Dancemania SPEEDの歴史22~アニメ & Newtype~
アニメSPEED
SPEEDアニメトランス前夜祭(ファミリー向け)
2005年5月25日発売
サブシリーズ第7段のテーマは「アニメ」です。ドラゴンボール、サザエさん、ドラえもん、アンパンマンなどなど。多くの日本国民が知るアニメの主題歌が、SPEEDアレンジの上で収録されています。
「アニメ」で「SPEED」となると、後年EXIT TUNESからリリースされた「SPEEDアニメトランスBEST」シリーズの方が現在では有名でしょう。実際アマゾン等で今作を探そうとすると、この「アニトラ」シリーズばかり出てきてしまいます。
ただアニトラシリーズのヒットのお陰か、今作はHAPPY SPEED発売後の2008年に再販されます。SPEEDシリーズで再販されたのは今作とChristmas SPEEDのみなので、アニトラ様様といったところです。
いわゆるアニトラシリーズは、特に初期作品リリース時に「どこがトランスなんだ」という批判が多く見られました。ただこのシリーズ、EDPの主宰でもあるRyu☆氏を筆頭に、SPEEDシリーズに影響を受けたであろうアレンジが数多く収録されています。
当時のEXIT TUNESがトランスメインのレコード会社とあって「トランス」の名を冠していただけで、実は元よりトランスではなく「SPEED」をメインに作られたシリーズの可能性もあるのです(あくまで憶測)。
もしSPEEDシリーズの精神的続編としてアニトラシリーズが生まれたのだとすれば(今作に直接影響はされていないとしても)このアニメSPEEDそのものが、SPEEDアニメトランスBESTの前身的存在であると言えるのではないでしょうか。
基本的に憶測なので不確実な話ばかりで申し訳ありませんが、気を取り直して今作の曲解説に行きましょう。
01.CHA-LA HEAD-CHA-LA / Lee Tairon(ドラゴンボールZ)
02.あなただけ見つめてる / Yoko Kobayashi(スラムダンク)
03.はじめてのチュウ / Luna(キテレツ大百科)
04.アンパンマンのマーチ / Nuts
05.ラムのラブソング / maruyamakumi(うる星やつら)
06.残酷な天使のテーゼ / Nuts(新世紀エヴァンゲリオン)
07.おどるポンポコリン / P☆Smile(ちびまる子ちゃん)
08.キューティーハニー / HiNa
09.Cat's Eye / Yoko Kobayashi
10.微笑みの爆弾 / HiNa(幽遊白書)
11.サザエさん / P☆Smile
12.愛をとりもどせ!! / Lee Tairon(北斗の拳)
13.もののけ姫 / Forrest
14.ドラえもんのうた / Luna
15.魔法使いサリー / Yoko Kobayashi
16.ムーンライト伝説 / P+Nuts(セーラームーン)
古いアニメを中心に、大まかな基準で「カラオケで幅広い年齢層が歌えるアニソン」が選ばれています。
ただし14曲目もののけ姫のみインストに。これはこれで曲の雰囲気に合っているので評判は良いですが。
今作の特徴としてはまずBPMが全体的にかなり高いです。オープニングナンバーCHA-LA HEAD-CHA-LAがいきなりBPM180超えで始まり、最終的にサザエさん以降全てBPM190オーバー。ただ忙しなさよりはそのスピード感が心地良い部分が大きいので、最後まで振り切られることなく楽しめるかと。
アレンジはノンストップミックスも担当したGeorge鈴木氏や、彼の所属するVenturaメンバーが行ったものと思われますが、これが意外と(失礼)上手いことハマっています。
あなただけ見つめてる、Cat's EyeのようなJ-POPアーティストが歌った曲、キューティーハニー、残酷な天使のテーゼ等のよくカバーされる曲は、それぞれアレンジとの融和性が高いのか、どれもドライヴ感のあるノリノリなSPEEDアレンジに仕上がっています。
