鹿狩り
移住を始めて3週間が経った。
先週は2年半住んだアパートを引き払い、引っ越しは終わった。
猟期は11月15日から始まっているが、今期は1度しか出猟していない。
しかもボウズである。
仕事もかなり忙しいが、気分転換にと山の散策にでも出かけようと朝早く、銃を担いで玄関を出た。
と言っても家の前にある里山だ。
五分後。
杉山の急斜面の上方70メートルから警戒音が聞こえる。
霧がかっていて見えにくいが、真っ白な鹿のケツが見える。
静かにゆっくりと、まっすぐ伸びる杉の木の影に隠れながら近づいていく。
絶対に外さない距離まで近づくと、あらためて6倍のスコープを覗き込む。
幼い鹿の顔がこちらを興味深く見つめている。
その子鹿の首に照準を合わせて引き金を絞った。
耳を擘く爆音に驚いて走り出す親鹿。
子供は崩れ落ちた。
近づくと何が起こったか理解できず、横たわりながら、僕の顔を見ながら、足をパタパタとさせている。弾丸は喉の中心を貫いていた。
腰に差したナイフを抜き、迷わず鎖骨の間から心臓めがけて刃を滑り込ませる。
ギャンという声とともに、一瞬体が大きく弾けた。
刃傷からは蛇口をひねった水道のように真っ赤な血液が注ぎ出て、瞬く間に真っ黒だった目ん玉から魂の灯が消えていくのが見て取れた。
その小さい体は両手で簡単に持ち上げられた。
とは言え持ち上げて移動すると1分が限界だ。
腕がパンパンに張ってくる。
10分後。
ウッドデッキの梁にロープをかけて吊り下げたハンガーに獲物をかける。
腹を裂くと、草食獣特有の大きい胃袋と腸が飛び出てきた。
肛門の周りを小さいナイフでくり抜くと、内臓はずるりと地面へ向かって溢れ出る。
皮を剥ぎ、首と足の先を落とした。
腕を取り、脚を取り、肋を切り落としていく。
肋骨は目にそって刃を入れれば簡単にはずしていくことができる。
そうやって、あの子鹿はあっという間に冷蔵庫の中に肉として吸い込まれていった。