見出し画像

キーン

9月某日 高円寺@無力無善寺
ミカミ
キュウ
勝又

行くライブは厳選しなくてはならないのが地方に住む者の宿命だと思っていて、できれば私はやみくもに、限りなくカジュアルに、コンビニで水を買うくらいの気持ちでライブに行きたいのが本当のところ。
全てには行けないけど、中でもこれは必ずというライブが数ヶ月に1本くらいのスパンで登場するが、この「キーン」もそうだった。
とても楽しみにしていて、実際とても面白くて、本当に行けてよかった。


無力無善寺、ステージの背景。寺ではなくライブハウス

会場へ向かったが、地図を見ていたのに道を数本間違えてしまい、かなり焦った。定刻に入場するのを諦めて少し遅れて到着したら、入り口で魔人が待っていてくれた。
ライブが始まってしまうと途中で人が入ることが不可能なくらい客席はぎゅう詰めで、だから全員揃ってからの開始にしてくれたのだと会場に入ってわかった。客が静かに待機していて、真ん中あたりにキャンプ時に使うようなイスがひとつだけ空いていた。
開演は私待ちだったようで、心底申し訳ないと思った。
ここ最近は、初めて行く会場へ迷わず到着できることが多かったので調子こきました。

各々のネタ後、50分くらいトークというぜいたくな内容だった。
この3組の共通項はタイタンだ。
ミカミは、コンビの成り立ちや、近況、今後の動向。
キュウは、ふたりの出会いなど。
今、ミカミはサンミュージックの養成所のようなところへ通っているそうだ。フリーでいるよりは、どこかに所属した方が、芸人として動きやすいのだろう。エルシャラカーニの清和さんもいるし、ミカミにとって何か良いことに結びつけばいいなと思う。
この日のミカミの漫才は、今までより何かが少し突き抜けていた感じがした。お誕生日のケーキ、というワードがポップな感じがして聞きやすかった。
キュウは既に、ひとつの漫才のジャンルのようなものだと思っている。言葉使いやたっぷりあける間でおかしさは増していて、目前で見ると清水さんの表情は細かく変わっていてよりおもしろかった。いつも思うが、外見のノーブルで静謐な感じが、たまらなくいい。

やはりM-1GPには出たい、という話から、キュウのぴろさんからそれについてアドバイスを聞けたことは興味深かった。
M-1はみんな、ただ出てるわけでもなく、おもしろければ出られるってわけでもないから、服装とか個人名とか、人から注意される要素は排除していったほうがいいということだった。理不尽だと思うけど、そんな部分で落とされるのはしゃくだし、指摘されてからよりも、今から直せるならその方がいいじゃん、みたいなことを言っていた。
聞いて思い出したけど、数年前Kproライブで見ていたモグライダーのともしげさんは、いつもヨレヨレのTシャツに、はだしでステージに立っていた。今ではすっかり赤いジャケットはトレードマークだ。
無論、ごきぶりは改名した方が、ということだった。

今年のはじめころ、TBS情熱大陸に華丸大吉が出ていた。
MCを務めるNHKの情報番組あさイチが始まる前、毎朝楽屋でフェイスパックをするらしい。
大吉先生は「今の時代、おじさんだからやらなくていい、じゃないんですって。芸人もこういうところ見られてるらしいです」と言っていたのを思い出した。
より身ぎれい、小ぎれいにしていることが、かなり重要なのだ。
大NHKと比較することではないかもしれないが、確かに今は劇場でも、だらしない格好や無精髭とか清潔感なさそうな芸人はほとんど見ない。メディアはそれは良くないとしているから、M-1などもそのへんが審査基準になっているのだろう。
それもわかるし、実際に小綺麗な方が良いに決まっているとも思う。
その反面で、個人的には、芸人風情みたいなのも雰囲気としては良いなと感じたりもする。
きれいすぎて、画一化になってしまうのではないか?と少し思った。
そこはネタで勝負しろ、みたいなことなのだろうか。
ていうか芸人風情みたいな雰囲気の人ってなんだよと自分で打ってて思った。ただのファッションということでもない。
このへんについては、もう少し色々と考えてみたい。

勝又のネタを見られたのは貴重だ。
活動していた当時の宣材写真は、モノクロで2人が顔をかなり近づけている構図で、なんとなくとがっているようなイメージだったが、トークを聞くと温和な感じがにじみ出ていた。コントは力士の心の声、みたいな内容だった。
お兄さんはタイタンで構成作家をしており、弟さんはこの日、ネタをするために群馬から車で来たそうだ。
「群馬の方に帰る方いたら、乗せて送って行きますよ〜」と言っていたが、私はマジで送って欲しかった。

会場の無力無善寺を出て、入り口の写真を撮ってから高円寺駅に向かい歩きだしたところ、この高円寺ストリートと呼ばれている高架下は、映画「ちょっと思い出しただけ」の中で、伊藤沙莉と池松壮亮が踊っていた場所だと気づいた。
入る時は急いでいたから全くわからなかったが、この通りで、出会ったばかりの二人が無邪気にダンスするシーンだった。
私はあの映画を見て激烈に泣いたことを思い出して、帰りの道のりはものすごく悲しくなった。
ゆっくり歩いて、楽しかったライブの余韻に浸りたいのに、この通りを早く抜け出したいような、かなり複雑な気分で駅まで歩いた。
それと同時に、会場から出てきた女性2人が、私の前を歩いていた。確実に見たことのある人だったので、誰なのかを思い出したくてじりじりした。
改札を通り、駅のホームに着いてじっと見ていたら、パッと思い出してすっきりした。養成所ライブで見たミシンガサのノギ尾さんと、クラゲXみたいな名前の人だった。
自らちょっと思い出したいことに限って、なかなか出てこないのだ。

何気なくポケットに手を入れると、入場時にもらった紙のドリンクチケットがあった。飲みもののことも忘れて、私はライブを楽しんでいた。