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なぜ新築ログハウスを選んだのか(哲学編)


私は、地域や自然に敬意を払いながらログハウスの設計にも携わってきた。
そこには私が思う「100年住める家を建てる」哲学がある。

最近の世間の傾向として車でも家でも所有はせず借りる、または必要に応じて利用料を払うと言った考え方が増えている。(所有しないことが当たり前の世の中で、表現と継承のためにログハウスを建てた話)そんな中、質のよいものを超長期を見越して、地域や自然に対する責任を持って家を建てることに私は非常に興味があったのである。

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(画像:www.tyrol.com 築100年以上のコテージ)

100年以上住める家を立てようというマインドになると、工法や土地選びの時の優先順位が変わる。責任感が増える。しかし、家を建てるとは、元来はそういうものであったはずだ。


その土地に似合わない建物ほどかっこ悪いものはない


私たち夫婦の場合、まず「こんな家に住みたい」というよりも「こんな土地に住みたい」という気持ちが強かったため、土地探しはとくにこだわったポイントである。飯綱高原に住む前には軽井沢にも暮らしており、その時から休みの日のたびに家族で色々な場所に出かけ、住んでいる人や自然環境など足を運んでリサーチした。東京やさまざまな施設へのアクセスは、日本の場合どこに行ってもおよそ整っているので、文明からまったく離脱した生活をするのは難しいというのは念頭において行った。

 土地探しにかなりこだわった分、その土地に何を建てるかもこだわった。結果的に、ログハウスを建てることになったのだが(なぜ新築ログハウスを選んだのか 工法編)土地に似合わない建物ほどカッコ悪い物はない。ただ見た目だけの問題ではなく、その土地や地域に対するリスペクトが必要不可欠である。そのことについては次の章で述べたい。


地域に対するリスペクトとは


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(画像:www.offgridquest.com 地形や土地の歴史に最大のリスペクトをはらった住宅の例)

軽井沢に移住した際や、東京の高級住宅街などにによく見かけたのが外国風のテーマハウスだ。スペイン風のビラ風や、イギリスのレンガ風、北欧のサマーハウス風など実に色々ある。
こういう建物を建てる人は、おそらく「こういう土地に住みたい」というよりも「こういう家に住みたい」と思ってこの家を建てたのではないだろうか。
もちろんそれぞれの自由なのだが、個人的には土地に合っていないように思えるし、10年後、20年後も美しいかは疑問である。地域を美しく保ちたいというような思想や土地への愛着が感じられず、リスペクトがないような気がしてしまうのである。私の住んでいる飯綱高原は国立公園で建物を建てるときには地区の条例がある。私は家を建てるとき、何年も先のことも考えたし、ある程度値段が高くてもカッコ良く年を重ねることのできる素材を選び、土地や地域に対するリスペクトを欠かさなかった。


なぜ飯綱高原にログハウスを建てたのか?


飯綱高原に興味を持ったプロセスは、私たちらしい背景がある。まず飯綱高原に移住する3年前に、東京から軽井沢に移住した経緯がある。小さな賃貸物件に住み、東京までの通勤に慣れたり、もう少し大きめの物件にコミットする前に信州という土地について肌で感じ、知りたかったためである。また東京を出るという目的もあった。軽井沢は本当に居心地の良い街であったし、今でも好きだ。ただ1年くらい暮らしてみて、自分たちが住む街ではないことが明確になった。私たちが住んでいた3年間のうちでも軽井沢は開発され続けていたし、今なお加速している話を聞く。開発は進むが、その多くは別荘であったり、セカンドハウスである。軽井沢の雰囲気をお洒落と感じる人が多いのだろうが、欧州での生活が長い私にとっては欧米っぽい雰囲気が所々ある町でしかない。人々が余暇を楽しんだり、非日常を味わう場所で、実際に腰を据えて生活するには必要な要素がいくつか欠けていた。食や買い物に関しては便利だが、子育てや地元コミュニティーとの相性という意味では私たちには適していなかったのである。子育てに必要なインフラ、住民と観光客の関係性対策(慢性的な混雑対策や、土地開発に対するポリシーなど)も皆無だった。

そんな事情に気がついてからは、頻繁に長野の他の土地へと視察するようになった。さまざまな場所を彷徨ったが、飯綱高原を選んだ理由がいくつかある。

・まずは、東京へのアクセス。これはかなり重要な要素であった。田舎に引っ込み、農業などをはじめる目的の移住ではないので、東京や日本各地、海外へのアクセスは大変重要だった。飯綱高原は長野駅から車で20−30分なので、アクセスは非常に便利とは言えないが、その程度の移動時間は確保できる。

