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ハノイの家庭料理で思い出す、とあるヴェトナム青年のこと

牛ハチノスとパイナップル炒め、バイマックル(こぶみかんの葉)風味


大好きな師匠が教えてくださったハノイの家庭料理の店、
笑顔の素敵な料理上手マダムのアンさんが腕をふるってくださいます。

この料理はターメリックのイエローが爽やかでパイナップルとレモンの酸味が美味しく、バイマックルーの香気が鮮烈です。
鼻に抜け、弾けるバイマックルーの香りとレモンの酸味とパイナップルの甘酸っぱさが真夏のアジアの濃密な湿気と陽射しを思い起こさせます。
この料理をいただきながら思い出したことがあります。

10年そこそこ前になるある夏の暑い正午近く。
背の高い人目を惹くハンサムな東洋人青年と日本人女性2人が連れ立って歩く真夏の昼下がり。
本郷3丁目、夏目漱石の三四郎が美弥子にリボンを買った店(現・かねやす)
の並びにあるレトロ昭和な喫茶店に私たち3人はランチに入りました。

私の友人の夫であるその青年はメニューを一瞥して
カレーライスをオーダーそして何やら妻に囁きます。
彼女は頷いて店主に
「カレーにレモン片をつけられますか?」と訊きます。
店主は「え??カレーにレモンですか?」と
ハトが豆鉄砲を喰らったようなまんまるな目をこちらに向けつつも
櫛形に切ったレモンを添えたカレーを青年にサーブします。

店主にとっては衝撃的な出来事でも
青年にとっては当たり前の習慣。
嬉しそうに美味しそうにたっぷりレモンを絞ったカレーを食べる
モデル並みのルックスのそのベトナム人青年に
私もつられて思わず微笑みました。

✳︎

アンさんは静かに料理を作っています。
喧嘩しながら賑やかに料理する中国の男性や
炒めものを作ると腱鞘炎になるからと拒否する
タイ人女性シェフを知っています。
そんな主張する料理人と向かい合うとたまに疲れてしまう。
一方で静かな料理人アンさんはことさら主張するでもなく
干渉を拒むでもなく淡々としてらっしゃる。
そして時折料理へ深い愛情をかみしめるように静かに語ってくれる。
見送ってくれる照れくさそうな笑顔に心と顔がほころび
また来るね〜!と手を振りました。




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