ちなみに残酷な天使のテーゼは次作Newtype Editionでも別アレンジで収録。シンセリフ等に違いがあり、特に今作の方はキックの主張が強いので、そこで好みが分かれそうです。
大衆的すぎて「楽曲アレンジ」そのもののイメージがあまり無いサザエさんやドラえもんも、もちろん初聴時の違和感が全く無いとは言いませんが結構自然に高速化され、2回目以降は違和感も無く聴けるのではないかと。
個人的にはボーカルの原曲らしさを再現し、かつSPEEDアレンジとしてのオリジナリティもきちんと擁するはじめてのチュウが特にお気に入りです。
あとボーカルは全てカバーなので声や歌い方が合わない場合はどうしようもありませんが、壊滅的に下手な人もおらず、特定の曲に強い思い入れが無い限り普通に聴けると思います。
というか、もとより「誰でも歌える」ような大衆性の高い曲が多いので、その結果ボーカルの違和感が目立たないのかもしれません。そういう意味では、今作の「ファミリー向け」の選曲は正解でした。
とは言えファミリー向けアニメ曲を今更聴こうと思う人も少ないでしょうし、今作のラインナップはアニメファン、SPEEDリスナーどちらへの訴求力も低いと思われます。しかし聴く前にハードルが高くならない分「思ったより良かった」となりやすいアルバムでもあると思います。
……もちろん、SAIFAMやLEDらのアレンジを期待して聴くと完全にスカされて、最低のアルバムだと思われる危険性も孕んではいます。とりあえず筆者から言えることは「思ったより良かった」です。
今作を聴いたことがない「アニトラ」リスナーの方は、高速アニメソングコンピレーションの先輩がどんなもんだったか、試しに聴いてみてはいかがでしょう。
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アニメSPEED Newtype Edition
SPEEDアニメトランス前夜祭(マニア向け)
2006年7月19日発売
間にSPEEDRIVEを挟み、サブシリーズ第9段かつアニメSPEEDの続編として作られたのが今作です。
今作は雑誌Newtypeとのタイアップ企画として、誌上で「アニメSPEED新作に入れて欲しい曲」のリクエストを行い、その上位に来た曲を中心にSPEEDアレンジが収録されました。
収録されたのは以下の16曲。
01.残酷な天使のテーゼ(Quiqman Mix) / NUTS(エヴァンゲリオン)
02.青空のナミダ / YUNO(BLOOD+)
03.Z・刻をこえて / YOKO CHIDA(Zガンダム)
04.Tip Taps Tip / TOUCH(エウレカセブン)
05.sakura / Erika Oguri feat.Kyoko Miyamoto(エウレカセブン)
06.ありがとう~ / AYAKA IKEZOE(今日からマ王!)
07.水の星へ愛をこめて / Haruka Ochi(Zガンダム)
08.Groovin' Magic / Nao Tomigashi(トップをねらえ!2)
09.青春 ~有利のテーマ~ / OM(今日からマ王!)
10.清爽 ~コンラッドのテーマ~ / Quiqman & Ryoju for TUS(今日からマ王!)
11.ケロッ!とマーチ / Kotomi Mitsui feat.Lee Tarion(ケロロ軍曹)
12.ステキな幸せ / KENTAROU(今日からマ王!)
13.魂のルフラン / KAYOCO(エヴァンゲリオン)
14.Shangri-La / Ryo Utasato(蒼穹のファフナー)
15.軽快 ~ヴォルフラムのテーマ~ / OM(今日からマ王!)
16.果てしなく遠い空に / KENTAROU(今日からマ王!)
