Dancemania SPEEDの歴史16~SFX & Christmas~
SPEED SFX
映画の知名度を取るか、曲の知名度を取るか
2003年9月18日発売
SPEED G発売後のため、今作からSPEEDシリーズは後期に突入します。
「クラシック」がテーマのclassical SPEEDに続き、サブシリーズ第2段は「映画」をテーマに、古今東西の映画主題歌を集めたアルバムになりました。
「SFX」というよりファンタジーやアクションが売りの映画主題歌も収録されていますが、確か仮タイトルが「MOVIE SPEED」とかそんな感じだったはずなのでその名残でしょう。(ここは完全にうろ覚えなのでそんな仮タイトル無かった可能性もありますがご了承ください)
表向きかなり豪華な映画タイトルが集まってはいますが、今作には実は無視できない大きな問題点がありまして……それについても記載いたします。
先に再録曲を紹介しておくと、コンセプト判明時から「多分入るだろ」と噂されていた
05.Rhythm And Police(K.O.G G3 Mix) / CJ CREW feat.Christian D
13.I Don't Want To Miss A Thing(Super Planet Mix) / Deja Vu feat.Tasmin
14.MY HEART WILL GO ON (KCP Remix) / Deja Vu feat.Tasmin
こちらの3曲(踊る大捜査線、アルマゲドン、タイタニック)が案の定収録されました。ミスアシングは今まで収録されたアルバムの中で一番長く聴けるのでファンにはお得です。
今作の3本柱の新規楽曲はそれぞれ以下のように。
Runaway
06.007 / CJ CREW feat.Pussy Galore
07.Feel Good Time / Nancy and the Boys(チャーリーズ・エンジェル)
08.MEN IN BLACK / Nancy and the Boys feat.SAMMI
09.GHOSTBUSTERS / Umi Ghoulies
LED
03.Theme from E.T. / Extra Terror Sound
04.Prologue / Nimbus Quartet 2003(ハリーポッター)
10.The Power of Love / Frog 'A Billy(バック・トゥ・ザ・フューチャー)
11.Unchained Melody / Manuel(ゴースト~ニューヨークの幻)
12.May It Be / M. Short(ロード・オブ・ザ・リング)
SAIFAM
01.Star Wars Main Title / MC F 40
02.The Terminator / DJ Terminator
15.Never Ending Story / DJ SPEEDO feat.ACDC
16.The Raiders March / SPEEDOMASTER(インディ・ジョーンズ)
17.Main Title / SPEEDOGANG(マトリックス・リローデッド)
18.Theme from JAWS / MAZERATI
19.Also Sprach Zarathustra / SPEEDORCHESTRA(2001年宇宙の旅)
20.Mission:Impossible Theme / DJ SPEEDO
どれも原曲の雰囲気を活かしつつバリバリにテンションの上がるアレンジで収録されています。格段に知名度が高くまた「SFX」の代名詞であろうスター・ウォーズがオープニングトラックを務め、その後もターミネーター→E.T.→ハリーポッターと続く流れは、タイトルを見ただけで映画界を代表する傑作名作勢揃いで否が応にもボルテージが上がることでしょう。
スター・ウォーズ メインテーマ
筆者としては特に2曲目ターミネーターには驚かされました。アレンジとしては曲終わりであの「ダダンダンダダン」らしきフレーズはありつつ、基本的には「テレレー~」のオーケストラパートをメインに展開。初聴では正直「どこがターミネーター?」となりやすいのですが、原曲を聴き返せばきちんとアレンジとして成立しているのがわかるようになっています。
何よりもトランスコア風の疾走感ある「一曲」として非常に完成度が高く、SAIFAMのアレンジテクニックにスタンディングオベーション並の拍手喝采を送りたいくらいです。
しかしそんな中、先述した「問題点」が2つの意味で存在しています。どちらにも共通するのは「選曲ミス」という要素。
