名前のない木 24章 帰結編 了
因果
祖母の記憶に触れ、全てが腑に落ちた気がして驚愕の表情をしているのが自分で分かる。
昨日の夜中に作成した「これから確認するべきこと」の箇条書きのメモをカバンに入れていたのを思い出し、メモを取り出して注視する。
祖母は不思議そうな表情で私の行動を見つめている。
・台風の日、クヌギの木に死体があると、私が騒いだときの祖母の対応
・次の日、朝早くから住職が来ていて、クヌギの木を拝んだこと
・祖父、祖母に私が何を聞いても、はぐらかされてきた理由
・住職が私との接触を避けているように感じる理由
・〇〇さまの木が「実家の象徴の桜の木」になった理由
・お墓参りの順番で無縁仏のお墓を間に挟む理由
・本来は分家にあたる私のルーツがなぜ本家となったのか
――やはり
事前に私が書いていた箇条書きの疑問、
その全てが、祖母の一連の話の中で全てクリアしている。
――予測して祖母が答えている、とさえ思うほどの符合
それだけではなく、2枚目のメモ「時間を掛けて解析していきたい項目」
・私が死体の幻覚を見た理由
・その後の記憶にない異常な行動の理由
・同じ夢を十数年も見続ける理由
・父が後悔した理由
これらは「偶然の一致に過ぎないこと」を理解している
――それでも
私の中で「答え」が示された気持ちになる。
父、母、祖父、祖母それぞれが「良かれ」と思い蓋をしてきた色々な事実
その全てを語らなくてはならない状況へと、導かれた気がしてならない。
これらの出来事の中心には、必ず〇〇さまがいた
――私は〇〇さまから「継承する役目」を任命されたのではないか、
とさえ思う
私の中で終わらない暴風雨を伴う台風が
数十年の時を経てある日突然過ぎ去り
台風一過の朝に蒼天を見上げたような
晴れ晴れとした気持ちになる
―
私は祖母にお礼を言い「帰宅する時間だから」と名残惜しく祖母と別れた。
その足で花屋に向かい、花を見繕ってもらう。
花屋を出ると、花を抱えたまま手を上げてタクシーを止めて乗り込む。
小山の麓に到着しタクシーを降りると、これから色付き始める準備をしている木々、その隙間を通り抜ける爽やかな秋風を感じる。
切り立った崖を横目に、九十九折で山の斜面に張り付くような急角度の坂を進み、小山の頂上に到着する
結界を守っている入口の地蔵に手を合わせ花を手向ける
地蔵の隣にある井戸へ向かう
花を束ねている紙、茎に被せてあるアルミホイルを外す
井戸の手押しポンプを上下に動かしバケツに水を張り花を入れる
バケツを持ちながら墓の間の小道を進み「初代の墓」の前に立つ
カバンから祖母に教えてもらったお墓参りの順番が記載した紙を取り出す
図のとおりに一つ一つの先祖のお墓に「順番に」花を手向け、拝む
〇〇さまのお墓の前に立った時、
祖母との会話の最後の映像が鮮明にフラッシュバックする。
押し黙り考えごとをしている私に、祖母は下から覗きこむように見つめ、
いつもの言葉で、優しく私に語りかける
「質問の、答えになったかい?」
了
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