Dancemania SPEEDの歴史20~SPEED G4~

Dancemania SPEED EVOLUTION "SPEED G4"
「Dancemania SPEEDは好きですか?」

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2005年3月30日発売

前作G3から9ヶ月ぶりの本編新作となる13作目。この間にサブシリーズはclassical SPEED 2SPEED刑事が発売されました。

サブシリーズが増えた代わりに本編が普段の半年ペースから3ヶ月遅れ、またそのサブシリーズも(内容は良いのですが)テーマに無理が生じるようになり、更にはDancemaniaメインシリーズのリリースが前年9月から滞り……このあたりから、当時のリスナーも段々と「ダンスマニアちょっとヤバいのでは」と思うように。


その不安を煽るかのように、CDクレジットから「KCP」の文字が無くなりました。ノンストップミックスはK.O.G森田氏個人が行い、C-Jah中村氏の名前はSPECIAL THANKSに載るのみ。MOMO金沢氏はそこにも載っていないので、今作以降の動向は完全不明……と、悲しいことに事実上のKCP解散です。


リスナーとしては、サブシリーズ連発で有名曲カバーが多く聴けることを喜びつつも、上記のようなシリーズ停滞等による不安を抱きながら、それでも定期的に発売されるCDを買って楽しむしかない状況でした。


ですが、そんな不穏な空気ばかりではありません。今作ではCD制作に携わる森田氏東芝EMIの仕掛けた、様々な努力の跡(だと筆者が勝手に思っているもの)も見えます。曲紹介と一緒に、今からそれを確認していきたいと思います。


まずはオープニングナンバーも務めたRunaway

01.Turn Me On / CJ CREW feat. Wayte D'arby & SAMI
02.Smoke On The Water / CJ CREW feat.The Firelighters Showgroup
05.Dilemma / CJ CREW feat.Rachel and SAMI
10.Another Way / Camilion feat.Miss D
28."Carmina Burana" - O Fortuna / THE ORFF KI ENSENBLE


Another Wayがオリジナル曲、カルミナ・ブラーナはclassical SPEED 2からの移植曲、そしてそれ以外の3曲がDancemania COVERS 01というアルバムからのセルフリミックス。


オープニングナンバーTurn Me Onの原曲は、ソウルとカリプソを組み合わせたソカと呼ばれるジャンル。「カリプソ……?」となる人も多いと思うので、とりあえずレゲエとディスコ合わせたような感じで捉えておけば大丈夫です。


そんなソカの陽気でアダルティーな雰囲気から、クールでエキサイティングなスピードダンスへ生まれ変わった当曲。

Runaway得意の高速歌詞もオマケして、元を知らずとも「なんかこの曲すごいぞ」とオーラをビシビシ感じられるアレンジとなり、原曲の人気も相まってか、その後HAPPY SPEEDへの収録も果たしました。


同じくHAPPY SPEED収録のDilemmaも、ケリーの甘いボーカル、ネリーのムーディーなラップどちらも上手くカバーされ、アレンジ元の優しい曲調すらもRunawayサウンドにより再現されています。

原曲が素晴らしいことが多々影響はしていますが、BPM170のこの2曲を聴くと「スピードダンス」というものの一種の答えが垣間見える気がします。


次はLED。今作には全SPEEDシリーズでも一、二を争う大問題児がいます。

04.Through The Fire / JUDY CRYSTAL
06.We're All Alone / JOHN DESIRE
07.9 To 5 Morning Train / Violent String Ensamble
12.Theme from Miami Vice / Extra Terror Sound


9 To 5 Morning Train、とにかくコイツに触れないわけにはいきません。
元はCMにもよく使われる超有名曲、しかしサビ知ってるけどタイトル知らない人がこのアレンジを聴いて、原曲のサビを思い浮かべられるかは"マジで0人説"ではないかと。


「なんでこんなことしたの?」としか言い様が無いのですが、明るくメロウなポップスを、何故かメロディーそのものごとマイナー調にアレンジし、原曲を完全に無視したシャープなユーロビートにしてしまいました。

オリジナル曲として考えればめちゃくちゃカッコいいので聴く分には支障がないものの、一度原曲を意識してしまうと、前作G3のSaturday Nightや恋はあせらずで見せたあの弾けるように明るいアレンジはどうしたのかと、思わずLEDに問い詰めたくなります。

もう一度いいますが「オリジナルとして考えればめちゃくちゃカッコいい曲」です。しかし有名曲の、しかもLED向きの明るい曲でこのアレンジでは、大問題児と思われても仕方ありません。

