たまこの左側
うちの猫のたまこは、事故による怪我の影響で、左目の視力は全くなく、右目も正常範囲の3割くらいの視野で右下の方しか見えていない。
でも、たまこは多分みんなこんなもんだと思っていると思う。同居の猫やらインコやら犬やらいるけど、多分、視野についてお互いに話し合ったことは一度もないだろう。生後2ヶ月なるかならないかの時期にこの大怪我の状態で拾われて、生死の境をさまよったけど、きっとその頃の記憶もほとんどないだろう。確かめたことはないんだけど。物心(猫にそのようなものがあるとするならば)ついた頃から、ずっとこの視野で生きてきたのだ。
そして、我が家で一番偉そうなのも、このたまこ様である。同居の猫もたまこにちょっかいをだすことはほとんどなく一目置いている感じであり、我々人間にいたっては、たまこ様に完全に下々の者たちといった扱いを受けている。卑屈な感じも悲壮感もひとかけらさえない。
そう思うと、障害とか人間でいうところのものって一体なんなんだろう。他の同種の生き物と比べるから、出てくる考えなのだろうか。もし、人間が言葉というものをもっていなければ、こうやって自分の見ている世界と他の人の見ている世界を比べることもできないし、比べようという考えもでてこないということだろうか。
たまこにとって、左側の世界はどんな感じなんだろう。左目はとても美しくもう完璧といってもいい眼球を持っているのに、その綺麗な網膜にとどいた光は電気信号となっても受け取り手である脳には届かず、ブラックホールのような神経の障害部位に吸い込まれて消えてしまう。
でも、顔の左側の皮膚はしっかり触覚があり、左耳も聞こえている。目では見えない左側の世界。何かを感じ取って、ん?と顔を左に向けると、さっきまで見えなかったところが少し見えて、またその左側が見えない。猫じゃらしもあっという間に見えない世界に消えていく。
それがたまこの左側。