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音に殴られながら慰められた日。


ようこそおいでくださいました〜!

この体験を何と表現しよう。

私がいるのは「音楽ライブ」だが、その常識を目の前で軽やかに潰し、再構築されているようだった。
彼の音や声、動作が日々量産される流言蜚語や怖い物から守ってくれるような、確かな安心感があった。

昨日私は長谷川白紙というアーティストの全国ツアー「HAKUSHI HASEGAWA First tour 2024 魔法学区」の最終公演にいた。

私が長谷川白紙を知ったのは半年前。
YouTubeを自動再生したまま寝落ちしていたら、今まで聞いたことがないサウンドに起こされた。
深夜1時。迫りくるドラムに間髪入れず差し込まれる裏拍。歌詞の内容は聞き取れないが日本語らしい。

本来だったら切り捨てられるであろう音が全部放り込まれたようなグルーヴに飲まれながら読み取れる情報を確認する。
声からして同世代で、名前が長谷川白紙であることしか分からなかったが、全て偽物であるような気がした。

「え、何?」

ほんの数秒で全てを掴まれた。
ちなみにその時流れたのは「口の花火」である。

今までの自分だったら知って浅いアーティストのライブに行くことはなかった。
しかし彼を知ってから(性別は公開してないが、ここでは「彼」と表記する)「行かなきゃ」と思い、今回のツアー「魔法学区」が発表された時に迷わず応募ボタンを押していた。

私が彼のライブに行こうと思った動機はもうひとつある。それは同じ98年生まれだったから。
高校時代に自分と同じ年生まれで自分より数歩前を歩く人を見に行こうと決めた。

流行りを追うだけの雑多な動画を投稿するわけでも、キラキラした衣装を身につけて踊ったり、大御所に歯向かうのでも、映画やドラマに引っ張りだこでも無い、夜中にしか開かない喫茶店の奥でとっておきの悪戯を企てていそうな人を。

条件にあてはまっていれば芸術でも、お笑いでもダンスでも、演劇でも、なんでもよかった。
ただどんな気持ちでステージに立ち、何を感じるのか、この目で見て想像したかった。
20代になれば様々なジャンルで同い年のアーティストが出てくるだろうと信じ、流れに身を任せて出会ったのが長谷川白紙だった。

音が生まれる

楽曲名は曖昧な部分があるので、パフォーマンスを中心に書いている。
ステージにはキーボードのみ。白いスポットライトが奏者不在の楽器を静かに照らしている。

開演時間は19:00。私が入場したのもジャストだったが、まだ始まっていなかった。
会場奥のバーカウンターでレモンサワーを頼み孤独なキーボードを眺める。

会場の帳が下り長谷川氏が飛び込んでくる。光が強く顔が見えない。しかしこれから凄いことが始まることは確実だった。

結論から書くと、彼のライブは再構築とインスタレーションだった。
曲と曲のつなぎも音で遊んでいるという感じで、激しかったと思えば急に止まったり、滑らかになったりと予測不明なリズムに自分の鼓動も乱れるんじゃないか不安になった。アップルウォッチが無いから確かめられない。
ライブ全体は、MCはほぼなく最後まで止まらないシームレスなものだったが、不思議と聞いてて疲れなかった。
つなぎの音も、彼が操ってるかと思えば、不安になる振動と共に音に弄ばれているように見える瞬間もあった。
しかし曲に移ると長谷川白紙の自我が牙を向く

.....違う!!

今まで顔出ししていなかったのも相まって、曲以外がヴェールに包まれていた彼だが、曲の合間で楽しそうに揺れたり、ピタッと止まったり、上下したりと様々なパターンで音に乗っていたのが印象的だった。歌いながら感情が強く出る瞬間があり「大丈夫。ここにいる」と断言してくれているようだった。

大波、小波、さざ波

ユリイカか何かでのインタビューで、長谷川白紙の尊敬するアーティストのひとりに「とたけけ」があげられた。
とたけけとは、任天堂のどうぶつの森シリーズで登場する、さすらいのシンガーである。
とたけけは作品内で喫茶はとの巣や、役場の前、地下劇場、シリーズによって様々な場所でライブを開催する。
ライブが始まるとプレイヤーはもちろん、その場にいるキャラクター全員がそれぞれのスタイルで踊ったり、リズムをとっている。

まさに今回のライブも、とたけけライブそのもので、会場にいる人たち全員が独自のリズムを繰っていた。肩を前後に揺らしたり、屈伸したり、手だけゆらゆらさせている人もいた。
ライブの醍醐味といえば、一同曲に合わせて手を鳴らしたり同じ方向に揺れたり、ペンライトを光らせるといった「行為」が浮かぶ。しかし彼は何も合図を出さず思うままに音を鳴らしているだけだった。

彼の楽曲のbpmが平均して早いから、音楽に精通していない人が全員そのリズムについていけないのもあるだろうが、観客が自由に揺れる光景を見たとき「とたけけだ」と声に出していた。
小さな画面で見ていたあの景色が、目の前で繰り広げられている。この場に居るひとりひとりにとっての「けけボッサ」が流れていたんだ。

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