Dancemania SPEEDの歴史10~SPEED 8~
Dancemania SPEED 8
「華」とはこういうものである
2002年3月6日発売
SPEED6の「あっさり」、SPEED 7の「濃厚」と来て、筆者がこの8作目で提示するテーマは「華」です。
ライトリスナーにもガッツリ響くガールズポップ曲や、多彩なリミキサー陣がアレンジを施したDancemania収録曲、そして当時最先端であったトランスコア楽曲と、どこを切り取っても各曲が持つ個性が煌めいており、そういう意味でこのアルバムには確かな「華」があります。
まずは新規リミックス枠。下の7曲がそれに当てはまります。
02.Long Train Runnin'(Ventura Mix) / BUS STOP
03.TELEPHONE OPERATOR(K.O.G G3 Mix) / Pete Shelley
05.UPSIDE DOWN(Y&Co. Speed Mix) / Coo Coo
11.That's The Way(KCP Remix) / X-TREME
15.STILL IN MY HEART(Momo Mix) / NAOKI
18.Follow Me(Hi-score remix) / CAPTAIN JACK
19.Gotta Get It Goovin'(KCP Remix) / E-ROTIC
VenturaとY&Co.が外部リミキサーとして参加し、K.O.GとMOMOもそれぞれ単独リミックスを担当。
Long Train Runnin'は原曲の渋い雰囲気から一変、Venturaサウンドが炸裂するクールなリミックスに。これだけ原曲イメージからかけ離れたアレンジでも、むしろ「元からそういう曲ですけど」とばかりにVentura色に染め上げ、かつしっかりとまとめ上げるリミックスセンスには感服するばかりです。
Long Train Runnin'(BUS STOP版原曲)
UPSIDE DOWNはHAPPY PARADISEでのゴリッゴリなユーロリミックスから引き続いてY&Co.が担当し、前作1,2,3,4,007と同じくノリの良さを重視したハイテンションなSPEEDユーロアレンジに。原曲リフをそのまま活かしつつ今風で弾けた曲へと変える手腕で、80'sソングに新たな「華」を持たせました。
UPSIDE DOWN(ゴリッゴリな方のY&Co. Mix)
オリジナルのラップパートがメインのX-TREMEらしいアレンジを施したThat's The Wayも、途中に合いの手のごとく挟まる「That's The Way」「I Like It」のフレーズが良いアクセントな楽しいリミックスになりました。
高速歌詞で言葉の波に襲われる感覚は、ニコニコユーザーであればボカロ等で味わったものと思われますが、SPEEDリスナーはこの曲やSurvivorなど、数多の曲で実はもっと前から味わえていたのです。ボカロリスナーの方々も、今からでもSPEEDシリーズでその感覚を再度味わってみてはいかがでしょうか。
That's The Way(X-TREME版原曲)
NAOKI渾身のユーロビートSTILL IN MY HEARTは、MOMO金沢氏によるトランスコア調のセンシティブなリミックスでより哀愁感が増しています。これだけの速さなのにまるでバラードのようなエモさです。
STILL IN MY HEART(Momo Mix)
次は海外レーベル曲、まずは今作でも絶好調のSAIFAMから。
01.There You'll Be / DJ SPEEDO feat.ANGELICA
04.SKY HIGH(Speed Remix) / DJ MIKO
08.SPEED JAPAN / WILDSIDE
10.Waka Laka(E=MC2 Mix) / Jenny Rom & The Zippers
16.Happiness(Speed Mix) / The Zippers
17.The Game Of Love(E=MC2 Mix) / Jenny Rom
前作の記録を早くも更新し6曲提供。
オープニングトラックThere You'll Beはパールハーバーの主題歌が原曲……ですが、多くのSPEEDリスナーとDDRerにとっては「このリミックスが原曲」くらいの認識かもしれません。
原曲をハイスピード&ゴージャスなアレンジで喰ってしまう華々しさがあり、ANGELICAのボーカル含め完全に「個」として曲が確立しています。
そしてオリジナル曲なので元々「個」が確立している上で、圧倒的な「華」も持ち合わせているのがWILDSIDEのSPEED JAPAN。歌詞にKCPやMOMOの名前も入る、完全にSPEEDリスナーに照準を合わせた一曲。力強いボーカルとエネルギッシュなサウンドは、タイトル通り日本人ならば誰しもが気に入ることでしょう。
SPEED G収録後もサブシリーズ常連曲となるSKY HIGHも高品質な一曲。アレンジ元とは違う若干ダウナーなシンセリフと、それに相反するかのようなアッパーなサビとの組み合わせの妙が気持ち良い、気分上々なアレンジが楽しめます。
SKY HIGH(DJ MIKO版原曲)
またガールズポップ3曲もそれぞれに個性がある出色の出来。
童謡「静かな湖畔」を基にした、激しくも懐かしいHappiness、
最初から最後までキュートなジェニロム節が楽しめるThe Game Of Love、
その二組のコラボ名義で「こういうのが聴きたいんだろ?」とSAIFAMが時速160kmのど真ん中ストレートを投げてきたWaka Laka。
SPEED Gにはこの内Happinessのみ収録されましたが、3曲全部が収録されていてもおかしくない程、どの曲もリスナー人気は確かなものでした。
Waka Laka
LEDは2曲のみですが、初めて男性ボーカル曲が収録されました。
06.Love & Love / JUDY & PRISCILLA
09.Living In America / ROSE & JOHN
Love & Loveは前作I Love You Babeに潜んでいた哀愁を完全に取っ払い、徹底的に明るさに全振りしたハッピーな作品に。
Living In AmericaのJOHNはDancemaniaでHOT LIMITや夜空ノムコウのカバーを担当したJOHN DESIRE。普段よりキーの高い歌声ではありますが、女性ボーカルROSEと共に陽気なユーロアレンジを歌い上げてくれています。
Living In America
Runaway提供は以下の4曲。
12.STOP! IN THE NAME OF LOVE / AMELIA B.