今回の収録曲はどれも映画としてだけでなく曲としても世界的にはヒットしたものばかり(踊る~は世界的にはヒットしてませんが話がややこしくなるので除外)ですが、こと日本において、2003年当時ですらロード・オブ・ザ・リングやチャーリーズ・エンジェルの主題歌をちゃんと覚えている人はどこまでいたかというと……そこまで多くなかったのではないでしょうか。マトリックスに至っては「曲なんかあったっけ?」となる人がほとんどかもしれません。
マトリックス・リローデッド タイトルテーマ
前作classical SPEEDがテーマとして圧倒的普遍性を極め、今作にもスターウォーズやミッション・インポッシブルのようなクラシック音楽と肩を並べられる存在がいるだけに、映画タイトルに楽曲知名度が追いついていない一部が見劣りしてしまうような感じに。どのアレンジも映画主題歌を意識せず「一曲」として聴けば満足度の高い曲たちではあるのですが……。
それこそ、007やハリーポッターなど未だにテレビで使われる曲がある一方、2019年現在で初めて今作を聴くとなると、下手すればMEN IN BLACKやThe Power of Loveですら原曲を知らない人もいるかもしれません。
(そのレベルで映画に詳しくないならこのアルバム手に取らないだろ、というツッコミは無しで)
MEN IN BLACK
ちなみに、HMVには今作の仮トラックリスト(収録予定だった曲)が載っており、これによればジュラシックパーク、ゴジラ、オースティン・パワーズ(Soul Bossa Nova)、バットマンも収録を考えられていたようです。
(Soul Bossa NovaはSPEED 9に収録済。またバットマンは後にSPEED G2に収録)
結局採用されなかったジュラシックパークやゴジラのテーマが正式に入っていれば、またSPEED G2のロッキーのテーマ等も入っていれば、より訴求力の強いアルバムになった可能性もあるかもしれません。(もちろん映画タイトルを並べた時の訴求力で言えばLOTRやマトリックスでも十分強いですが)
また有名曲でも、ことジョーズにおいてはメインフレーズが「デーデン」の繰り返しでほぼ2音しか使われておらず、ぶっちゃけ曲目が発表された段階から「これがスピードアレンジされて面白くなる未来が見えない」という意見もありました。そもそも原曲がSPEEDアレンジに向いていないという意味で選曲ミスです。
そしてそのジョーズをSAIFAMが担当しましたが、流石に荷が重すぎたようで、あの原曲で出来うる最大限の努力の跡は見えるものの「メインフレーズに変化がほぼ無い」という特徴と「言われなきゃジョーズと気付きにくい」アレンジ結果が足を引っ張りまくり、残念なことにSAIFAMの中でも特に人気の低い一曲になってしまいました。
ただ、無機質にデデ デデ デデ デデと繰り返すメインフレーズ部分は、ある意味でクセになる感じではあります。
今作の問題点を長々と書き連ねてはしまいましたが基本的には有名曲ばかりですし、仮に原曲を知らなくてもアルバム通して楽しめるくらいには、どのアレンジもしっかりとまとまっています。
知名度格差については、比べられる対象があまりに偉大すぎるが故の災難だと思って、割り切って楽しみましょう。もちろん原曲を全部知っている映画好きにとっては、かなり満足度の高いアルバムになってくれるはずです。
ちなみに余談ですが、東芝EMIが2006年にクラシックアレンジコンピを出しまして、そこにclassical SPEED 1と2のSAIFAM提供曲が再編集で収録されています……が、今作収録のSAIFAMクラシックアレンジ「ツァラアトゥストゥラはかく語りき」(2001年宇宙の旅)は入っていません。完全に存在を忘れられていたとしか思えません。不憫なので今作で聴いてあげましょう。
さらにどうでもいいことですが、DDR・IIDX・jubeat・SDVXに収録されている「New Decade」の空耳「タチ悪いわ~」のサンプリングボイスが今作のE.T.でも聴けます。(本当にどうでもいい)
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Christmas SPEED
高速で浸るノスタルジー
2003年10月29日発売
サブシリーズ第3弾は、発売時期もピッタリと照準を合わせて「クリスマス」がテーマに。一年に一回必ずやってくるイベントとあってか、クリスマスソング需要は馬鹿に出来ないようで、Dancemaniaには珍しいことに今作は3年後に再販がかかります。
収録されているのは当然クリスマスソングばかりになりますが、よほど凄惨な過去の持ち主でない限り、誰しもクリスマスには多少の心躍る思い出や楽しい記憶があることでしょう。
というわけで、今作は季節感を重視したコンピレーションというだけでなく、クリスマスソングで子供の頃の思い出がフラッシュバックするような、そこまで行かずともクリスマスソング独特の雰囲気で胸がときめくような、そんな「ノスタルジー」要素も含んだアルバムになっています。
