET ME PLAY / Hyperaktive
28.Flower Needs The Rain / Stealth
30.BLUE FEVER / DJ Kambel VS MC MAGIKA

この内LET ME PLAYとFlower Needs The Rainは「HAPPY RAVERS」からの移植曲。サブシリーズから本編への移植は今回が初ですが、この後もTRANCE RAVERSclassical SPEEDなど、本編シリーズへの積極的な移植がSPEED G5まで続きます。


次作から本格的にムーブメントが起こるTRANCECOREの前哨とも言えるYour Dreams


Follow The SunやHere I Amと違い哀愁感に振り切れた泣けるハピコアEternity


ハードな原曲を今作の雰囲気にぴったりの繊細なアレンジに変えたWanting to get high(こちらはそのハードな原曲


刺々しいシンセが今作ではより一層際立つ、Briskの変名義曲LET ME PLAY


高速ラップのようなボーカルが心地良い「陽」のStealth曲Flower Needs The Rain


それまでの空気を一変させるどシリアスな高速ラストナンバーBLUE FEVER


以上含め名曲自体は他にもあるものの、その後の本編の「流行の中心に存在したアンセム」「SPEEDシリーズの新ジャンルを切り開いた曲」レベルのものはありません。BEST OF HARDCOREに今作から一曲も収録されていないという悲しい事実もそれを裏付けています。

……とは言え、BLUE FEVERはSPEED Gに収録されましたし、どアンセムが無いということは、裏を返せば変にアンセムを意識せず肩肘張らずに聴けるCDだとも言えます。


今作の特徴である「あっさり」は、人によってはSPEED 1同様に聴きどころの見つけにくい地味さとして写り、結果物足りないアルバムとの評価にも繋がるおそれがあるかもしれません。しかし1作目から3年が経ちサウンドそのものは大分洗練されてきたため、通して聴いた時の耳心地の良さでSPEEDシリーズの確かな正当進化を感じさせてくれます。


他に比べ、声を大にして好きだとは言われにくい曲も多い今作ですが、筆者を含め「俺は好きだけどね」と隠れファンが多く存在している……そんなトリッキーなアルバムです。

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