14.Lady Marmalade / Nancy and the Boys
20.Rise To The Occasion / Connie and the Plainsman
22.One More Time / CJ CREW feat.Plainsman
ダフト・パンクのカバーOne More Timeはボーカルの再現度が高く、聴けば思わずニヤリとしてしまう忠実さ。STOP! IN THE NAME OF LOVEとLady Marmaladeは、Runawayではお馴染み低速曲を元ネタとする、ノリの良い高速ダンスポップアレンジです。
……と3曲紹介しましたが、今作のRunaway一番の聴きどころは間違いなくRise To The Occasionでしょう。メロディーからコード進行からサウンドから何から何まで、全てが全てブックレット通りの「透き通った優しさに満ち溢れ」ています。
Techno WonderlandやSPEEDY LOVEなど、高BPMながらも独自のヒーリング感を持つ曲はいくつかあるものの、個人的にはこの曲こそがSPEEDシリーズにおける「最癒やし系楽曲」ではないかと思います。
Runawayでは珍しい完全オリジナル曲であり、発売当初決して注目度の高くなかった……というか全く注目されていなかった当曲。しかしこの曲が持っていた確かな「華」に気付き、優しさが心に沁みるリスナーも多かったのでしょう。並み居る有名カバー曲等を押し退けて、SPEED Gに収録される健闘ぶりを見せました。
One More Time
とにかく一曲一曲の「華」のおかげで個性が渋滞するレベルですが、ハピコアも前述までの曲たちには負けていません。
23.Movin' On(On The Move) / Double Dutch
24.Serious Hardcore / Brisk & Ham
25.Now Is The Time 2000 / Scott Brown
27.Power of Love 2001 / Q-Tex
30.Last Nite Kambel Saved My Life / DJ Kambel VS MC MAGIKA
少し前に発売されたTRANCE RAVERSからの移植曲が多く、移植以外のハピコアにもトランス要素が多く含まれています。
安易に流行に乗っている……ようでいて後年まで残るアンセムも多いので、この時期はどのDJも、流行にだけじゃなく脂も乗っていたようです。
Vortexの流れを汲みつつよりドラマティックなトランスコアを表現したMovin' On
ハピコア界を代表する2人の、本編で初めてのタッグオリジナル作品Serious Hardcore
超大アンセムがトランスコアとなって新たなアンセムに生まれ変わるNow Is The Time 2000
Scott Brownが提示する最先端サウンドと極上のメロディーの融合Power of Love 2001
ノスタルジック&センチメンタルに駆け抜けるラストナンバーLast Nite Kambel Saved My Life
Now Is The TimeとPower of LoveはTRANCE RAVERSからの移植曲。後にLast Nite Kambel Saved My LifeはSPEED Gに収録され、それ以外の4曲はBEST OF HARDCOREに収録されます。
Brisk & HamはbeatmaniaIIDXの「Let The Track Flow」でも馴染み深い無敵のコンビですが、それぞれがアンセムを作っていた中、SPEEDシリーズ本編でこのタッグの名前が見られるようになったのは意外と遅く今作からでした。(Brisk名義でSPEED 1に収録されているOn & Onが本来は2人の合作曲なので、曲だけで言えば1作目から入ってはいましたが)
Scott Brownの2曲も当たり前のように名曲ですし、今尚活躍し続けるベテランDJたちの力量にただただひれ伏すばかりです。
それぞれの楽曲が持つ圧倒的な個性……わかりやすいガールズポップやリミックス、有名曲カバーはもちろん、先鋭的なトランスコアや、そういった派手な曲に埋もれず主張する癒し系の楽曲まで……今作は個々の個性が塊となり、大きな満開の花を咲かせるかのようなアルバムになりました。
いわゆる「染み入る」系のハピコアアンセムが少なく、後半のトランスコアラッシュはライトリスナーにはとっつき辛い面もありますが、聴き馴染んでくればRise To The Occasionのようにその曲の隠された魅力・新たな面を知ることが出来るでしょう。すぐには見えないところにもこのアルバムの「華」は隠れています。
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