LED
01.ラスト・クリスマス / ROSE
02.ひいらぎ飾りて / Speed All Stars
03.ジングルベル / Hardcore Synth Orchestra
07.レット・イット・スノウ / ROSE & JOHN
17.きよしこの夜 / JOHN DESIRE
18.もろびとこぞりて / Violent String Ensamble
Runaway
04.ママがサンタにキッスした / CJ CREW feat.Bunga Bunga
08.Do They Know It's Christmas / DJ Elastoplast
09.フロスティ・ザ・スノーマン / Terry and the Physicist
10.We Wish You A Merry Christmas / Nancy and the Boys
11.ザ・クリスマス・ソング / Chi K Monkey
12.赤鼻のトナカイ / CJ CREW feat.MC Bygglz
13.シルバーベルズ / Nancy and the Boys feat.TONI
14.ブルー・クリスマス / El Fez
SAIFAM
05.ホワイト・クリスマス / MAZERATI
06.ウィンター・ワンダーランド / DJ Jaxx
15.ジングルベル・ロック / SPEEDOMASTER
16.サンタがまちにやってくる / DJ SPEEDO feat.WILDSIDE
19.楽しいそりすべり / MC F 40
20.恋人たちのクリスマス / KK feat.MANU
今作はサブシリーズで初めて20曲全て新曲になりました。Runawayが担当したザ・クリスマス・ソング、Do They Know It's Christmas、シルバーベルズ、ブルー・クリスマスあたりは今の時代では原曲を知らない方も多いかもしれませんが、それ以外の曲はどれも一度は聴いたことがあるのでは。
LEDは聖夜の厳かな雰囲気なぞ知ったことか、と言わんばかりにどれもこれもド派手なアレンジに。ラスト・クリスマスやきよしこの夜はLED感が強すぎて若干原曲迷子気味ですが、その分パーティー感はかなり強く、SPEEDシリーズ的には大正解なアレンジとなりました。
(ただラスト・クリスマスはダンスエクスプレスHigh-Speedの同曲がきっちりフルコーラスだったので、同じようにフルコーラスで作って欲しかった気持ちもあったり)
オリジナルのシンセリフ含め、ジングルベルやもろびとこぞりてのはっちゃけ具合は特に最高です。
ラスト・クリスマス
もろびとこぞりて
Runawayは先に言った通りマイナー気味な選曲もありつつ、We Wish You A Merry Christmasや赤鼻のトナカイなどのド定番曲もアレンジ。
そしてその赤鼻のトナカイからシルバーベルズ、ブルー・クリスマスまではNU-STYLE GABBAもびっくりの三連符ゾーンに。GABBAサウンドではない柔らかなダンスサウンドの三連符で、いつもと違うクリスマスの日の特別感を増幅してくれています。
シルバーベルズ
ちなみにですが、Do They Know It's Christmasの名義であるDJ Elastoplast。このElastoplastは絆創膏の商品名で、原曲を歌っているBand Aidにかかっていたりします。後期のRunawayは特にこういった名義遊びが多くなるので、Runaway曲で聴き慣れない名義が出た時は、元ネタと合わせて調べてみると面白い発見があるかもしれません。
そして今作に限った話ではありませんが、SAIFAMは原曲を活かした上で自分たちの強みを引き出すのがとにかく上手い。6曲ともそれぞれ新規のSPEEDユーザーを生み出せそうなほど、確立したクオリティの持ち主です。
ホワイト・クリスマスはSAIFAM独特のシンセの刻み方、通称(筆者含め一部のリスナーが勝手に呼んでいる)「SAIFAM刻み」が印象的な一曲。原曲の神聖な雰囲気を損なわずにダンスアレンジされ、ノスタルジーな気分をより引き出します。
またサンタがまちにやってくるはWILDSIDE名義では非常に珍しい男性ボーカルメインに。ダンディーな歌声と軽快なシンセがセットとなって、聖夜のウキウキ感を思い起こさせてくれることでしょう。
「クリスマスに良い思い出が全くない」「クリスマスソングを聴くと吐き気を催す」という人でない限りは、今作はきっと、誰しもが子供の頃に持っていたクリスマスの楽しい記憶を呼び覚ますようなアルバムになってくれるはずです。
あと当然、12月に聴いてクリスマス気分に浸るのにもオススメです。
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