シルク糸と染色の話 (後編)
アトリエを設立した頃、「ツチトカゼ」と命名したのには理由がある。
自分の手で染料になる植物を植え、染めて・・・と、終始一貫して自分の手で作品を作り上げたい。そういう想いがあった。その「染め」に必要になるのが「ツチトカゼ」
天然素材を染料とする場合、多くの染料は定着や発色のために媒染という対になるような要素が必要になる。主に鉄やアルミなどで、古代から引き継がれる知恵として土や灰などが活用されてきた。そこから「ツチ(土)」
そして染めた後、色をしっかりと保存定着(乾燥)するためには十分な「カゼ(風)」が必要になる。(本当はその前に水もいるのだけど・・・)
そういうことから命名されたが、なかなか時間を作れずに種まき時期を何度か逃していた。そうして勤めて家にいなければならなかった昨年、3年越しの夢を叶えるに至った。
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初めの植物として選んだのは、日本人が遺伝子レベルで好きな色、ブルーの筆頭の蓼藍。
このブルーは酵素を用いて藍の染料を仕込む「本建て」によるもの(紺色)ではなく、生の葉を用いて染める藍特有の染め方。一見藍とは連想し難いけれども、この爽やかな色味もきっと好きな人は多いだろう。染めの工程についてはまた別の機会に。
日本人にとって特別な色の藍を用いた染色がスタートにはふさわしいと思った。
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今回の展示会で取り上げたもう一つの自然染めはさくら。
さくらの赤色の色素は開花間際の枝(皮)からしか採れないのだそうだ。小学生の時、国語の教科書で読んで以来ずっとどんなものだろうと思い続けていた。
昔からさくらは安易に枝おろしをしないことが通説とされているし、その上、開花前の枝なんて手に入るはずもない。きっと自然染めをこれから先も続けたとしても実現する日なんて来ないと思っていた。
そんな時に幸運なことに染めの師匠の七字良枝先生が特別に技術協力をしてくださって、希望のシルク糸を染めることができた。
子供の頃から憧れていたほんのり上品なさくら色。この色も日本人ならきっと生まれながらに好きな色だと思う。