Dancemania SPEEDの歴史11~SPEED 9~

Dancemania SPEED 9
いつも通りだったり、いつもとちょっと違ったり

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2002年9月26日発売

SPEED本編シリーズ二桁に目前まで迫った9作目。

今作の特徴は「意外性」です。アーティスト名、リミックス名を見ただけで高クオリティなのがわかるド定番な曲ももちろんありますが、今作はその「定番」を微妙にズラした、文字通り「意外」な曲が多く収録されました。

意外性に溢れる一方で楽曲の統一感に欠ける面もありますが、逆にそのまとまりの無さが混沌としていて好きだという人も多く、SPEED 6とはまた別の意味でトリッキーなアルバムになっています。


新規リミックスは以下の6曲。

04.Max Don't Have Sex With Your Ex(Grandale Mix) / E-ROTIC
10.Burnin' The Floor(Momo Mix) / NAOKI
13.Na-Na(KCP Remix) / BUS STOP
18.Soul Bossa Nova(KCP Remix) / X-TREME
20.Take Me Out To The Ball Game(Planet Remix) / CAPTAIN JACK
23.Nights In Heaven - Days In Hell(Lution Mix) / Missing Heart

SPEED後期から特に露骨になる予算削減の波。悲しことにこのSPEED 9時点から、その前兆が見え始めていました。ジャケットの「SPEED」部分の銀装丁が無くなり、ブックレットも白黒に。そして中身としても、SPEED 4から続いていた外部リミキサー参加が無くなってしまいました。


久々のKCPチームのみの新規リミックス、この中からはK.O.G森田氏がリミックスしたMax Don't Have Sex With Your Exが後のSPEED Gに収録。

Max Don't~の原曲はE-ROTICのデビュー曲で、Dancemaniaに収録されたのはなんとこのCD発売の6年前。超が付くレベルの今更すぎる収録なものの、それでもGrandale名義のビッキビキな全力投球アレンジは鉄板です。


Soul Bossa Novaはあのラテンなメロディーが高BPMで聴ける「意外性」のある面白い一曲。「ハイスピードモダンジャズダンス」とでも言うべき、ジャンルてんこ盛りで前例のない曲調は、今作の方向性を端的に表したリミックスではないでしょうか。

Soul Bossa Nova(原曲)


また「私を野球に連れてって」も原曲の明るい雰囲気とは違う、意外性のあるナンバーに。アレンジ元のCAPTAIN JACK版がそもそもトランス要素の入ったクールなバージョンではありましたが、今回はそのトランス要素をさらに膨らませ、ベースボールスタジアムで歌っている雰囲気ゼロのカッコ良すぎるリミックスに変身してしまいました。フランキーたちの歌声自体は変わらずに高らかなので、そこのアンバランスさが癖になる絶妙な塩梅です。


Take Me Out To The Ball Game(CAPTAIN JACK版原曲)


続いては海外レーベルからSAIFAMの提供曲。

01.IRRESISTIBLEMENT / WILDSIDE
02.CARTOON HEROES(Speedy Mix) / Barbie Young
03.Smile(Speedy Mix) / Orlando
09.Love Shine A "Speedy" Light(Speed Mix) / SPEEDMASTER
27.SENORITA(Speedy Mix) / Jenny Rom

オープニングトラック「あなたのとりこ」も安定の爽やかユーロビートで人気でしたが、注目すべきは恐らくアルバム発売前の最注目曲だったであろうCARTOON HEROES

リミックスの当曲はDDR EXT時点の版権最強曲でも知られていますが、AQUAの原曲は当時の生茶のCM曲であり、バブルガムダンス史に燦然と輝く金字塔。Jenny Rom筆頭にバブルガムダンスに精通したSAIFAMがそれをアレンジするのですから、期待外れになるわけがありません。原曲ボーカルを忠実に再現し、こちらが求めていた「速いCARTOON HEROES」を120%のクオリティで届けてくれました。


IRRESISTIBLEMENT


CARTOON HEROES(Speedy Mix)


続いては今作における「意外性」として、本来真っ先に取り上げなければならないSENORITA。Jenny Romが持っていた可愛らしい・ポップ・明るいという要素を完全排除したクール・激しい・暗いそれまでとはひと味もふた味も違う当曲。

Grandale Mixにも引けを取らない攻撃的ユーロビートと前述の「ギャップ萌え」的な要素もあり、SPEED Gでは見事リクエスト3位に。当時あのシンセリフを聴いて衝撃を受けなかったSPEEDリスナーは居ないのでは。


エルヴィス・コステロの名バラードを妙に壮大なアレンジで強く印象に残る一曲に形成したSmileも、そもそもの選曲とそのアレンジとで2回分の「意外性」を感じられます。ただ中盤のサビ終わりで一瞬ブツッと音が途切れてしまっており、マスタリング?時のミスと思われるその箇所の不快感だけが心残りです。


Runawayは今回中盤にギッチリと固まっての収録。

14.Do It Like This / CHI K MONKEY
15.Fields of Gold / CJ CREW feat.DEB E.
16.Push It / CJ CREW feat.SAMMI
17.Don't Tell Me / Nancy and the Boys
21.This Beat Has Gotcha / MC Bygglz

Runawayでは非常に稀なガッツリインストのダンスロックDo It Like Thisと、いつも通りの低速曲を元ネタとしながら普段とは違うかなりアッパーな面を見せるFields of Goldの2つは、Runawayの作風の広さとアレンジの巧みさを再認識させてくれる2曲でしょう。