Through The FireWe're All Aloneも中々のLEDシンセ全開な暴走具合ですが、9 To 5 Morning Trainを思うと、それでもメロディーまでは変わっていないお陰で、物凄く忠実なアレンジにさえ聴こえてきます。



そんな中、SPEED刑事からの選出漏れであるマイアミ・バイスのテーマは、今聴くとサウンドに古さが見える原曲を今風のユーロビートとして爽やかにスピードアップさせた、LEDらしからぬ超正統派アレンジでお届け。

ひょっとすれば知名度の点で、ルパン三世や男の勲章にSPEED刑事のアルバム枠を譲ったのかもしれませんが、この曲をLEDに担当させた判断自体は大正解でした。

じゃあなんで9 To 5 Morning Trainは(以下略)。


そして毎度ド安定の高クオリティSAIFAM。8曲提供とやはり高水準。


03.Toxic (The Trance-Speedo Mix) / Helen
08.DIP IT LOW(Eurotrance Speedo Mix) / SPEEDMASTER
18.Don't Tell Me(Super Speedotrance) / Sheldon
22.Let's Groove / BEAT BOX feat.DJ SPEEDO
26.Spiderman / BEAT BOX feat.DJ SPEEDO
27.Wuki Wuki / Jenny Rom
29.Here I Am(Into The Speedo) / Hanna
30.Piano Concerto No.1 / SPEEDMASTER


ToxicDon't Tell MeDancemania COVERS 01からのセルフアレンジ。当時の大ヒット曲という話題性も付け加え、SAIFAM印の上質なスピードアレンジに仕上げてくれています。


Let's Grooveは当時の車のCM曲として、多くの人が耳にこびりつくレベルで原曲を聴いており、今作DJ SPEEDO名義で入るとなった時も期待値高く待っていた人が多かったであろう一曲。

果たして待っていた人たちの期待を裏切ることはなく、SAIFAMの中でも特段に爽やかなアレンジによって、G4屈指の人気曲となりました。



Spidermanの渋くもアグレッシブなカバーから繋がるWuki Wukiは、無意識のうちに頭をガンガン振ってしまうような熱狂的ブチアゲトラック。

可愛らしさとキャッチーさとノリの良さとが内包された、疑いようのない「ザ・ジェニーロム」なサウンドで、人気絶頂期だった中期SPEEDシリーズ曲をも喰らう程のパワーを持っています。


ラストナンバーピアノ協奏曲第1番classial SPEED 2からの流用だったので、もしラストナンバーに新曲を据えるのであれば29曲目Here I Amもいいですし、それこそ(かなり挑戦的ですが)Wuki Wukiをラストに持ってきても面白かったのかもしれません。


そして最後はハードコア楽曲。13曲あるハードコアの多くに共通するのが「過去」または「変化」という要素。


09.Star Tonight / DJ Stompy
11.Keep On Going / Kader feat.Bexxie
13.2001 Style / Robbie Long + Coyote
14.Champion Sound(Warped Science Remix) / Q Project
15.Pure Perfection / DJ Storm & Euphony
16.Too Beautiful / Euphoria
17.Airhead(Brisk & VAGABOND Remix) / DJ Brisk
19.Here I Am(Ham Remix) / JJJ
20.Huggermugger / VAGABOND(※CDにはInorganic Soundと誤記)
21.Sounds Legit / Brisk & Ham
23.Magical Rainbow / Darwin
24.Reason / In Effect & Impact
25.Victory / Luna-C


往年のアンセムのリアレンジや、いかにもな古いサウンドを展開させたりといった「過去」の要素。非4つ打ちのブレイクに時間を割いたり、急激な速度変化をしたりといった「変化」の要素。

この2つが合わさり、子供の頃のおもちゃ箱を久々にひっくり返した時のような……それはまるで、様々なハピコアが収録されていたSPEED初期の空気感を彷彿とさせるかのようです。


「過去」要素の一つである古いサウンドについては、Keep On Going2001 Styleが顕著でしょう。どちらも中期以降めっきり聴かなくなったピアノブレイクやレイヴサウンドが堪能でき、あえてのオールドスクール感が逆に新鮮味を与えてくれます。



また開幕1分間ほぼブレイクという類を見ない切り取られ方をしたHuggermugger、SPEED史上最高速となるBPM218を記録する速度変化曲Victoryなど、今まででは有り得ない収録のされ方をした曲も多く、その「変化」にコアリスナーもきっと驚くはずです。



「過去」要素のもう一つリアレンジは、

ジャングルの名曲がジャングルパートも活かしつつハードコアへ生まれ変わったChampion Sound(↓は特に有名なアレンジ元のAlliance Remix)