・次は地元コミュニティに参画するハードルの低さである。移住で直面するハードルの高さで一番高いと思っていたのが、既存コミュニティーへの参加である。あまりにも閉鎖的なコミュニティーに、新参者が参画するためにものすごいたくさんのエネルギーを消費したくなかった。飯綱高原の住民はほとんど移住者なので、新参者が地元コミュニティーに参画するハードルは低めだと感じたことが決め手となった。

・最後は、自然に対するリスペクトをものすごく感じるエリアであることである。飯綱高原の大半は国立指定公園で、無謀な開発はできない様になっている。山や自然が好きな人で形成されているコミュニティーがあることも決め手の一つとなった。

このような理由から飯綱高原を選ぶに至ったのである。こちらのブログ(北信移住2年経過ー具体的な移住イメージとしてー)にも飯綱高原に住んで2年の所感をまとめているので目を通していただければと思う。


100年住める家を建てる哲学


私は欧州での生活が長かったせいか、家は100年以上使うのが当たり前という考え方を持っている。気候などの違いのせいというのもあるけれど、ヨーロッパはめったに新築が建たない。古い家をリノベーションして使うことが当たり前という文化がある。今の日本にある新築住宅の多くは、循環型ではないし、持続性がなく20−30年の寿命を前提とした流行り重視なものが多い。賃貸物件は地域や自然に対する責任を持って建築されたかを知る機会はほぼないと言っていい。実際、地域や自然に対するリスペクトはないケースがほとんどである。


設計のイメージの作り方

新築の設計プロセスはハウスメーカーや建築士によってさまざまなやり方がある。ただデザイナーハウスのように、まったく丸投げする様な想定はしていなかったため、設計プロセスも自分たちで行い、こだわり抜いた。私たちの生活パターンや家族全員のニーズなどを理解できる建築士がいれば、彼らにもう少し頼るという選択肢もあったのかもしれない。

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ここで役立ったのはfloorplanner.com というサイトである。もちろんCADが使えるのであれば、そちらをお勧めするが、以前も何度か使っていてかなり気に入っている。どんなハウスメーカーでもおそらく、最初は施主のイメージを掴んでくると思う。部屋数のイメージや、床面積、屋根の形、水回りの位置などラフでいいので決めておくと決定する際に役立つ。私たちの家のように自然公園法や、地区の条例などが厳しいところでは、土地の中でも建てる位置を決めないと、形状や面積が決まらない場合もあるためこのサイトはイメージを掴むのにかなり重宝した。

地域や自然と共存する設計


設計は土着文化とかなり密着した部分である。自然公園法や地区の条例を加味し、設計をする必要がある。まず家の中心から考える必要があった。豪雪地帯なので、ストーブが必要不可欠で、熱効率を考えるとできるだけストーブは家の中心になるからである。暖気がどう循環するかを考えると、吹き抜けと、薪を外から運び込む動線も確保する必要も出てきた。頻繁に使うキッチンとお風呂場の関係性もリサーチを重ねた。

豪雪地帯ということもあり、多くの事項が自然公園法で定められている。そのうちの一つが屋根の勾配だ。平たい屋根は許可が下りないのでかなりの勾配で作るが、雪を落としたいのか、雪は乗せたままにするのかによって各部屋の形状が変わる。この判断は、地域の降雪量や雪質に詳しい地元の意見などを取り込む必要がある。リサーチの結果、この地域に住む人たちは、ほぼ雪を落とす設計をしていることがわかったのでそのように設定をした。これが超豪雪地域(ここからそれほど遠くはない)になると、危険なので雪は落とさない勾配が設定される地域もある。


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(画像:著者の自宅)

私の専攻は機械工学で、もしかしたら自分の教育がムダだったかもしれないと思っていたのだが、自分の家をデザインしたことで、流体力学、熱力学、物理学、材料工学、それからデザインのセオリーなど思い出しながら考えているとムダではなかったと思えた。また何より楽しかった。ただその分思い入れがかなり強いプロジェクトになったので、ハウスメーカーさんとはよく衝突したのも事実である。


なぜその家なのか胸を張って語れるような家に住みたい


多くの人にとって、住む家は思想の表現である。何年も、もしかすると一生その空間で暮らすかもしれない。綺麗か綺麗でないかとはよりも、「なぜその家なのか」胸を張って語れるような家に住みたい。そんな人は多いのではないだろうか。

結婚、子育て、起業など人生の中で何度も起きないことを経験してきているが、その中でも「自宅を建てる」ことは、自分たちのあり方についてかなり深く考えなければいけないことで、よい経験になった。もし皆さんも自分の住処について考えているうちにこのブログにたどり着いたのであれば、思想に豊かさを彩り、刺激を与えてくれる自然、人、街のなかで 5年後、20年後の自分を想像しながら家を建てる、そのような経験を皆さんにもぜひしてもらいたいと心から想う。


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