やまに住みたい
と、思って、何ヶ月も何ヶ月も空き家を探していた。
にわとり飼ったり、朝からイノシシ撃ちに行ったり、少しでもやまのそばでそんな暮らしをしてみたいと淡い夢を抱えて、いくつもの沢沿いの集落をまわった。
色々と出会いはあったし気に入った物件もあったけど、先に買われてしまったり物件が建っている場所が実は土砂災害特別警戒区域だったりと、中々決まらず。
そんな状況に少し飽き始めていた九月の終わり。
山あいにある射撃場で手詰めの装弾を試し撃ちに行った。
射撃中、月子は暇なのでいつもその辺をフラフラとしている。
この日もいつものようにフラフラとしていた。
射撃を終えた頃、戻ってきた月子が「ある空き家を見つけて覗いていたら、(←かなり怪しいやつ)隣に住んでるおじさんが、その家なら売りに出してるよって言ってきた」
と言う。しかもステキなおうちで、値段も安いときた。
帰りに寄ってみると、なるほどおしゃれな外観だ。
広いウッドデッキが特徴的な山小屋風!
でもそんな安い家には見えなかった。敷地も広いし、家もそれほど古くない。隣のおじさんに挨拶をして話を聞くと、持ち主は病気を患って街へ引っ越したらしい。こんな不便な場所だから誰も買ってくれないだろうから安くても売りたいとの事だった。
さっそく持ち主に連絡を取った。
すると名義は娘さんになっていると言う。
今度は娘さんと話した。
買いたいとの旨を話すと、喜んでいた。
内覧したいと言うと、片付けもしたいので一月後にどうですかと提案された。
そして一月後。
あの台風19号がやってきた。
その物件が建っているすぐ横には川が流れている。
そしてテレビではその川の名前が出ている。
あれれ…?
濁流が土手を乗り越え、町中を水浸しにしていた。
あらら…?
すると娘さんから電話がかかってきた。
「だ、大丈夫ですか?なんか大変なことになってますけど」
「うち(街なか)はギリギリ大丈夫でした!でもやまの家までの道路が土砂で埋まっているので、来週でもいいですか?」
「い、いいですよ」
ものすごく心配になった。
月子が物件のお隣さんに電話してみると「大丈夫だぁ〜」と志村けんみたいに呑気な答えが返ってきた。
一週間後。
街中は水は引いていたけど泥だらけ。復興支援と書かれた自衛隊のトラックが行き来している。
沢沿いを上がっていくと道が崩れていたり、土砂崩れのあとが生々しい。
物件の数キロ手前では橋がMの字に折れ曲がっていて通行ができなくなっていた。
回り道をしてたどり着いた。
持ち主である娘さんはまだ若く、旦那さんとお子さんと3人で片付けをしていた。
隣のおじさんが言ったように、ここの集落は大丈夫だった。なんの被害も受けていない。
中を見せていただくと、予想以上にキレイだ!
しかも薪ストーブもある!田舎暮らしでやりたいことナンバー3ぐらいのやつだ。(←個人的なランキング)
恐る恐る値段を聞くと、こちらの予算金額(←めちゃくちゃ安い)とぴったりだった!
聞くと、最初に問い合わせをしてきたのが我々で、その後に別の方が問い合わせをしてきたけど、最初にきた私たちに譲りたいと言う。もちろん売ってくださいとお願いをして、物件売買にお互い合意した。
あとは自営業者で所得が低い、おまけにマンションのローンが残っているこの僕にお金を貸してくれるところがあるのか?そこだけが不安だった。
結論を言えば、貸してくれそうなところはある。実際どうなのかはわからないけど、それは次回のお話。
とにかく山暮らし、田舎暮らしに一歩近づいたことでテンションは上がりっ放し!
しかし数日後からはモヤモヤが続く、しんどい日々が待っていたのだった。
↑田舎暮らしでやりたいことナンバー3ぐらいのやつ↑