SPEED 4収録曲が本人&新人の手によって次世代のパーフェクトアンセムに進化するAirhead



遅くなる「変化」も入れながらUK HARDCORE仕様にアップデートされたSPEED 2のアンセムHere I Am(29曲目と同名ですがこっちはTriple Jの方)


こういった曲が収録され、往年の名曲を最新のサウンドで楽しめるように。


今回収録されたアーティストはStompyBrisk & Hamの常連組に、Luna-CDJ Stormなど久しぶりの曲収録となる人、そこに前作SPEEDデビューのEuphoria(VAGABOND)や、DDRerにもお馴染みDarwinなど当時の新人まで参加し、新旧のハードコアDJが並び立つ非常に豪華な布陣となりました。


森田氏やEMIがいつも以上に努力をした(と筆者が思っている)今作。SPEED初期リスナーへのアピールにアンセムリアレンジやオールドスクール感のある曲を。ヘビーリスナーには常連・新人の上質なハードコアと、新鮮な気持ちで聴いてもらえるような変わったタイプの曲を。

筆者が考えているような収録目的でないものもあるのかもしれませんが、今作のハードコア楽曲を聴いた時に筆者の頭の中に駆け巡った上記のような考えは、そんな森田氏やEMIの努力の跡だったような気がします。


またメインシリーズがリリースされていないと言いましたが、その代わりとしてなのか、EMIは今作発売の一週間前に先述の「Dancemania COVERS 01」をリリースしています。そしてそのアルバムの中で、SAIFAMRunawayがカバー数曲を担当することに。

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SAIFAMは元々メインシリーズも常連でしたが、RunawayがSPEED以外のDancemaniaシリーズに完全自前のアレンジで参加するのは初めてのこと。その上でCOVERS 01収録のToxicDilemmaなどが、同じアーティストのまま、1週間後発売の今作でSPEEDアレンジされています。

これは要するに「Dancemania曲のリミックス」をSAIFAMとRunawayに自給自足してもらった形です。

メインシリーズが前年9月からストップし、そうでなくともリミキサーを兼ねるKCPは解散。この状況でEMIは恐らく、メインシリーズとSPEEDシリーズとに再び関係性を持たせるため、COVERSという新アルバムで、擬似的に「新規SPEEDリミックス」を作り出したかったのではないでしょうか。

そこまでの計算ではなく「SPEEDの人気レーベルも参加したCOVERS 01発売!」くらいの宣伝目的だったとしても、RunawayにSPEED外のオファーをかけ、今作の発売を延期してまでCOVERSとの連携を考えていたわけですから、EMIの本気度はある程度伝わってきます。


……が、COVERSは01というナンバリングも虚しく02が出ず、結果的にこの目論見は失敗に終わりました。COVERSに限らず努力の方向性が間違っていた点があったことをいちリスナーとして否定はしませんが、それでもDancemania人気が無くなっていく中、やれるだけのことはやっていたと思います。

しかし無情にも人気低迷の流れには逆らえず、SPEEDシリーズも半年後の次作G5で本編シリーズ終了となります。こうして、色々と手を尽くしたはずの森田氏やEMIの努力は、その甲斐なく無に帰しました。


……無に帰しました、が、今作からはそれでも

「なんとかSPEEDシリーズを続けたい」
「Dancemaniaを終わらせたくない」

という確かな意志が見えます。結果として無駄だったとしても、その努力の跡はアルバムとなって残りました。

(COVERS曲を除き)3本柱もハードコアDJもDancemaniaシリーズの顛末とは本来無関係なはずなのに、そんな「SPEEDを続けたい」という意志を反映したかの如く、今作には「再起」の思い溢れる曲が数多く収録されています。


メインシリーズの疑似新規アレンジとして役割を果たしたCOVERS曲
全盛期と全く遜色ないクオリティで底力を見せつけたWuki Wuki
新旧DJによる「過去」と「変化」が織り交ぜられたハードコア楽曲たち。

明後日の方向へと行ってしまった9 To 5 Morning Trainも(これは良く捉えすぎでしょうが)なんだか「いつもと違うことをしなければ」と考えすぎた結果のように思えるかもしれません。


「再起」をかけたアルバム。その結末は残念なものでも、製作者の「SPEEDシリーズは終わらせない」という思いが結晶となり、一瞬ですが強く光り輝く作品となりました。

全体的なクオリティで言えばG2の人気は高く、派手な曲が多いG3の方が個々の楽曲の個性は際立っています。しかし、後期の中で一番「SPEEDシリーズらしさ」が表れたアルバムは、きっと今作なんじゃないかと思います。

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