2006年なので既にガンダムSEEDやアクエリオンも世に出ており、普通に考えれば上記の青空のナミダやsakuraに加え、INVOKEや創聖のアクエリオンあたりが入っていても何らおかしくありません。
しかし結果は16曲中6曲が今日からマ王!という「何かしらの意図」が働いたとしか思えない選曲に。「○○のテーマ」というタイトルで購入意欲が湧くNewtype読者がどれほど居たかわかりませんが、少なくとも多くのSPEEDリスナーは「知らない曲ばっかり……」と落胆したに違いありません。
これは単純にマ王ファンの組織票という見方も出来ますが、それ以外に「Newtypeや角川がマ王を推したかった」もしくは「レコード会社の都合や版権料等で目当ての曲が揃えられなかった」説も考えられます。
仮にマ王系列の曲は版権料が安く済む(その上熱狂的なファンが多いかも)となれば、この大量収録も飲み込まざるを得ません。目当ての曲が揃えられず、マ王曲で穴埋めしたのだとしても同様でしょう。ただ事情はどうあれマ王ファンでない限り訴求力のかなり低いラインナップになってしまったのも事実です。
各曲の中身はどうかと言うと……前作よりもJ-POPが増えた影響で、特にボーカルに関しては人によって「許せる」or「許せない」のラインが、結構シビアな曲が多いかもしれません。アレンジそのものは、前作アニメSPEEDが大丈夫であればそのまま同じように聴けるはずです。
個人的には青空のナミダ、Groovin' Magicは原曲がボーカル込みで好きだったので聴き馴染むのに結構時間がかかりましたし、逆に(あくまで筆者の体験談ですが)原曲を全く知らなかったsakura、ありがとう~、水の星へ愛をこめては最初から普通に受け入れられました。
原曲を知っているものでも魂のルフラン、Shangri-La等普通に受け入れられたものもあり、これはもう完全に個人差によるとしか言えないので、
試聴して自分の中の「許せる」ラインを判断してみてください。
で、問題の「○○のテーマ」なマ王曲について……これが実は、結構良かったりします。インストなのでボーカル合う合わない問題が全く無く、原曲がオーケストラやアコギでメロディー重視な曲になっているため、かなりSPEEDアレンジ映えする仕上がりに。
全体的に起伏無く最後まで突っ走るタイプの曲ばかりなため、インストかつ原曲のブレイクパートをそのまま引き継いでいる「○○のテーマ」が、アルバム全体に緩急をつける役割を果たし、存外に有り難く感じられます。筆者としても青春~有利のテーマ~はこのアルバムで初めて聴いて、気に入ってその後原曲も調べた程でした。
また同じくマ王曲でありラストナンバーの果てしなく遠い空には、原曲がそもそも速いことも影響しBPM212という超速アレンジに。瞬間最高速度ならG4のVictoryがBPM218を記録していますが、最初から最後までBPM212=平均速度最高を誇るのはこちら。流石にこの速さになると忙しなく思いつつも、曲調もあってラストっぽさはかなりのものです。
あと同じくマ王曲のステキな幸せは、無意識なのかわざとなのか、何故かDJ SPEEDOのSEPTEMBERにシンセリフが非常に似ています(そして意識して聴き出すと果てしなく遠い空にもAserejeに似ている気が)。今作のアレンジャーはQuiqman柴田氏やVenturaメンバーが主と思われますが、アレンジャーがSAIFAMファンだったりするのでしょうか。
これらの曲を通して聴いてみると、前作同様「思ったより良かった」となりやすいアルバムかもしれません……が、マ王曲筆頭に「聴いてみると」の前提部分をクリアするのが難題で、そもそも聴いてくれる人、買ってくれる人を選ぶ一枚となってしまいました。
アレンジこそ良かったものの、理想を言えばやはりマ王曲をボーカル入り3曲だけに留め、空いた枠に2000年代ロボットアニメの曲を入れたほうが、よりキャッチーで、アニメオタクな方々に手にとってもらいやすいアルバムになっていたことでしょう。
今作発売が2006年7月ですが、この年の12月にニコニコ動画が公開され、また2006年~2007年だけでもハルヒ、銀魂、コードギアス、らき☆すた、グレンラガン、絶望先生、ぼくらの、ガンダム00と主題歌がヒットした、ネットで話題となったアニメが続々と生み出されていきます。
後続のSPEEDアニメトランスBESTが上記アニメの曲を積極的に取り入れ、ニコニコユーザーから支持されてナンバリングを重ねていたことを思うと、今作がアニトラシリーズになれなかった最大の原因は、ラインナップ以上に時期が悪かったことなのかもしれません。
当時のNewtype編集長であった矢野謙二氏が、ブックレットの中で「この企画がもっともっと大きくなってくれると、おもしろいことになるな、と思っています」と書いています。
残念ながらアニメSPEEDが企画を大きくすることは出来ませんでしたが、「有名な・流行りのアニソンをアレンジ」するムーブメントは、その後ニコニコ動画の隆盛とともに、アニトラシリーズを始めもっともっと大きくなっていきます。
アニソン版「スーパーロボット大戦」と呼ぶにはかなり偏りの激しい面子ではありますが、その後アニトラシリーズ他によって本当の意味で「スーパーアニソン大戦」が実現する前の、プロトタイプアニソン大戦としては、中々上出来なアルバムだったのではないでしょうか。