I Want It That WayやComplicatedと比べると話題性に欠けたのが要因かSPEED Gには収録ならずでしたが、どちらも入っていないのが勿体無いくらいの良曲です。


Fields of Gold(原曲)


Nancy and the Boys名義の外さなさは逆に意外性も無く、すっかりSPEEDシリーズにおける安打製造機と化しています。Don't Tell Me含めこの名義でいつも歌っている女性(Nancy?)が上手いので、普通に聴き入ってしまえるレベルなのも安定感に繋がっているでしょう。

基本的にカバー曲を専門とするRunawayですが、今作はDo It Like Thisに加え、Push ItThis Beat Has Gotchaと3つもオリジナル曲が収録されました。ひょっとすれば、前作の隠れた名曲Rise To The Occasionが評価されてのオファーだったのかもしれません。Runawayのオリジナル曲が3曲、これもまた「意外性」のある構成で中々に攻めています。


続いて序盤に2曲収録されたLED

07.Baby Love Me(Speed Mix) / JUDY CRYSTAL
08.Speed Over Beethoven / ROSE

「エリーゼのために」をフィーチャーしたSpeed Over Beethovenはタイトルから中身の予測が難しく、初聴時のサプライズ要素高めな一曲。有名クラシックのユーロアレンジに可愛らしい女性ボーカルが入るごった煮感が「ザ・LED」という感じで賑やかです。


Dancemania未収録なのにDDRには原曲がある特殊な初出経緯のBaby Love Meは、その原曲をそのまま速くしたタイプのアレンジ。柔らかい雰囲気のあった原曲よりもエッジの効いたサウンドになったので、DDR MAX2のサントラと今作とで違いを聴き比べるのも楽しいのでは。


Baby Love Me(原曲)


そしてSPEED 6から地道に参加し続けているS&Kの曲も、今作における「意外性」を特に表す一曲だと思います。

28.Everybody(Speedy Mix) / S&K

ディスコ風ユーロ……と言うより「SPEED DISCO」と表現するのがピッタリな異色のサウンドは、まるでミラーボールが高速回転するかのようなフィーバーっぷり。激重ユーロビートSENORITAからの落差もあり、頭空っぽにしてノれるご機嫌なナンバーです。


定番と予想外とが入り交じるのはハピコアも同様で、今作ではついに「あの」ジャンルが初収録となりました。特に取り上げたいのは下記の6曲。

05.Crazy / DJ Stompy
06.Test Of Time / DJ Stompy
11.Synth 'N' Stuff / Sound Assassins
25.Derilious / Double Dutch
26.Control Your Mind / Brisk & FADE
30.FLASHDANCE(What A Feeling) 2002(DJ Kambel Remix) / DJ Kambel VS MC MAGIKA

CDの曲順で見ると、序盤も序盤の5、6曲目に2連続で流れるStompyのハピコアはかなりの意外性ではないかと。CrazyTest of Timeも柔和な曲調かつグルーヴ感も備わったStompyらしい名曲ですが……ハピコアをこの好位置でしかも2曲連続でというのは、キャッチーな曲が増えた中期らしからぬ、冒険心溢れる配置です。SPEEDシリーズ中期では初となるこの変則的な構成が、「今作は何か違うぞ」とその後の数々のサプライズを予感させくれます。


Crazy


Test of Time


そして楽曲面で大きな革新性を持つアンセムDeliriousが登場し、SPEEDシリーズにTRANCECOREに次ぐ新たなジャンル概念が持ち込まれることに。gigadelicTHE DEEP STRIKERなどで音ゲーマーにも親しまれているそのジャンルの名はNU-STYLE GABBA

最初こそ、ボーカル入りでいつもよりキックが重い程度のなんてことないアンセムなDeliriousですが、その重いキックが本領発揮する中盤にて、SPEEDシリーズでまず聴くことはなかった三連符リズムのNU-STYLE GABBAパートが途中挿入されるのです。

二部構成のような展開と大半のリスナーが初めて聴くNU-STYLE GABBAの衝撃はリスナーの度肝を抜きまくり、Double DutchことBriskの手腕も相まって、Deliriousは今作最大の「意外性」を遺憾なく発揮いたしました。


それ以外にも、

TRANCE RAVERSからの移植曲としてエピックなトランス感を見せつけるSynth 'N' Stuff


ハードコア界の最前線を行く、人気DJコンビの盤石なナンバーControl Your Mind


かのアンセムFLASHDANCEを問答無用のKambelカラーに染め上げるFLASHDANCE 2002


など、これらの定番かつ意外性のある曲が多数収録されています。


冒頭で述べたとおり、意外性があり多種多様なジャンルが入り乱れる今作を、まとまりがないと評する方も少なくありません。特にこの後に発売されるclassical SPEEDSPEED 10がかなりわかりやすく且つとっつきやすい作品だったこともあってか、今作は多くのリスナーから「中期の中では下の方」扱いされやすい立ち位置にいます。

今作のテーマは(もちろんこれは筆者が勝手に提示しているだけですが)「意外性」です。一度でなく二度、二度でなく三度。繰り返し聴いてみると、思いがけず「あれこの曲って最初聴いたときよりなんか良いな」と評価が変わる……そういう意味でも、今作は「意外」といいアルバムだったりするかもしれません。

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